「走れメロス」の冒頭は非常に興味深いです。
特にホワイト化された我々の視点から読むと、むしろ意味不明です。
いや、まだ僕らはギリギリ理解できる気もしますが、、、。
メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
ホワイト化された社会の読者にとっては、この文章はギリシャ語よりもちんぷんかんぷんかもしれません。
まずなぜメロスがオフィシャルに激怒するのかが、分かりません。怒るなら隠れて怒るべきとホワイト化された世界では考えられます。
情動は生理現象なので、怒るのは分かりますが、それはトイレの中だけでして欲しいとホワイト社会では見做すでしょう。
「かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の王」を必ず取り除かなければいけないと決意した人間が、政治が分からぬという矛盾。王は政治におけるトップです。その政治が分からないのに、なぜ邪智暴虐と認識できるのか、そして、それは後の文章でも分かるように所詮伝聞推定でしかありません。
「日の名残り」の執事のように、不可知論になることはなくても、もっと冷静で良い気がします。
また「けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった」とありますが、その自分の邪悪センサーがどれほどの妥当性を持つかを省みる姿勢が見えません。それって、王様と何も変わりがありません。
「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、磔(はりつけ)になってから、泣いて詫(わ)びたって聞かぬぞ。」
ここにはメロス的な「邪悪に対しては、人一倍に敏感」が透けて見えます。
メロスと邪智暴虐な王様は表裏一体なのです。
メロスは人を殺すことを痛痒にも感じていません、、、というのは言いすぎですが、人は殺しています。
「気の毒だが正義のためだ!」と猛然一撃、たちまち、三人を殴り倒し
いや、殴り倒しただけで殺していないかもしれませんが、メロスは暴力は振るいます(友人も殴りますしね)。
「気の毒だが正義のため」には暴力は許されるのです。というか、暴力は容認されています。そうでなければ、友人の命を命がけのギャンブルに出したりしません。
メロスも王様もコインの裏表であり、そっくりさんなのです。
王様は王様の論理で人を殺しているのですが、それは自分と鏡合わせだからメロスは激怒したのかもしれません。
「走れメロス」というタイトルからも分かるように、死ぬために自分に鞭を打って走ることが美談になるというのが、ブラック化した社会の通俗小説であったのです。
そして、王様の改心によって、その気分によって、対立していたはずの両者が仲間になるという意味不明な展開、そしてそれを民衆が支持するという狂った展開が許されるブラックな社会だったのです。
「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」
どっと群衆の間に、歓声が起った。
「万歳、王様万歳。」
本来であれば、群衆の間に歓声が起こり、そして「万歳、王様万歳。」と言いながら、笑いながら
リンチしてなぶり殺しにするのが良いと思います。
これは露悪的な悪趣味発言ではなく、現実がそうだからです。
けれども、そのときは、もう人々がまえから石炭の火の上に、鉄でつくったうわぐつをのせておきましたのが、まっ赤にやけてきましたので、それを火ばしでへやの中に持ってきて、わるい女王さまの前におきました。そして、むりやり女王さまに、そのまっ赤にやけたくつをはかせて、たおれて死ぬまでおどらせました。(グリム童話『白雪姫』菊池寛訳青空文庫より)
白雪姫のラストでは、継母か実の母かは別として(ホワイト化によって継母に改変されたという説があります)、「まっ赤にやけたくつをはかせて、たおれて死ぬまでおどらせました」のです。
ですから、ゆっくりと社会はホワイト化していっているのです。
(聖書の面白すぎる記述もここで紹介したいですが紙幅が足りないです。いや余白が)
たとえば聖書も旧約と新約では神様の立ち位置が全然違います。ヨブ記なりモーセ五書を読んでみると、本当に昭和の中小企業の社長のような横暴さです(←この表現もホワイト化せねば)。
そんな聖書から、ホワイト化に関連して肯定的に引用すると、
柔和な人たちは、さいわいである、
彼らは地を受けつぐであろう。(マタイ5:5)
我々も「柔和な人」になりましょう。ホワイト化しましょう(心身ではなく、表現を)。
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バレエをやめれば楽になれると思った。
だが違った。
苦しみから解放されるには踊るしかない(セルゲイ・ポルーニン)