☆コミュニケーションスキルの向上は医師〜患者関係を良好にする | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

世界は広いと思うのは、このような論文を目にした時です。医療におけるコミュニケーションスキルの重要性は日頃感じるところですが、本論文はそれを実際に証明しています。

Fertil Steril 2013; 99: 1413(スペイン)
要約:不妊診療の現場で心理学の「傾聴共感スキル」を学ぶプログラムを取り入れ、その前後で患者満足度を調査しました。13名の医師について、2146名の初診の患者さん(スキル前1281名、スキル後895名)に評価してもらいました。「傾聴共感スキル」プログラムは、心理学的知識、コミュニケーションスキル、社会性、傾聴、共感そして実践講座の合計14時間からなります。患者さんは、医師の情報提供がよかったか、専門的知識があったか、話の流れや躍動感があったか、充実した時間が過ごせたか、良好な医師~患者関係が築けたかの5項目を評価します。「傾聴共感スキル」を学ぶ前の評価と比べ、「傾聴共感スキル」を学んだ後の患者さんの評価は5項目全てで高くなっていました。

解説:不妊症には心理的な側面が多々みられることはよく知られています(「心理的要因」のコーナー、特に2012.11.24「心のケア(心理サポート)の必要性:女性編 」2012.11.30「心のケア(心理サポート)の必要性:男性編 」をご参照ください)。特に初診の時が重要で、初診時の対応により約半数がその後の通院をやめてしまうという報告もあります。そこで、欧米では不妊外来を担当する医師は、コミュニケーションスキルを中心とした心理学の知識を備えることが重要と言われています。「傾聴共感スキル」には、理解することと行動することが含まれますので、ただ傾聴するだけでは不十分で、医師の態度や説明のしかたも重要です。

日本の医学部では、コミュニケーションスキル教育はほとんど行われていないように思います。もちろん心理学や精神科ではそれを学びます。本来、医師のスキルの筆頭にあっても良いとも思われるコミュニケーションスキルを学ぶ機会がないのは寂しい限りです。スキルなどというと、誤解を招くかもしれませんが、「話が上手か下手か」で大きな違いが現れるのはどの世界でも共通です。学べないのであれば、もともと備わった能力ということになりますが、学ぶことによっていくらでもスキルが身に付くとすれば、学ばない手はありません。コミュニケーションスキルは、医療に限らず、友人、恋愛、職場、様々な場面で大きな影響力を及ぼすといっても過言ではないように思います。日本でも、コミュニケーションスキル教育の機会を得られるような仕組みがぜひ欲しいと思います。