☆タバコの影響:精子 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

タバコによる精子への影響についてはこれまでにも多くの論文が発表されており、「禁煙」は妊娠を目指す上で大切な要素(治療の一環)です。下記の論文は、「タバコ→ミトコンドリア膜電位低下→精子運動率低下、DNAダメージ増加→アポトーシス」という図式を明らかにしたものです。

RBM Online 2009; 19: 564-71
要約:健常男子の精子にタバコの抽出物を暴露させ、運動率、ミトコンドリア膜電位、クロマチン、アポトーシスを分析しました。タバコ抽出物は、精子の運動率を用量依存性、時間依存性に低下させ、精子の動力エネルギーであるミトコンドリア膜電位を低下させました。また、タバコ抽出物は、用量依存性、時間依存性に精子クロマチンを凝縮させ、アポトーシス(フォスファチジルセリン露出、DNAフラグメント)を生じました。これらの効果は精子に悪影響を与える代表的な物質であるTNFαと同様でした。タバコによって起こるDNAダメージは受精卵にも影響する事が判明しており、胎児の奇形率、癌、遺伝病のリスクを増大させます。父親になろうという男性には禁煙を勧めます。

解説:タバコは多くの疾患のリスク因子であることはよく知られています。2002年のWHOの報告では、全世界の男性の1/3は喫煙者です。タバコは4000を超える化学物質を含有し、30以上の突然変異因子や癌化因子を含みます。それゆえ、卵子、精子、受精卵に悪影響をおよぼします。タバコは精子濃度を13-15%減少、運動率を10-17%減少、奇形率を13%増加します。タバコは精液中の白血球を増加させ、活性酸素を増加させるため、酸化ストレスによるクロマチンやDNAへのダメージが増加します。精子にはDNAを修復する力が備わっていないため、一度壊れた遺伝子は元には戻りません。