☆繰り返す膣炎にはヨーグルトを! | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

今回はプロバイオティクスのお話。プロバイオティクスとは、人体に良い影響を与える微生物、またはそれらを含む食品のこと、たとえばヨーグルト、ぬか漬け、納豆、味噌など生きた菌の入っている食べ物です。婦人科とは関係ないと思われていますが、腸内細菌と膣内細菌は親戚関係にあります。本論文は、ヨーグルト摂取により、膣内細菌のバランスが改善し、細菌性膣症やカンジダ膣炎が軽快することを示しています。

Arch AIDS Res 1996; 10: 239
要約:妊娠初期に細菌性膣症にかかったトルコの22名の女性に、pH 4.5未満のLactobacillus acidophilusを1億個/mL含んだヨーグルトを食べてもらいました。6週間摂取により、19名(86.4%)の方の細菌性膣症が軽快しました。

Arch Fam Med 1996; 5: 593
要約:細菌性膣症とカンジダ膣炎を繰り返すイスラエルの46名の女性を2群に分け、殺菌したヨーグルトかLactobacillus acidophilusを含んだヨーグルトを毎日150mL食べてもらいました。Lactobacillus acidophilusを含んだヨーグルト摂取により、膣内細菌バランスが改善し、細菌性膣症とカンジダ膣炎が軽快しました。

Mycoses 2006; 49: 104
要約:マウスにカンジダ膣炎を生じさせ、ヨーグルト投与群、無治療群、薬剤治療群の3群で比較しました。膣内のカンジダは、無治療群と比べ、薬剤治療群およびヨーグルト投与群で有意に少なくなっていました。膣内のLactobacillusはヨーグルト投与群のみに認められました。

IMAJ 2003; 5: 812(Review)
要約:プロバイオティクスは、抗生剤による腸炎、胃腸炎、旅行者下痢症、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群など種々の疾患に有効であることが知られています。外界の細菌に接触しない無菌的環境が生後半年間続くと、喘息やアトピーなどのアレルギー疾患の罹患率が高くなることが知られているように、無菌的環境は生体には必ずしも良いことではありません。プロバイオティクスは、Th1サイトカイン優位の環境を作りやすく、ヨーグルト接種によってIFNγの増加が生じます。プロバイオティクスは、尿路感染や膣炎の予防になることが示唆されています。

解説:膣は外界に解放しているため、無菌ではありません。雑菌や病原菌の侵入を防ぐために、膣にはLactobacillusという菌が居て酸を出しています。このため他の菌が入って来にくい環境を作っています。腸では乳酸菌が同様の役目を担っています。腸内細菌のバランスの乱れは胃腸の様々な症状につながることはよく知られています。
私は、1990年代に膣内細菌とヨーグルトの論文をみつけて以来、繰り返す膣炎の方にヨーグルトの摂取状況を聞き、少ない場合はヨーグルト摂取を勧めてきました。なかなか治らない、あるいは頻繁に膣炎を繰り返す患者さんは、どこの産婦人科でも治療に行き詰まり、「検査で異常なし」とか「気にし過ぎ」とか言われて、精神的に参ってきます。しかし、治療薬は日本全国どこの産婦人科でも結局一緒ですから、何か他の策を提示しないと堂々巡りのままです。実際にヨーグルトを勧めてみると、効果のある方が多い印象を受けます。外来への通院の頻度がかなりの確率で減少します。ただ、ヨーグルトの成分は各社で全く異なっていますので、A社で改善しなければ、B社、C社と変えることも必要です。その理由は、、、
2012年6月に行われた不妊カウンセリング学会で、埼玉永井クリニックの栄養士である松本桃代さんのご講演を拝聴する機会がありました。「おならが無臭である状態が腸内細菌バランスが良いことを示しています。胃腸系の諸症状の改善のためには少なくとも3週間は同じ会社のヨーグルトを1日200mg食べて下さい。浮気はダメです。それでも改善しなければ、ヨーグルトの種類を変えてみて下さい。必ず各自に合ったヨーグルトがみつかるはずです。見つかるまで、根気よく探しましょう。あなたにとって良い菌を腸に飼いましょう。頑固な便秘も必ず治ります」と。非常に参考になりました。