☆妊娠中の投薬 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

「この薬はお腹の赤ちゃんに大丈夫ですか?」外来でよく訊かれる質問です。
薬は安全だから飲むのではなく、必要だから飲むのだということを忘れてはならないと思います。薬の量を増やせば必ず毒になります。薬の認可を得るためには妊娠中の投与の安全性を検討することが必要で、必ず動物実験を行っています。しかし、動物実験ではとてつもない量の薬を投与しているわけで、胎児に何か異常が出ても当然と言えば当然かもしれません。したがって、この結果をただちに人間にあてはめることはできません。しかし、人体実験はできませんから、「妊娠中の安全性は確立されていない」という文言が薬の添付文書に記されることになります。そうは言っても、もともと持っている病気に対して薬がどうしても必要なことはしばしばあります。薬を使わなければ母体の健康が保てない、こんな場合には薬が必要です。妊娠をする年代の女性のかかりやすい病気はだいたい決まっています。このような場合、薬の実際の使用経験から安全度の高い薬が決まってきます。昔からある薬は、当然使用経験も蓄積されており、比較的使いやすいです。反面、新しい薬は使用経験がなく、何が起きるかわからないため、使いにくいのです。産婦人科医が妊娠中に処方する薬は、この使用経験に基づいたものですが、100%の安全を保障するものではありません。内科や外科の先生は妊婦さんへの使用経験が少ないため、また薬の添付文書に「安全」とは書かれていないため、使用を躊躇することが多いのはこのためです。薬を飲むメリットとデメリットを胎児への影響の程度と天秤にかけて、「得策」であれば薬を使用するわけです。実際には胎児への影響がでやすい時期さえ外せば、意外と何でも使えることがわかります。それでも、「安全」だから使うのではなく、「得策」だから使うのであり、そこのところだけは間違えないで欲しいと思います。