☆夫リンパ球免疫療法 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

最近、患者さんからの質問が多いので、夫リンパ球免疫療法について時系列にしてまとめてみました。

①Lancet 1985 Apr 27; 1(8435): 941(Mowbray)
要約:二重盲検試験による生産率は、夫リンパ球群 77%(17/22)、自己リンパ球群 37%(10/27)と有意差を認めました。

②Am J Reprod Immunol 1994; 32 :55(多施設共同研究)
要約:夫リンパ球免疫療法によって1.16~1.21 倍に生産率を上昇させ、この治療の恩恵を受けるのは8~10%の方です。しかし、どのような方に有効かを識別する方法がありません。

③Lancet 1999 Jul 31; 354(9176): 365(Ober)
要約:無作為二重盲検試験による28週以上の妊娠継続率は、夫リンパ球群 46%(31/68)、生理食塩水群 65%(41/63)と逆に無効であるという有意差を認めました(妊娠継続率0.45倍)。

④Int Immunopharmacol 2004; 4: 289(Pandey & Agrawal)
要約:合計124名の無作為二重盲検試験による生産率は、夫リンパ球群 84%、自己リンパ球群 33%、第三者リンパ球群 31%、生理食塩水群 25%、無治療群 44%と有意差を認めました。

⑤Cochrane Database Syst Rev 2006 Apr 19; (2): CD000112
要約:免疫療法に関する20論文を分析したところ、生産率のオッズ比は、夫リンパ球 1.23倍(12論文、641名、信頼区間 0.89~1.70)、第三者リンパ球 1.39倍(3論文、156名、信頼区間 0.68~2.82)と有意差を認めませんでした(信頼区間が1を挟まない場合、有意差ありとなる)。

解説:夫リンパ球免疫療法は、移植手術の前にドナーの血液を輸血すると移植臓器が拒絶されにくいという事実をヒントに考案されました。受精卵も半分は他人の遺伝子が入った臓器という考え方ができるからです。①1985年以降に不育症の画期的な治療として広く行われていましたが、②1994年にその有効性を世界的規模の調査により検討したところ、極めて限定的な効果であり、どの方に有効かを選別する方法がないことがわかりました。③1999年に逆効果であるという論文が報告され、そのデータを加えると、夫リンパ球免疫療法の有効性が消失しました。夫リンパ球免疫療法は、広い意味で輸血と同義の治療であることから、安全性と有効性を考慮した結果、2002年に米国FDAで禁止となりました。その後、夫リンパ球免疫療法に関する論文が激減し、世界的に徐々に治療が行われなくなりました。日本ではいくつかの施設で行われている他、世界では時々小規模な研究(④など)が発表されていますが、いずれも全体の有効性を証明するには至っていません(⑤)。

私は、慶應義塾大学病院の不育症外来を担当していた1990年代前半に、多くの方に夫リンパ球免疫療法を行っていました。確かに効果のある方が多かったのですが、この中にはプラセボ効果の方も多く含まれていたのだと考えています。⑤2006年のCochrane Database Syst Revの結果では、有意差はありませんが、オッズ比は1.23倍となっていますので、1~2割程度の方には有効なのだと思います。どのような方に有効なのかを見つけるのがキーポイントになると思いますが、その方法はまだ見つかっていません
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