バレエにおける「引き上げ」って、何でしょう?

これは、バレエダンサーにとってもわかるようで分からない言葉です。


人の踊りを見て、「あ、少し引き上げが足りない」ということは分かっても、じゃあ、それが見えない人に「引き上げって何?」と聞かれると説明できないし、かといってダンサー同士でも具体的な説明は無理です。

「なんとなくこんな感じ」で共有されています。

もちろんダンサーにとっては、引きあがるhことは重要なので、実際に体で行うときは、何となくではなく、確実なところで、やっています。

ただそれを言葉で表すのが難しいということです。


「邪気を受けた感じってどんな感じ」と言われても、「・・・。」となるのと似ています。

イチゴを知らない人に、イチゴの味を教えるようなものです。

そして、セミナーや施術に来ているかたはご存じでしょうが、僕は最近まで「引き上げ」という言葉をなるべく避けて説明をしていました。




なぜなら、「引き上げ」という言葉がしばしば間違って使われて、覚えられているためです。

たとえば「引き上げ」という言葉がトリガーとなり、腹直筋が硬直したり、腰が反ったりするのであれば、その言葉は使わない方がいいからです。

ただ、やはり「引き上げ」としか表現できないような現象が多いので、最近は少しずつ使っています。

ある程度、体のことが分かり、そして次のステップへ行こうとされている方に対して使っています。

バレエにおける「引き上げ」とは第一義的には腸腰筋のことです。

気功技術の腸腰筋を使ってもらうと分かりますが、横隔膜、大腰筋、腸骨筋(小腰筋)、骨盤低筋群、腹横筋などに働きかけます。

腰裏と腹筋をゆるめます。そのことで重心が脛骨を地面に対して垂直になる場所に移ります。いわゆる高岡(英夫)メソッドでウナと呼ばれる内踝の直下点です。

脛骨が倒れずまっすぐに立つ場所です。

体にとっては最も脱力できる重心となります。


そして「引き上げ」と言った場合には、そこには腹横筋による腹圧、腰椎周囲筋のリラックスとストレッチ、骨盤の位置の正常化、股関節の脱力、脊椎のストレッチが含まれます。

また肋骨をゆるめてふくらませ、胸を張らず、背中を広げます。


いわゆる本来のバレエの立ち方です。


ただこれを暗記しても解剖学的に認識してもあまり意味はなく、やはり指導者のもとで繰り返し練習するしかありません。

その指導者自身が高いレベルできっちり立てていること、そして指導にあたってはきちんと言語化して、生徒の内部表現を書き換えられることなどは、必須です。

そして生徒にも高い論理性と、高い抽象度のゴールが必要です。


そうでないと「引き上げ」という言葉が、踊れないときの免罪符(・・「ちょっと引き上げが足りないからうまく回れなかった」など)になります。

また教師が生徒に無茶な注文をするときの言い訳としても使われます(「腹筋が弱いから引き上げができないのだから、ずっと腹筋をしなさい」など)。

ちなみに、腹筋をすると一般的には腸腰筋は弱まります(もちろん天才的な手法もあります。腸腰筋を鍛えるような特殊な腹筋がないわけではないですが、非常に困難です)。


では、どうやってバレリーナたちは学んでいるのでしょう。

いろいろありますが、最も簡単な答えは、一流バレリーナの踊りを「見て取る」というものです。

指導者によっては「盗む」という表現を使います。

武道では見取り稽古を重視しますが、それに近いものがあります。

すなわち、・・コピーですね。

そのことで、一流ダンサーの身体意識を無意識のうちに自分のものにしてしまうのです

相手の無意識から自分の無意識へのコピーなので、意識を介在しません。

ですから、なぜどのようにその高い身体意識を獲得したのか?と聞かれても、ダンサーは「・・・・なんとなく」としか言いようがないのです。

赤ん坊があなたに「どうして、そんなに自在に立ったり座ったりできるの?どうやって学んだの?」と聞くようなものです。

私たちもはるか昔に無意識で獲得しています。

次の記事で、では具体的にバレエ教師はどう教えているかを考えてみます。

僕らの感覚で言えば、気を読んでそれを自分の中で再現するということです。