☆妊娠中の航空機搭乗 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

「海外旅行に行くのですが、妊娠中に飛行機に乗っても大丈夫でしょうか?」「今月体外受精をしたいのですが、来月旅行の予定があって、妊娠した際に飛行機に乗れますか?」外来でよく訊かれる質問です。

アメリカ妊娠協会(American Pregnancy Association)によれば、「妊娠中の航空機搭乗は安全ですが、次のことを考慮するとより安全で快適な空の旅ができるでしょう」としています。
1)多くの航空会社は、妊娠8ヶ月まで航空機の搭乗を許可しています。妊娠9ヶ月の搭乗には医師の許可が必要です。
2)ほとんどの航空機では通路もトイレも狭くなっており、妊娠中の女性には快適とは言いがたいかもしれません。航空機が大きく揺れる可能性がありますので、通路を歩く際にはイスにつかまりながら歩いて下さい。
3)トイレに行ったり、足や背中をストレッチするために、立ちやすい通路側の席をリクエストして下さい。
4)小型のプライベート航空機ではなく、客室の気圧を保ったメジャーな航空会社を利用して下さい。もし小型の航空機に乗る場合には、7000フィートを超えないようにして下さい。

解説:アメリカでは航空機は特別な乗り物ではありませんから、妊娠中にも当然利用されます。航空会社によって細かな取り決めが異なりますが、分娩になる可能性の高い妊娠10ヶ月(予定日から4週間以内)では乗れないと考えてよいかと思います。医師の診断書があれば乗れることになっていますが、そのような診断書を産婦人科医が書くことは通常ありません。また、切迫早産や切迫流産、前置胎盤、妊娠高血圧症候群など妊娠中の異常がある場合には産婦人科医は航空機搭乗の許可をしません

「成田国際空港セキュリティーガイド」によると、セキュリティーチェックの検査は金属探知機であり身体への影響はないとのことです。妊娠中の方で、もし金属探知機での検査に抵抗がある方は、検査員にその旨お伝えいただくと、金属探知機以外の検査も可能と記載されています。

空からは放射線の一種である宇宙線が常に降っていて、毎日少しずつ被ばくしています。宇宙線の影響は高度が高くなるほど多くなりますので、国際放射線防護委員会(ICRP)は、航空機乗務員は職業被ばくの一部として含めるべきであると勧告しています(日本では職業被ばくの扱いになっていませんので法令の規制対象外です)。「放射線安全の手引き2012」によると、放射線業務従事者の年間被ばく線量限度は、男性が20 mSv(ミリシーベルト)、女性が6 mSv、妊娠中の女性は妊娠全期間で1~2 mSv、一般人は1作業につき0.1 mSvとなっています。文部科学省の放射線審議会では、「航空機乗務員の宇宙線被ばく管理に関するガイドライン2006」を策定していますが、航空会社の自主規制の範囲にとどまっています。この中では航空機乗務員の年間被ばく線量限度を5 mSvとしています。この他、太陽フレアという一時的な放射線量増加もあり、宇宙天気予報などを利用することで対応して欲しいという記述もみられます。「産婦人科診療ガイドライン産科編2011」によると、妊娠初期の胎児被ばくは50 mSv未満では奇形発生率を増加させないと記載されています。東京~ニューヨーク往復の身体の被ばくは0.2 mSv程度と言われていますので、たまに海外旅行に行く程度では何ら問題ない数値と考えられます。