体外受精により出産したお子さんの癌のリスク | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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体外受精により出産したお子さんで、癌のリスクが増加するのか否かについては、一致した見解が得られていませんでした。本論文は、北欧4カ国のデータを調査したところ、小児癌のリスクは体外受精でも自然妊娠でも変わらないことを示しています。

Hum Reprod 2014; 29: 2050(スウェーデン)
要約:1982~2007年に、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルゥエイで出生したお子さんのうち、体外受精による91,796名と自然妊娠による358,419名を後方視的に追跡調査しました(Committee of Nordic ART and Safety: CoNARTaSスタディー)。なお、癌のデータベースは、国家の登録制度を用いて行い、平均追跡期間は9.5歳です。全体の癌の罹患率は、両群間で有意差を認めませんでした(体外受精0.20%、自然妊娠0.18%)。最も多い癌は白血病であり0.062%でしたが、これにも両群間の有意差はありませんでした。

解説:体外受精により出産したお子さんの癌のリスクに関する論文を調べてみると、2005年のメタアナリシスでは増加しないことが、2013年のメタアナリシスでは有意に増加することが報告されました。また、コホート研究では、2010年のスウェーデンの研究(26,692名)では有意に増加することが、2013年の英国の研究(106,013名)では増加しないことが報告されました。本論文は、これまでで最も大規模な調査であり、お子さんの癌のリスクは増加しないことを示しています。もともと小児癌のリスクは極めて低いものですので、数多くの調査をすることによって初めてその実態が明らかになります。そのような意味で、本論文は重要なデータを示しています。

早産、胎児奇形、染色体異常の場合に小児癌のリスクが高いことが知られています。これらのリスクは、単胎妊娠であれば、体外受精でも自然妊娠でも変わらないため、両者の小児癌のリスクが変わらないのではないかと推測されます。