☆☆卵子凍結はどうやる? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

凍結技術が急速に進歩しているため「卵子凍結」が現実的なものになってきました。メディアで発表されたように、日本生殖医学会では、医学的卵子凍結や社会的卵子凍結に関するガイドラインが作られようとしています(現在パブリックコメントを求めている状況です)。

もし、軽い気持ちで「卵子凍結してみよう」と思っておられるとしたら、実際の方法を知ると、卵子凍結にはいくつものハードルがあって、そう簡単ではないことがわかるはずです。ハードルの高さがわからないと、大きな誤解を招く可能性があります。外来でのお問い合わせも最近多くなっていますので、「卵子凍結」について、最新の論文を紹介しながら解説したいと思います。

卵子凍結まで
1 卵子凍結時に40歳未満が望ましい(学会のガイドライン)
2 採卵までに毎日ホルモン注射が必要(少なくとも1週間)
3 毎日の注射は、自己注射が行われることが多い
4 採卵は膣から超音波で見ながら卵巣に針を刺して卵子を採取(局所麻酔、静脈麻酔)
5 卵子の袋(卵胞)に必ず卵子があるわけではない(採卵率70~80%)
6 採取した卵子が全て凍結できる成熟卵とは限らない(成熟卵率70~80%)
7 凍結の際に卵子の周りの細胞を除去する必要がある
8 凍結した卵子は半永久的に同じ状態で保存可能

卵子を使用する時
1 卵子融解時(使用時)に45歳未満が望ましい(学会のガイドライン)
2 受精には顕微授精が必要(周りの細胞を除去した卵子は自然の受精ができないため)
3 凍結融解操作後の卵子の生存率は90%程度
4 全ての卵子が受精するのではない
5 全ての受精卵が移植できるのではない
6 一人のお子さんの誕生に必要な凍結卵子数は、卵子凍結の年齢別に現すと下記となる
  25歳 7~19個
  30歳 9~20個
  35歳 13~33個
  40歳 17~45個

*「卵子を使用する時」の3~6の根拠は下記のメタアナリシスから
Fertil Steril 2013; 100: 492
要約:2003~2010年に発表された10論文、1805名、2265周期のメタアナリシスを行いました。卵子の生存率は、緩慢凍結法が65%(55~80%)、ガラス化法が85%(68~89%)であり、受精率は、緩慢凍結法が74%(65~84%)、ガラス化法が79%(71~85%)でした。緩慢凍結法よりガラス化法での生産率が約2倍有意に高くなっていました。平均5個の卵子を融解し、3個顕微授精ができ、2個移植できています。この場合、ガラス化法を用いると、25歳、30歳、35歳、40歳で凍結した場合の生産率はそれぞれ、20.7%、15.9%、12.0%、9.0%でした。ガラス化法で単一胚移植の場合には、25歳、30歳、35歳、40歳で凍結した場合の生産率はそれぞれ、13.0%、9.7%、7.2%、5.3%でした。25歳、30歳、35歳、40歳で凍結した場合の融解卵子数1個あたりの生産率はそれぞれ、5.2~14.0%、4.0~10.7%、3.0~8.0%、2.2~5.9%でした。

Fertil Steril 2011; 96: 277
要約:2008~2010年に発表された5論文(上記と異なる)の卵子の生存率は、緩慢凍結法が61~65%(卵子361個)、ガラス化法が74~96%(卵子4282個)でした。妊娠率はガラス化法で38~65%でした。融解卵子数1個あたりの妊娠率は5.2%でした。

解説:ここに紹介した論文はすべて外国のデータであり、日本のデータは含まれていません。これまで日本では学会が卵子凍結についての明確な意思表示をしなかったためと、凍結した方も実際に使用するには至っていないことがほとんどであるため論文として発表されにくい状況です。一方、外国では、多くの場合卵子凍結はドナー卵子の際に実施されています。ドナー卵子は使用することが前提にありますので、多くの症例が蓄積しているため論文として発表されます。

凍結技術は日本が最も進んでおり、胚の生存率は99%、卵子の生存率も90%以上です。世界より5年先をいっていると考えられています。実用化が可能なレベルになってきたわけですが、上記のハードルを越えて初めて成り立つものです。上記のデータは、あくまでも外国の場合ですので、実際の数字は日本ではもっと良いと思います。

*現在研究段階の「卵巣凍結」が実用化されるにはしばらく時間がかかると思われますが、もし「卵巣凍結」が実施できるようになると、「卵子凍結」で越えなければならなかったハードルがかなり低くなるでしょう。一方で、新たなハードルも生まれます。

卵巣凍結まで
1 注射は不要だが、卵巣摘出に腹腔鏡手術が必要(全身麻酔、入院必須)
2 凍結した卵巣は半永久的に同じ状態で保存可能

卵巣を使用する時
1 卵巣移植に腹腔鏡手術が必要(全身麻酔、入院必須)
2 移植後にホルモン注射が必要なことがある
3 必ずしも卵胞が育つとは限らないが、育てば自然妊娠も可能
4 移植後ある期間が経つと卵子が無くなるため、繰り返し卵巣移植の手術が必要

下記の記事も参考にしてください。
2013.8.15「☆癌が見つかり妊娠の可能性を残したい時」
2013.9.3「☆卵子凍結 」
2013.9.8「☆ガラス化法の安全性」
2013.9.16「卵巣凍結の進歩」