自閉症と体外受精の関連は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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これまで、自閉症と体外受精の関係については、様々な見解がありました。本論文は、自閉症、アスペルガー症候群、発達障害と体外受精には関連がないことを国家レベルの大規模な調査で示しています。

Hum Reprod 2013; 28: 812(フィンランド)
要約:1991~2005年に生まれた4164名の自閉症のお子さんとその4倍の16582名のマッチさせたコントロールを比較しました。自閉症の診断は2007年までに行いました。体外受精で生まれたのは、自閉症のお子さんのうち63名(1.51%)、コントロールのうち229名(1.38%)でした。自閉症、アスペルガー症候群、発達障害と体外受精には関連は認められませんでした。単胎妊娠や男児に限るとアスペルガー症候群と体外受精には一見関連がみられますが、種々の因子を考慮し補正すると、この関連は消失します。

解説:依然にもご紹介したように、北欧諸国では疾患データと住民データを統合することが可能です。そのため、このような大規模な国家単位の研究が可能になります。

体外受精では、早産、周産期死亡、低体重児、NICU入院などの周産期リスクが多いと、かつて言われていましたが、この理由は単に多胎妊娠(ふたご、みつご)が多かったためであると、現在では考えられています。そのため、世界的に多胎妊娠を減らす方策がとられるようになり、その効果が現れてきました。その結果、2013.2.23「妊娠しにくいお子さんは喘息が多い?」2013.2.15「妊娠までの期間が長いと早産リスクが増加」でご紹介したように、これまで周産期リスクが高いと思われていた多くの現象が、体外受精などの不妊治療によるのではなく、「妊娠しにくい集団」であることが、そのリスクであると考えられています。また、2013.3.12「ミレニアムコホート研究」では、母子関係の構築の不備により発達障害のリスクが増加することを示しました。このように、国家レベルの研究が進んでくることで、真のリスクの有無が明らかになります。

このような状況の中で、体外受精と自閉症の関連に関しても、意味のあるデータは北欧諸国からのものがほとんどです。150万人規模のスエーデンの研究、44万人規模のオランダの研究、いずれも両者の関連性には否定的です。一方、4500人規模のフィンランドの研究では肯定的で、461名のオランダのケースコントロール研究では逆に体外受精で自閉症が減少と報告しています。

アスペルガー症候群については、平均10歳で診断されるため、長期の経過を追った研究が必要であり、結論を得るにはもう少し時間が必要です。

自閉症とアスペルガー症候群と発達障害の分類は、大雑把に考えた場合、自閉度と知能指数(IQ)の高低で4群に分けて、下図のように考えるとわかりやすいです。。

  高 I       I
自   I アスペルガーI カナー
閉   I_______I______
度   I       I
    I  健常   I 知的障害
  低 I_______I______
    高  知能指数(IQ)  低

「(広汎性)発達障害」=「アスペルガー」+「カナー」+「知的障害」

アスペルガー症候群(障害)の方は、「他者の仕草や雰囲気から多くの情報を集め、相手の感情や認知の状態を読み取ること」ができないという特徴があります。このため、コミュニケーションがうまく取れず、対人関係に障害が生じます。一方で、特定の分野への強いこだわりを示す特徴があり、才能を発揮する方が少なくありません。アスペルガーで最も有名なのは、映画「レインマン」のダスティン•ホフマンが演じる主人公です。その他、科学者や芸術家に多くみられ、アインシュタイン、ニュートン、ダーウィン、ゴッホ、モーツアルトなどがアスペルガーだったのではないかと言われています。また、スティーブン・スピルバーグ監督は自らがアスペルガーであることを公表しています。