「引き上げ」はバレエ教師によって、様々な指導の仕方があります。

街のバレエスタジオのほとんどの先生方は、ご自分が習った通りに教えます。

少し勉強熱心で解剖学やセミナーを受講されて、それを持ち込まれる方もいらっしゃいますが、生煮えな感じになります。

自分の体でがっしりとつかめており、かつそれを他人に対して教えるためには、相当な修練が必要です。

安易に解剖学的知識を習得されるならば無い方が良いかもしれないとも思います。

どちらの教え方でも、もしお教室に才能ある子供がいれば、その子は勝手に上手になってくれます。

ほっておけば、その子がすくすくと上達し、周りはそれに同調します。

ですから、ほっておくことと、良い時に褒めることです。

しばしば才能ある子をいじって壊してしまう先生がいらっしゃいます。

ご自身は良いことをしているつもりでしょうが、子供にとってはたまりません。

自分の才能と子供の才能の見極めは大変なことですが、必要かと思います。

モーツアルトの父親やピカソの父親に学ぶことは多いかと思います。

逆に一流のバレエ団の一流教師の場合はどうでしょうか?

自身がプリマバレリーナとして踊った後に後進の指導にまわることが多い彼らは見事に指導します。

そしてその指導の仕方は様々です。

下丹田を重視して引き上げを語る方、中丹田系の方、センターや上丹田系など多種多様です。

下丹田の方は骨盤や丹田を重視され、そこからの引き上げを言われますし、中丹田系の方はアームスや胸の使い方との関連で引き上げを指導されます。

そしてセンター系の先生は背骨や軸を鍛える中で引き上げを語られます。

面白いのは、その先生が得意とされる身体意識と教える身体意識が同じではない場合も多いということです。

自分の得意な技はスコトーマ(盲点)に入るか、無意識化しているという好例かと思います。

もし機会があれば、一流のバレエ教師のクラスを気功師やヒーラーが見学すると面白いかもしれません。

レオタード姿の鏡張りの教室なのに、武道か気功かヨガの世界に見えてきます。「これは気功練功の実践の場だ」と痛感すると思います。

街のお教室から一流バレエ団のクラスまで、バレエレッスンで言われていることは相当に同じです

でも結果が大きく違うのは、そこで語られている言葉ではなく、起きている内部表現書き換え(気功)が全く違うからです。

パラダイムが異なれば、同じ言葉でも意味はまったく違います。

まさに「何となく」であり、それでは「引き上げ」を高いレベルで伝えることは不可能です。
バレエにおける「引き上げ」って、何でしょう?

これは、バレエダンサーにとってもわかるようで分からない言葉です。


人の踊りを見て、「あ、少し引き上げが足りない」ということは分かっても、じゃあ、それが見えない人に「引き上げって何?」と聞かれると説明できないし、かといってダンサー同士でも具体的な説明は無理です。

「なんとなくこんな感じ」で共有されています。

もちろんダンサーにとっては、引きあがるhことは重要なので、実際に体で行うときは、何となくではなく、確実なところで、やっています。

ただそれを言葉で表すのが難しいということです。


「邪気を受けた感じってどんな感じ」と言われても、「・・・。」となるのと似ています。

イチゴを知らない人に、イチゴの味を教えるようなものです。

そして、セミナーや施術に来ているかたはご存じでしょうが、僕は最近まで「引き上げ」という言葉をなるべく避けて説明をしていました。




なぜなら、「引き上げ」という言葉がしばしば間違って使われて、覚えられているためです。

たとえば「引き上げ」という言葉がトリガーとなり、腹直筋が硬直したり、腰が反ったりするのであれば、その言葉は使わない方がいいからです。

ただ、やはり「引き上げ」としか表現できないような現象が多いので、最近は少しずつ使っています。

ある程度、体のことが分かり、そして次のステップへ行こうとされている方に対して使っています。

バレエにおける「引き上げ」とは第一義的には腸腰筋のことです。

気功技術の腸腰筋を使ってもらうと分かりますが、横隔膜、大腰筋、腸骨筋(小腰筋)、骨盤低筋群、腹横筋などに働きかけます。

腰裏と腹筋をゆるめます。そのことで重心が脛骨を地面に対して垂直になる場所に移ります。いわゆる高岡(英夫)メソッドでウナと呼ばれる内踝の直下点です。

脛骨が倒れずまっすぐに立つ場所です。

体にとっては最も脱力できる重心となります。


そして「引き上げ」と言った場合には、そこには腹横筋による腹圧、腰椎周囲筋のリラックスとストレッチ、骨盤の位置の正常化、股関節の脱力、脊椎のストレッチが含まれます。

