学校時代の古典の授業で学んだ今昔物語(こんじゃくものがたり)というのは、すべて「今は昔」という不思議な物言いから始まります。
「今は昔」とは、今=昔という意味であり、そのことで現在を過去へとタイムリープさせる呪文です(「今となっては昔のことだが」という解釈もありますが、少なくとも僕が学校で学んだときは、「今=昔」という説が支持されていました)
今は昔、天文博士安倍晴明と云ふ陰陽師ありけり(今昔物語)
*安倍晴明
今昔物語は今読み返してみても非常に面白い書物で、空海から釈迦から安倍晴明まで様々なヒーローたちの逸話が次々と紹介されています。
お馴染みの仏教説話であるウサギが自分を焼いて、旅の老人に捧げた話しなども含まれています。
この魅力に気付き、次々と紹介したのが芥川龍之介であり、代表作に羅生門があります。羅生門もまた平安の闇を描ききっている傑作です。
若き日の安倍晴明のエピソードもまた非常に面白いと言えます。
安倍晴明の先生が賀茂忠行という陰陽師です。彼に昼夜違わず学び続け、偉大な陰陽師になったのですが、賀茂忠行が安倍晴明の才能に気づくエピソードが今昔物語で紹介されています。
夜半に、先生は牛車に乗り、安倍晴明は歩いて移動していたときの話しです。
先生は寝ていらしたのですが、若き安倍晴明はなんとも言えない恐ろしい鬼たちが車に向かってくるのを見つけて、あわてて先生である賀茂忠行を起こします。
通常のHerosであれば、若き天才の晴明がサンスクリット語か何かの覚えたての呪文を唱えて、事なきを得るのでしょうが(笑)、現実は違います。
そしてそれがまたリアルな描写となっています。
晴明これを見て、驚きて車の後に走り寄りて、忠行を起して告げければ、その時にぞ忠行驚きて覚めて、鬼の来たるを見て、術法を以てたちまちに我が身をも恐なく、共の者どもをも隠し、平かに過ぎにける。
安倍晴明は恐ろしい鬼たちを見て、あわてて先生である賀茂忠行を起こします。先生は飛び起きて、鬼が来たのを見て、陰陽師の技を用いて、ご自身も安倍晴明を含めた共の者たちを隠します。
鬼から見えないように結界を張って、やりすごすのです。
鬼退治は、猿と犬と雉(きじ)を団子で使役した勇者の牧歌的な物語でしかなく、現実は厳しいのですw
今昔物語の原文を参考までに載せておきます!
今は昔、天文博士安倍晴明と云ふ陰陽師ありけり。古にも恥ぢずやんごとなかりける者なり。幼の時、賀茂忠行と云ひける陰陽師に随ひて、昼夜にこの道を習ひけるに、いささかも心もとなき事なかりける。
しかるに、晴明若かりける時、師の忠行が下渡に夜行に行きける共に、歩にして車の後に行きける。忠行車の内にしてよく寝入りにけるに、晴明見けるに、えもいはず恐しき鬼ども、車の前に向ひて来たりけり。晴明これを見て、驚きて車の後に走り寄りて、忠行を起して告げければ、その時にぞ忠行驚きて覚めて、鬼の来たるを見て、術法を以てたちまちに我が身をも恐なく、共の者どもをも隠し、平かに過ぎにける。その後、忠行、晴明を去り難く思ひて、この道を教ふる事、瓶の水を移すがごとし。さればつひに晴明、この道につきて公私につかはれて、いとやんごとなかりけり。
アメリカン・コミックのニューヒーローである魔術師のDr.ストレンジに教わるまでもなく、我々はいくつものリアリティーの中に住んでいます。現代物理学ではそれを膜(メンブレーン)で記述しようとしているのかもしれませんが、いずれにせよ複数の(いやほぼ無限の)リアリティの層が同時に同じ場所に存在するイメージです。
しかし、我々の脳は(特に意識は)その1つの中にしかとどまることができません。
(見えないから存在しないわけではありません。そして訓練次第では別のリアリティーを同時に生きることができるようになります。晴明は天性の才能として若い頃から無意識にできた可能性があります。それがこの物語の主題でしょう)
賀茂忠行はこの事件を期に、安倍晴明の才能を見抜き、自分の全てを伝えることにします。
この道を教ふる事、瓶の水を移すがごとし。
瓶の水を移すかのように、自分が知りうること、用いる技のすべてを晴明に伝え、晴明もまたそれに応えて「昼夜にこの道を習ひける」わけです。
なぜこれがそんな契機になったのでしょう?
