子宮腺筋症核出術のメリットのある方は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

子宮腺筋症核出術は、未だ保険適応になっておらず、限られた施設でのみ行われています。本論文は、手術の目的が妊娠である場合に、39歳以下では子宮腺筋症核出術により妊娠率の改善が期待できますが、40歳以上の方では妊娠率の改善が期待できないことを示しています。

Fertil Steril 2014; 102: 802(日本)
要約:2007~2012年に、子宮腺筋症核出術を行った妊娠希望の102名を対象に、術後に妊娠したかどうかを後方視的に検討しました。40歳以上の方と比べ(3.7%)、39歳以下での妊娠率(41.3%)は有意に高くなっていました。術後の妊娠率に寄与する因子として、体外受精実施暦ありで6.22倍に増加後壁の腺筋症で0.18倍、加齢で0.77倍に低下しました。若年者かつ体外受精実施暦のある方に限ると、60.8%で妊娠が成立しました。内膜と筋層の境界が保たれる場合もそうでない場合も妊娠率は変わりありませんでした。また、2例で癒着胎盤が生じました。

解説:子宮腺筋症は、子宮内膜症が子宮筋層内に生じたものです。その原因や成因は不明です。MRIや超音波の精度が高くなったため、あるいは診断率が向上したため、あなたは「子宮腺筋症」ですと言われる機会が増えています。しかし、子宮腺筋症核出術を実施した際の効果については賛否両論あり明らかではありませんでした。本論文は、子宮腺筋症核出術の目的が妊娠である場合に、39歳以下ではメリットがあり、40歳以上ではメリットがないことを示しています。また、体外受精実施暦のある方で術後の妊娠率が良いということは、着床に腺筋症が影響していたことを示唆します。

子宮腺筋症には、子宮内膜から筋層へ浸潤するパターン(内膜と筋層の境界が保たれない場合)と、子宮の外から筋層へ浸潤するパターン(内膜と筋層の境界が保たれる場合)があります。後者の場合により内膜症が重症であることが知られています。しかし、この点に関しては、術後の妊娠率に有意な関連を認めませんでした。一方、後壁の腺筋症では有意に妊娠率が低下していました。マウスでは腹部側に100%着床することが知られていますので、着床のプロセスに重力が関係するのではないかと考えられています(四足動物では腹部が下側になります)。ヒトの着床部位が前壁と後壁でどちらが多いのかは明らかではありませんが、仰向けに寝ている状態では多くの場合に子宮の後壁が下側に位置します。二足歩行の際には子宮が前屈か後屈かで上下関係が異なります。証拠は不十分ですが、後壁の腺筋症で妊娠率が低下することは、ヒトでは後壁に着床する確率が高い可能性を考えさせます。着床期の過ごし方に一定の見解はありませんが、個々の子宮の位置関係に基づいた最適なポジションがあるのかもしれません。