「ああ、私は何と頭の悪い老けた鳥だったことか!」〜世界を変えた書物展〜 | 気功師から見たバレエとヒーリングのコツ~「まといのば」ブログ

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名古屋で開催されている「世界を変えた書物展」において、天才たちのきらめくばかりの初版本を潤沢に次々と見せていただきながら多くのことを考えました。

アリストテレス、アルキメデス、ユークリッド、コペルニクス、ケプラー、ガリレオ、デカルト、ニュートン、ゲーテ、パスカル、マクスウェル、キュリー、アインシュタインなどまさに知の遺産であり、われわれにとってのヒーローの希少な初版本が次々と眼前に並び壮観でした。

たとえばプリンキピアは初版本が2冊。一冊はイギリス国内で販売された初版本。そしてもう一冊は大陸で販売された初版本。
$気功師から見たバレエとヒーリングのコツ~「まといのば」ブログ-プリンキピア

科学革命の別名であるコペルニクス的転回のコペルニクスの「天球の回転について」の初版本に出会ったときの感動も格別です。発行年と没年が同じであり、死期を悟ってからの命を賭した公開です(教会に火炙りにされるリスクがあるので)。ただ同僚の天文学者には匿名で同内容のパンフレットを配っていたそうです。
$気功師から見たバレエとヒーリングのコツ~「まといのば」ブログ-天球の回転について

進化論を提唱したダーウィンによる「種の起源」の初版本。生物学が大きく転回し、学問としての爆発的な進化の先駆けとなりました。
$気功師から見たバレエとヒーリングのコツ~「まといのば」ブログ-種の起源


金沢工業大学に収蔵されていたいる貴重なRareBookの一部の公開でしたが、その収集をまさに一手に引き受けて30数年の竺 覚暁(ちく かくぎょう)教授の講義を聞けたのも僥倖(ぎょうこう)でした(展示会そのものは29日までの開催です。竺教授のミュージアムトークは28日、29日が最後です)。

工業大学であり建築学部らしいプラグマティズムにあふれていました。
工業も建築も観念のみではありえません。両者とも実体が目の前に見え、それが機能しない限り意味のない学問であり、専門分野です。

ですので、豪華な希少本を用いて、次々と科学と人類の発展を示すという展示会のデザインであり、その通奏低音には工学(テクノロジー)が人類を進歩させるというアイデアがあります。分かりやすく言えば、すなわちグーテンベルクの印刷術というテクノロジーが知の普及をもたらしたということで、希少本というだけでは不十分で印刷された初版本しか集めていないそうです(すなわち写本の類は集めない。印刷されたものだけです)。その意味で素晴らしく思想や哲学が一貫しています。

初版本には先人たちの息遣いが感じます。

ファインマンの教科書(計算機科学)に書かれていたこんな逸話を思い出します(編纂者の後書き部分です)。

正直なケプラーは「ああ、ああ、私は何と頭の悪い老けた鳥だったことか!」と嘆きます。

こんな話です。

「ケプラーは、火星の軌道が円ではなく楕円であるという衝撃的な結論に至らざるを得なくなるまでの、思考過程のすべての紆余曲折を書き残した。ケプラーは自分の苦闘を『ああ、私は何と頭の悪い老けた鳥だったことか!』と表現した。」(p.215 「ファインマン計算機科学」)

ファインマンは自身のノーベル賞記念講演で同様にこう語ります。

「私は、はっとしました。なんておれはとんまなのだろう。私が計算をしたのは、つまり普通の光の反射じゃないか。輻射の反作用なんかではない。」
(p.288  R.P. ファインマン 江沢洋訳 物理法則はいかにして発見されたか)

I suddenly realized what a stupid fellow I am, for what I had described and calculated was just ordinary reflected light, not radiation reaction.

昨日の金沢工業大学の竺 覚暁教授によれば、火星の軌道が円ではなく楕円という結論に至ることが難解であったのは、まさにアリストテレスの所業であり、偉大すぎる影響ゆえだそうです。アリストテレスは世界を4つの元素で表し、物理法則もその枠組みで説明しています。そして天界はその4元素ではなく、五番目の元素(Fifth Element)でできているために地上に落下してこないと説明しました。
このFifth Elementはのちのニュートンたち錬金術師たちにとっては、賢者の石で知られる何かを指すようになります。
この第五元素の世界は完全性がその性質であり、運動も完全でなくてはいけません(まあ、天界は神様の住まうところですし)。というわけで、星の運行は真円で等速度運動でなくてはいけないとアリストテレスは観念的に考え(惑星を見たことがなかったのでしょう)、それをその後2000年近く我々に押し付けたことになります。
その等速円運動というアリストテレスの呪縛が強すぎて、楕円と思えなかったということです。


僕自身は錬金術は人並みしか知りませんが、アイデアだけで言えば(補完する証拠とロジックにまだ欠けているので「予想」として)この第五元素(Fifth Element)とはまさに「賢者の石」だと思います(いやこれではトートロジーですね)。すなわち、ケプラーやファインマンの『ああ、私は何と頭の悪い老けた鳥だったことか!』、" I suddenly realized what a stupid fellow I am, ”という感覚なのではないかと思います。言い換えれば賢者の石とは「認識」の瞬間の体験かと。

自分の過ちや愚かさに気付ける瞬間というのは、自分の視点が抽象度方向にスライドした瞬間でもあります。それが新しい発見につながるかどうかはともかくとしても、抽象度は上がるのです。間違いを認めた上で、その先を発見すれば「ユーリカ(εὕρηκα)」になるのでしょうが(アルキメデスの初版本も並んでいます。ユークリッドと並んで!!)、そこまでいかなくても間違いを発見することこそが重要です。

我々の喜びとは「ああ、私は何と頭の悪い老けた鳥だったことか!」「 what a stupid fellow I am」という叫びの中にあるように思います。

ちなみに「世界を変えた書物展」は超お薦めですし、観られた方で集まってのセミナーを考えています。できたら竺 覚暁先生の講義を拝聴して欲しいと思っています(僕は2度聴かせていただきました。時間が許せば何度でも聞きたいです)。寺子屋番外編ですね。


【書籍紹介】
ファインマン物理学のシリーズに続いて、この「計算機科学」はお薦めです。
寺子屋コンピュータサイエンスのネタ本です。
上記の逸話は編纂社のあとがきからの引用です。

ファインマン計算機科学/岩波書店

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コーネル大学での講義とノーベル賞記念講演の2本がおさめられています。お薦め!
この講義の模様はビル・ゲイツが買い取り、一般に無償公開しています。Project Tuvaビル・ゲイツという人は本当に教育に絶大な関心(と膨大な資金)を寄せています。
たとえばカーンプロジェクトにも出資し、Googleを紹介しています(たとえばカーンのTEDレクチャーのアフタートークでゲイツは出てきます)

物理法則はいかにして発見されたか (岩波現代文庫―学術)/岩波書店

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