また肋骨をゆるめてふくらませ、胸を張らず、背中を広げます。


いわゆる本来のバレエの立ち方です。


ただこれを暗記しても解剖学的に認識してもあまり意味はなく、やはり指導者のもとで繰り返し練習するしかありません。

その指導者自身が高いレベルできっちり立てていること、そして指導にあたってはきちんと言語化して、生徒の内部表現を書き換えられることなどは、必須です。

そして生徒にも高い論理性と、高い抽象度のゴールが必要です。


そうでないと「引き上げ」という言葉が、踊れないときの免罪符(・・「ちょっと引き上げが足りないからうまく回れなかった」など)になります。

また教師が生徒に無茶な注文をするときの言い訳としても使われます(「腹筋が弱いから引き上げができないのだから、ずっと腹筋をしなさい」など)。

ちなみに、腹筋をすると一般的には腸腰筋は弱まります(もちろん天才的な手法もあります。腸腰筋を鍛えるような特殊な腹筋がないわけではないですが、非常に困難です)。


では、どうやってバレリーナたちは学んでいるのでしょう。

いろいろありますが、最も簡単な答えは、一流バレリーナの踊りを「見て取る」というものです。

指導者によっては「盗む」という表現を使います。

武道では見取り稽古を重視しますが、それに近いものがあります。

すなわち、・・コピーですね。

そのことで、一流ダンサーの身体意識を無意識のうちに自分のものにしてしまうのです

相手の無意識から自分の無意識へのコピーなので、意識を介在しません。

ですから、なぜどのようにその高い身体意識を獲得したのか?と聞かれても、ダンサーは「・・・・なんとなく」としか言いようがないのです。

赤ん坊があなたに「どうして、そんなに自在に立ったり座ったりできるの?どうやって学んだの?」と聞くようなものです。

私たちもはるか昔に無意識で獲得しています。

次の記事で、では具体的にバレエ教師はどう教えているかを考えてみます。

僕らの感覚で言えば、気を読んでそれを自分の中で再現するということです。
デベロッペ、グランバットマン…高く上がる足に、憧れる人も多いかと思います。

Y字を簡単にあげるコツは股関節の柔軟性ではなく、初歩的な解剖学の理解です。

股関節をいくら柔軟にしても足は上がりませんが、足が上がっているときの骨の状態を認識すると簡単に足は上がります。

いわばトリックがあったのです。種明かしをしてしまえば、足を上げるなどたいした技術ではないのです。

では、Y字バランスを簡単にあげるコツは?



ズバリ、骨盤です。

例えば、股関節だけで考えるとドゥバン(股関節屈曲)で最大90度、アラセゴン(股関節外転)で45度、デリエール(股関節伸展)にいたっては通常で最大15度、バレリーナでも最も動いて25度です(「ダンサーなら知っておきたい「からだ」のこと」参照)。

ギエムが真面目に股関節だけでバレエをしたら、前は90度、横は真横にすら上がらない斜め45度、後ろはデガジェ程度の15度ということです。

では高く上がるギエムの足は一体どういうカラクリなのでしょう。

医学的にありえないことをしているのでしょうか?

どこのバレエ教室でも足が上がる子はいますし、二重関節(定義不明ですが)というような先天的特異体質という説も、もちろん間違い。

カラクリは簡単で骨盤を動かしているのです。

骨盤を傾けることで錯覚を起こしています。

前に足を上げるときは骨盤を前に、後ろに上げるときは後ろへ、横に上げるときは横に骨盤を動かしています。

では骨盤の柔軟性がいるのか?と言えばそうではありません。腰椎という腰の背骨は自由脊椎と呼ばれ、とても動きやすい部分です。そこを操作して骨盤を動かします。

股関節ではなく、骨盤や腰椎を動かすことが了解できれば、足は上がります。

例えば腕を上にあげたいときに、肩を上から押さえ付けられては、腕は上がりません。それと同じことを足ではしてしまいます。骨盤や腰椎をぐにゃっと曲げるつもりで、ズルをするつもりでやるとうまくいきます。

これがわかれば、誰もが高く足をあげられるのです。