人工授精で妊娠するためのホルモンバランス | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

これまで、人工授精で妊娠するためのホルモンバランスについては、はっきりとした見解を示す論文がありませんでした。本論文は、CD3(生理周期3日目)でのFSH>10かつE2>40の場合には、人工授精での出産がほとんど見込めないことを示しています。

Fertil Steril 2014; 102: 1331(米国)
要約:米国ボストンのグループは、FASTT(21~39歳、503名)とFORT-T(38~42歳、154名)というRCTスタディーを実施しています。この中から、CD3でのホルモン値と人工授精による妊娠•出産の関係を調査しました。CD3のFSH<10、E2<40(1A群)、FSH<10、E2>=40(1B群)、FSH 10~15、E2<40(2A群)、FSH 10~15、E2>=40(2B群)の4群に分類しました。2A群と2B群(FSH 10~15)はキャンセル率が有意に高くなっていました。2B群では人工授精の出産は全くありませんでしたが、体外受精での出産率は33%でした。2B群の場合に人工授精で出産できない可能性についての特異度と陽性的中率はともに100%でした。

解説:人工授精による出産が見込めないという線引きをした報告はこれまでに、35歳以上の女性でCD3のFSH>24の場合、38歳以上の女性でCD3のFSH>13かつE2>80の場合、CD3のFSH>16.1の場合などがありました。本論文は、FSHおよびE2の上限をどこに設定するかについて、これまでで最多のRCTスタディーで検討したものです。本論文は、CD3でのFSH>10かつE2>40の場合には、人工授精での出産がほとんど見込めないけれども、体外受精では出産が可能であることを示しています。このような方は、早めの体外受精へのステップアップが望まれます。

米国生殖医学会(ASRM)では、出産率が1%未満の治療は「意味がない」ものと定義し、このような治療は倫理的にも正当化されないとしています。何歳までどの治療をするのかについて議論する場合に、多数の症例をまとめたRCTスタディーが必要です。本論文は、人工授精での妊娠が望めない方にひとつの境界線を引いたものであり、このような前方視的研究が進むと、不必要な治療を避けることができます。