僕はダイスケ、ダイスケ・アキノ、12才。郊外のゴルフ練習場を営むジョージ・クリスハートさんの所で暮らしている。学校が終わると毎日ケインと一緒に球拾いに励んでいる。ケインはジョージの息子で、僕よりも3才年上の兄のような関係だ。僕の父さんはジョージの知り合いらしいのだが、今は消息不明。幼い頃、母さんを亡くしている僕は、物心ついた頃からジョージの世話になっているんだ。
ジョージはプロのゴルファーらしいが、トーナメントに出たのを見たことはなくて、普段はアマチュアゴルファーのコーチをしている。僕らは夕方まで練習場の手伝いをして、それからランニングをして、夕食の後は隅っこの打席でボール打ちをする。体の大きいケインは練習場の奥までボールを飛ばし、お客さんの注目を浴びて得意満面だが、僕は全然飛ばなくて恥ずかしいし、つまらない。その後、練習場の周りに作られたパターゴルフでケインに勝てた日は気分がいいけどね。だから僕はパッティングは好きでよく練習してる。
知らない人に少し教えておくと、ゴルフというのはティーエリアからボールを打ち始めてグリーンと呼ばれる芝を短く刈り込んだ所に乗せて、そこからは転がして穴に入れる。ティーをスタートしたらグリーンに乗るまではボールを触れないんだ。穴すなわちホールまでに何回ボールを打つかを競うゲームで、各ホールに決められた打数があって、その打数をパーと言うんだ。パーよりも1打多くかかるとボギーって言って、逆に1打少ないとバーディーって言って誉められる。パーはだいたい4打が普通で、ミドルホールって呼ばれる。パーが3打の所がショートホールで、パーが5打の所がロングホール。標準的なコースは18ホールで作られて、ショートホールとロングホールがだいたい4つづつ、残りがミドルホールで全部でパー72になってるんだ。なんでそんな半端な数字になってるかって言うと、僕もよくは知らないんだけど、昔イギリスのスコットランドの羊飼いたちが羊を散歩させながら杖みたいのでボールを打って回ったのが始まりらしい。羊飼いたちは寒いからスコッチを水筒に入れて飲みながら回って、それがちょうどなくなるまでが18ホールになったって話だよ。だからスコットランドの海岸線はゴルフの始まりの聖地って言われる。
そんな毎日だから僕もケインもテレビやゲームなんて無縁だ。学校で話が合わないから友達なんて出来やしない。ゴルフの他は何も知らないって感じだよ。でもジョージにお世話になってるんだから、これでいい。
ジョージはケインと僕にゴルフのフォーム、スイングって言うんだけど、それを叩き込んでる。止まってるボールを打つだけなら簡単だろうなんて言う人もいるけど、やってみるとなかなか真っ直ぐには飛ばないものだよ。ちゃんと飛ばすにはゴルフクラブの打球面の十円玉くらいのスイートスポットに狙った方向に直角になるように当てないと駄目だからね。それも出来るだけ勢いよく。ジョージに言わせると、アマチュアゴルファーの多くはボールを上げようと救い打ちになりがちだ。それで打った後に後ろ足に体重が残って明治の大砲なんて言われる。野球なんかでもそうらしいけど、ボールを飛ばすには上から叩くようにしてスピンを掛けるといいんだ。そう言った訳で僕やケインが徹底的に教えられたのが、左足を軸にして頭を動かさず、左手でゆっくりとリードしてやること。あ、右利きの場合だけどね。ゆっくりとって飛ばないように感じるんだけど、ボールを打つのはクラブヘッドで、クラブヘッドを加速させていくのがコツなんだ。ゴルフはクラブという道具を使うから、力持ちじゃなくてもいいってところが体の小さくて細い僕にも向いてる気がする。全然飛ばないけどね。
僕は道具って結構好きなんだ。ゴルフの場合、ウッドって言う飛距離を出すためのクラブと、アイアンって言うグリーンに乗せるためのクラブと、パターって言うグリーン上で転がすためのクラブを組み合わせて使う。最多で14本までバッグに入れていいことになってる。ウッドって木という意味だけど、昔は実際樫の木なんかでヘッドが作られてたらしい。今は軽いチタンって金属で作られたものが主流だから、ウッドクラブと呼ぶのも違和感があるね。それぞれのウッドクラブには愛称があって、一番飛距離が出るのがドライバー、あと3Wがスプーンって言って、そっちの呼び方のがしっくりくるな。アイアンクラブはそのまま鉄で出来てて、決まった飛距離を出すために番手毎にほぼフェースの角度が決まってる。普通は3番から9番までのセットになってるよ。あとはグリーン周りで使うためのウェッジってクラブがあって、形はアイアンクラブと同じで、ボールにスピンが多く掛かるように通常のアイアンクラブよりも角度が寝ている。ピッチングウェッジ(PW)とバンカーという砂地で使うサンドウェッジ(SW)、最近ではその間の角度のピッチングサンド(PS)の3本が普通みたいだ。それらをキャディーバッグに入れて担いで回るんだけど、日本じゃアマチュアでもキャディーさんに任せるのが普通みたいね。
ケインと僕は週1回のペースでジョージと一緒にコースに出る。僕はまだパターを加えてジュニア用の5本セットを使って、レディースティーって言う前の方の距離の短いティーから打つ。ティーショットはスプーンで180ヤードってところだ。ドライバーはないからね。ケインとジョージはレギュラーティーを使う。ケインはもう大人用の本格的セットを貰っていて、ドライバーでジョージと同じく270ヤードは飛ばす。僕からみたら夢のような飛距離だ。それでミドルホールは軽々と2打目でグリーンに乗せる。僕は2打目もスプーンを使って350ヤードくらいまではグリーンに届くけど、それ以上は無理だ。だから大抵3打目で出来るだけピンに近寄せてパターでパーを拾う。ジョージの決めたルールで、パーをオーバーした打数について10回づつ腕立て伏せと腹筋が待ってる。バーディーを取ったらその分貯金が出来る。前はケインと2人して腕立て伏せしてたけど、最近ケインは2、3個バーディー出すから余裕で規定打数をクリアして、僕だけが毎度60~70回の腕立て伏せと腹筋に苦しむ始末だ。だからコースは嫌いだよ。
ケインは今年になって、大会に出場するようになった。ジュニアイベントでは既に2回優勝していて、大人のオープントーナメントの出場資格を得ているから凄いよ。僕はまだまだそんなレベルじゃないし、将来的にも希望なんて持てない。