僕らはテキサスの小さな町に移り住んだ。荒野に囲まれた、ほとんど何もない所だが、ゴルフコースを備えたリゾートホテルがあり、ジョージはうまいことそこのティーチングプロの職を得た。ゴルフコースと言ってもそんなに洒落たものじゃない。まともに芝があるのはグリーン上だけで、土を固めたフェアウェイは申し訳程度に短い草が生え、その周りはサボテンの点在する砂地で、天然のバンカーみたいなものだ。それが逆にコースを適度に難しくしているとも言えた。
町の人たちは豪快な気質だ。ゴルフは好きなのだが、気が短くてコースを回るよりもドライバーの飛距離を競うのが流行っている。ジョージはそこに目を付け、保安官の許可を得て町外れの荒野に練習場を作った。と言っても日本にあるようなものを連想しては的外れだよ、ネットなんてないし、打席の仕切りもないし、備えた物はヤーデイジを示す看板と照りつける日射しを避けるためのテントくらいだ。ところがこれで結構賑わってる。ドラコンの舞台に丁度いいんだな。そうだ、ドラコンって分かるよね?ドライビング・コンテスト、ドライバーでの飛距離を競うことだよ。より正確にはロング・ドライブ・コンペティションと言うけど、こっちでもドライビング・コンテストで通じるんだ。
アメリカじゃ立派な大会になってる。車のレースで加速を競うドラッグレースというのが盛んなように、アメリカ人の気質なんだろうね。ケインと僕はテントにビーチチェアを持ち込んで、まったりと練習場の受け付けをする日々だ。
ある日、軽く酔ったゴリラのような体格のおじさんがやってきて、何だ誰も相手が居ねえのかとブツブツ言い出した。ケインが立ち上がり、「オレで良ければ相手になりますよ」と言うと、おじさんは笑い出した。
「お前がか?まだガキじゃねえか。そんな弱っちい体で大丈夫かよ、やるからには金賭けるし手加減なんてしねえぜ」
おじさんは楽勝気分でドライバーで3球打ち、最高で270ヤードほど飛ばした。ケインはただ1球、290ヤード打って、青ざめたおじさんから100ドル頂いた。それが評判になって、町の荒くれ者たちがケインに挑戦してきて、結構な小遣いをケインに与えた。
練習場に保安官がやって来た。
「ここで賭け事をやってるという噂だが、ハイスクールではアルバイトも規制されてるのは知ってるのか?」
僕らは補導されることを観念した。
「どうだ、俺とも勝負してみるか?お前が勝てば見逃してやるが、負ければ補導だ」
どっちみち補導されるなら勝負を受けるしかなかった。腕に覚えのある保安官は軽く290ヤードを超えてみせた。ケインは全力で3球放ったが、どれも僅差で保安官に及ばなかった。
「さあ、一緒にきてもらおうか」
保安官がケインの腕を引く。
「ちょっと待って、僕が残ってる」
僕は思わず保安官を引き止めた。保安官は目を丸くしている。
「ジャパニーズボーイ、大人をからかうもんじゃないぞ」
僕は半ばやけっぱちで、ケインのドライバーを借りて打席に立った。ボールを打つこと自体が久しぶりだ。大きく深呼吸してバックスイングに入る。クラブがとても軽く感じる。左足を踏ん張りクラブを引き下ろすと会心の感触でボールは空高く弾け飛んだ。長い滞空時間の後、300ヤードの看板が音を立てた。沈黙の後、驚きの喝采が起こる。一番驚いたのは僕自身だ。父さんの言い付けが実り出したと言うことだろう。