外反が理由でトゥシューズで立つことができない、ということはあるのでしょうか?
まず痛い場合を考えます。
外反拇指が痛くて立てないというケースです。
痛い場合は、トゥシューズであろうが、バレエシューズであろうが、普通の靴であろうが、外反が原因ではありません。痛みが邪魔しているだけです。外反でなくても足に怪我をしたら、痛くて歩けないこともあるでしょう。
もちろんバレエシューズのルルベだと大丈夫だけど、トゥシューズだと痛いとか、その逆もあります。
ただここで問題になるのは「痛み」です。外反そのものの機能的な問題ではなく、「痛み」による身体の条件反射です。
プロのダンサーは(アマチュアも同じですが)、痛みを心でコントロールしてしまいます。ですので、痛いことを理由に踊れないことは除外して構いません。
誤解の無いように言いますが、痛みに耐えて踊れという話しではありません。痛みは解消すべきでしょう。ただ痛くて踊れないというのはtemporaryな(一時的な)問題であり、本質的ではないという程度の意味です。
ですから、ここでは「痛い」場合を除外します。
では、器質的に外反拇指が理由でトゥシューズで立てないことはあるのでしょうか?
「足の形が悪いから立てない」という問題です。
これは一見、正しそうに思えます。
トゥシューズで立つのに相応しい足の形(指の長さ)というのはあります。
外反はその意味で不利に感じます。
ところが実際は足の形で立てないというのは、思い込みでしかありません。
「外反などで足の形が悪いとトーで立てない」という仮説は反例が一つあれば反証されます。
プロの一流ダンサーに目を向けてみましょう。多くのダンサーが外反拇指です。ということは、外反でも立派にトゥで立てるということです。
ちなみに、意外なようですが、プロのダンサーでO脚も少なくありません。一流ダンサーで上半身の脊椎が歪んでいるそくわん症の方もいます。
身体の条件を理由にプロで活躍することを諦めているバレエ少女は、実際に良くプロの身体を見るといいと思います。
「憧れ」は大事ですが、スコトーマ(心理的盲点)も生みます。もちろん外反やO脚、そくわん症はきちんと治すべきと思いますし、改善可能です。ただそれを理由にバレエの道を諦めるのは早計と言えます。
話しを戻しますと、見事にポアントで舞うプリマバレリーナですら外反です。ということは、外反は「立てない」理由にはならないのです。
ちなみに「バレエの無理な爪先立ちが外反の原因」というのも間違いです。そう思いたい気持ちは分かりますが、実際は違います。同じようなキャリアのダンサーで一人は外反、一人は綺麗な足ということはよくあることです。
外反が重心の異常による疾患であることは明らかですし、バレエがそれを加速するのも事実でしょう(普通の靴を履いていても加速されますが)。ですが、バレエだけでは外反になりません。もう一つ原因が必要です。
ほとんどの外反拇指は痛くありません。審美的な問題だけなので、放置していてもあまり問題はありません。
実際、治す技術を手にしていても、ほとんどの人は治しません。治す必要が無いのでしょう。
それはO脚の改善などもそうです。
強烈なゴールが無いと、日常生活に支障が無いようなことは改善できません。
ちなみにもっと言いますと、日常生活に支障があっても、「直ちに健康に影響を与え」るようなことでも、人はほとんど「改善」しません。
様々なドラッグを考えれば分かります。お酒、タバコだけでなく、砂糖、過食も同様です。
ホメオスタシスがそれだけ強烈ということです。
それを書き換えるのは、意思の強さではなく、ゴールの臨場感の高さだけです(「意思の強さ」など存在しません。「意識」や「自我」に過剰な意味を与えた時代の残滓です。重要なのは臨場感です)。