Q&A221 ポストフィナステリド症候群(PFS)について | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q フィナステリド(プロペシア)の分子量が372に対して、デュタステリド(アボルブ)の分子量は528であり、デュタステリドは「血液脳関門」を通りくく、脳内には作用しにくいと思ったのですがどうでしょうか。アボルブの方が脳への影響は少ない可能性はありますか。

A 2013.12.11「☆ポストフィナステリド症候群(PFS)」に記したように、PFSはフィナステリドのみならずデュタステリド服用後にも同様な現象が認められますので、結果的に血液脳関門を通過していると思います。

血液脳関門(blood-brain barrier, BBB)は、血液と脳組織の間の物質交換を制限する機構です。最もよく知られているのは、「糖は血液脳関門を通過できるが、脂肪酸は通過できないため、脳のエネルギー源は糖である」というものです。また、アルコール、カフェイン、ニコチン、抗うつ薬などは、血液脳関門を通過できます。

かつては、分子量500を超える物質は血液脳関門を通過できないとされていましたが、脳細胞膜のタンパク質が、脳から血管へ物質を積極的に排出していることが明らかになりました(Cell 1994; 77: 491)。つまり、血液脳関門は物質の大きさで通過できないのではなく、排出するものとしないものを区別する仕組み(選択的排出機構)が備わっていることになります。つまり、脳にはフィナステリドもデュタステリドも排出する機構がないのではないかと考えます。

また、脳に炎症が生じると血液脳関門の機能低下が起き、本来脳内には入らないとされていた物質が入り込むことが知られています。これも、「選択的排出機構」の機能低下という考え方をすれば簡単に納得できます。