発注したカーボンシャフトが届き、メロウイエローに装着された。僕は緊張しながら試し打ちをしてみる。45インチのシャフトは長く、ボールを遠くに置いてかなり立った姿勢になる。スイングプレーンも当然フラットな軌道になる。いつもより慎重にバックスイングに入り、打った。

 ボールは地を這うような低い弾道で飛び出し、170ヤード先に落ちて転がっていく。2発目、3発目も変わらなかった。

 ジョージは渋い顔つきで僕からメロウイエローを取り、自分で打ってみた。しかしボールは思ったようには上がらず飛距離も出ない。ケインが打っても同じだった。

 「こいつは思ったより手強いじゃじゃ馬だな。スピンが極端に少ないからボールが伸びて行かない」

 ボールのスピンと弾道の関係はこんな感じだ。

 

 

 ①打ち出し角度とバックスピン量が適正→最も飛距離が出る。
 ②打ち出し角度がやや低く、バックスピン量が多い→出だしが低く、後半ボールが浮く。
 ③打ち出し角度が高過ぎ、バックスピン量も多い→最も飛距離が短い。
 ④打ち出し角度が低過ぎ、バックスピン量が少な過ぎる→低弾道で転がるが、飛距離は出にくい。
 
 つまりメロウイエローの弾道は④に当たるのだ。理想はもちろん①で、②や③はアイアンクラブの弾道だ。 
 「参ったな。このヘッドを使うにはどうやらシャフトを軟らくして、打ち出し角度とスピンを増やすしかなさそうだ。私ならメロウイエローは諦めて、Pingのドライバーを使うな」
 ジョージは残念そうに僕の顔を見た。僕はどうしていいか分からずに、「しばらく考えさせて」と答えた。
 
 来客があったのは数日後のことだ。松浦と名乗り、元刑事だと言う。松浦は長い包みを携えていた。
 「キミが大介君か、私はキミのお父さんを取り調べた担当刑事だ」
 刑事が今さら何の用だろうと警戒していると、松浦は続けた。
 「刑事は昔の話で、詳しい事は追々話すとして、今はキミのお父さんの代理でキミの力になりたいと思っている。まずはお父さんからの頼まれ品だ」
 松浦はそう言うと、抱えてきた長い包みを僕に渡した。そしてスーツの内ポケットから折り畳んだ紙を取り出す。
 「えー、私にはよく分からないから、キミのお父さんの言葉をそのまま伝えるぞ。大介、これは既に手元にあるであろう黄色いドライバーヘッドのための特注のシャフトだ。47インチのXフレックス、ジョージおじさんに装着してもらってくれ」
 松浦は2枚目を読み始める。
 「今のお前がどのような姿か想像の域を出ないが、ジョージの指導によりゴルファーの端くれに育っていることを願う。そして完成した黄色いドライバーをおそらく打ちあぐねることだろう。それはジョージを持ってしても解決は難しい筈だ。何故ならそのドライバーは私に似た体格の、大介専用に考えたものだからだ。出来得れば直接手解きしたいものだが、それは叶わない。良く聞いて理解しなさい。まず押されても微動だにしない強靭な足腰に鍛えること。そして握力を鍛えること。その上で…」
 松浦は言葉を打ち切った。
 「ここで面会時間が終わってしまってね、この続きを聞く機会を持つことは出来なかったんだ。申し訳ない」
 僕はとても重要なことが霧に包まれたようで、苛立ちを覚えた。とりあえずは父さんの言う通りにしてみるしかない。
 
 特注のカーボンシャフトを受け取ったジョージは驚いた。
 「47インチのXフレックスだって?シューイチは何を考えていたんだ。こんなもの使えるわけがない」
 「あとは僕が何とかするから、父さんの言う通りにして下さい」
 僕はそうジョージに頭を下げた。