もちろん推測の域を出ないわけですが、端的に言えば、晴明の視覚化の能力に才能を見い出したということでしょう。
鬼は言うまでもなく情報体でしかなく、目には見えないものです。物理的な実体を持ちません。
しかし、物理的現実世界とはまた異なるリアリティーの中で存在し、我々に大きな影響を与えます。その鬼を可視化するためには、別なリアリティー、鬼が存在する世界にアクセスする必要があります。
幼い晴明は危機に瀕して、その能力を発揮し正しく状況を判断し行動しました。
自分が見たものを疑うこともなく、鬼退治をしようと蛮勇をふるうこともなく、先生を起こし、そして委ねます。
面白いのは賀茂忠行もまた鬼退治をしようとはせず、自分たちを不可視化することでやりすごすことです。
ここに陰陽師のリアルな姿があると思います。
式神とは神を使役することです。
式とは用いるという意味であり、使役ということです。
我々は悪魔を使役することをエリファス・レヴィから学びましたが、神をも使役することを安倍晴明から学びましょう。
もちろん安倍晴明の式神(識神)は十二天将のことであり、エホヴァのような唯一絶対神とは別であるという反論はあるでしょう。しかし、魔術師たちはそう考えていません。
唯一絶対の神という信仰は様々な矛盾を来たしており、破綻しています。
薔薇十字団の系譜であるGolden Dawn(黄金の夜明け団)に所属しながら、その秘密結社の秘儀を赤裸々に公開したイスラエル・リガルディーは、こう書いています。
*イスラエル・リガルディー
(引用開始)「生命の樹」を道標(みちしるべ)として利用しながら、「神」のより大きくより広汎囲な生命へと自分の生命を加え、また自分の存在を従属させることを望んで、別の体系で名づけられた「神々」もしくは「大天使」へと魔術師は祈るのである。そうすることによって、霊的知覚力はさらにはっきりと鋭くなり、意識は流れこむ聖なる力の高圧にも慣れて行くのだ。魔術師の内的進化が進むにつれ、魔術師はセフィラ即ちこれまでのものより一つ上位の次元の「神」に祈る。これまでと同じ過程に従って魔術師は自分の祈る神へと自分の本質、自分の統一した意識を合一しようとする。この後も同様に行う。(引用終了)(イスラエル・リガルディ「柘榴の園」p.233)
ポイントは、「魔術師の内的進化が進むにつれ、魔術師はセフィラ即ちこれまでのものより一つ上位の次元の「神」に祈る。」という箇所です。
魔術師の内的進化、内的な成長により、次の段階の神が現れるということです。
これは僕らにとっては非常に納得がいきやすいのですが、キリスト教の正統な教義からすれば許せない発言なのかもしれません。
ただ我々はゴールを更新するように、神を更新するのです。理解が深まれば、子供の時の素朴な神理解はいつも更新されるのです。
とすると、式神として使役する神は鬼神というよりは、神ということで良いように思います。
悪魔を使役し、神を使役するというと、なんとも傲慢な(神をも恐れぬw)あり方に感じます。
しかしそれは傲慢とは程遠い姿であることも理解されて良いように思います。
たとえば、安倍晴明の先生である賀茂忠行ですら、鬼を退治せず、鬼を使役せず、自分たちを隠したのです。
*お馴染みの晴明紋です。
*魔術師にとって重要な五芒星のシンボルであり、ピタゴラス教団のシンボルでもあります。
*シュメール人はこれをUB(ウブ)と呼び、その初出は紀元前3000年頃とされます。気の遠くなるような昔です。
*日本陸軍はこれを終戦まで軍服に使用していました。
式神というと、人形の和紙札を依代(よりしろ)としているイメージがあります。
実際に式神に紙が必要かは別として、紙も神もどちらも「カミ」という音であることは注目されます。
紙(カミ)と言葉(名指し)は今回の陰陽師養成スクールの大きなテーマです。
(「名指し(Naming)」とは咒なのです)
初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった。(ヨハネ1:1)
人がすべて生き物に与える名は、その名となるのであった。(創世記2:19)
いずれにせよ、楽しく学んでいきましょう!!!
変則的ですが、4月9日と30日に追加開催を行います!!
風水、魔術、錬金術を踏まえて、集大成としてこのシリーズ最後のスクールです!!
お楽しみに!!
【初開催!!陰陽師養成スクール 〜古(いにしえ)の知恵と技と世界観を現代に活かす!!〜】
【日時】 3月25日(土)13:00~18:00
3月26日(日)13:00~18:00
(追加開催)4月9日(日)13:00~18:00
4月30日(日)13:00~18:00
*追加日程は受講資格をスクール修了生に限定します!
【場所】 四ツ谷のセミナールーム
【受講料】 230,000円(PayPal決済可能です。請求先アドレスを記載してください。またPaypalでの10万円以上の決済はPayPalでの本人確認が必要です)
【受講資格】 「まといのば」セミナー受講生(もしくはそれに準ずる方、他で「まといのば」の主宰のセミナーを受けている方もOKです)
【持ち物】 筆記用具
【お申し込み】お申し込みはこちらから。
*安倍晴明が弟子のために書いた陰陽道解説書です。