ヤホー知恵袋、発言小町、BIGLOBE相談室etc. に毎日のように、浮気や不倫の相談が寄せられますね
それらを眺めていて、よく思い出すお話を一つ
当所で何度も取り上げている、サンケイ特派員だった近藤紘一氏
彼の著書‘サイゴンのいちばん長い日’と、妻ナウさんの著書‘アオザイ女房’
この2冊に取り上げられた『カム・ニュンの物語』です
その前に一つ触れておかねばならないのは、べトナムの結婚制度と古の浮気事情
ベトナムに一夫一妻性が敷かれたのは意外と遅く、ゴ・ディン・ジエム政権当時(在任1955年10月 - 1963年11月)
一説によれば、ジエムの実弟である大統領顧問ゴ・ディン・ヌーの妻、マダム・ヌーが敷かせたとか
本名:チャン・レ・スアン。レ・スアン(Lệ Xuân)は確か、『美しい春』みたいな意味だっけ?
実際は、可愛い顔して、坊さんの焼身自殺を「あら、人間バーベキューね~」(怖)
夫や義兄と同じく狂信的カトリック教徒、『傾国の美女』、無理ないかは置いといて
ご亭主の浮気相手が、街で奥さんとすれ違うものなら
ヨロシクやっている現場に奥さんに踏み込まれでもしようものなら
ドロボー猫は、横っ跳びに逃げ出す、裸であろうと一目散に飛び出して行ってしまう
一夫一妻制であろうとなかろうと、昔から決して弱くなかったベトナムの妻の座は
一夫一妻制になればなるほど尚更、確固たるものになりました
ベトナムは世界でも稀に見る、『面子』にこだわり死守するお国柄であり
ドロボー猫は、奥さんの面子を潰す、そのことだけで恐縮するというのです
そんなに怖けりゃ、スケベ亭主の相手んかするな?
哀しいかな、長年戦争やっているうち男の数が少なくなり、『需要と供給』が追いつかなかった
女房が怖いくせに危険な果実を食べたい宿六にとっては天国だったようで
女の面子を念頭に、ジエム政権末期のサイゴンへ飛びましょう
ジエム大統領のお気に入りであるT大佐が、一流ナイトクラブの名花カム・ニュンと恋に落ちた
将軍や佐官は後年、粗製乱造されて希少価値なくなったが、ジエム政権当時は非常に高い社会的地位を誇りました
かたや高級将校、こなた夜の名花
大佐とカム・ニュンの艶話はあっという間に、下町の市場から上流社交界まで広がる勢い
ところで、大佐は既婚者であり、さて奥さんの反応は?
浮気、それもたかが小娘などに大佐ともあろう夫を寝取られるなんて、面子も何もあったもんじゃない
激怒のあまり、夫の部下に命じて、ある晩帰宅途中の恋敵の顔に硫酸を浴びせる報復に出た狂乱ぶり
文字通り相手の顔を潰してやったわけですわ
事件は新聞で大いに話題になり、北の解放戦線側にジエム政権の腐敗ぶりを喧伝されたというので
ジエム大統領は、大佐を国外追放、大佐夫人は5年間の刑に処しました
政権打倒後、大佐はベトナムに戻ったものの、男にとってこれ以上は…という悪夢が待ち受けていました
カム・ニュンは、文字通り顔を潰され、職も失い、名花時代に蓄えた貯金も食い潰し
知己のあったナウさんが自宅の長屋の土間で営んでいた小さな飲み屋にまで物乞いに現れるほどの転落ぶり
焼けただれて目も鼻も潰れ、もう老婆のように老け込んだ姿で現われると
名花時代の羽振り良さを引き合いに出されてからかわれるわ
本人を目の前にして同情派と批判派に分かれた議論を聞かされるわ
残酷な酔客どもの格好の酒の肴にされたほどの惨状を呈しました
カム・ニュン自身は、涙を流しながらも拭おうともせず、まるで幽鬼のようにジッと戸口に突っ立ったまま
たまりかねたナウさんが、何枚かのお札をカム・ニュンの手に押し込み、「もうお行きなさい」
そんな光景が常だったそうです
当時ナウさんの家に居候の身であった近藤氏は、心なしか蒼ざめながら
「とても日本人の神経では考えられない。凄まじいね。身の毛がよだつようだ」
カム・ニュンは確かに日本人には想像もつかないまでの、身の毛もよだつ復讐劇を演じていました
彼女もまた、面子を重んじるベトナムの女です
心身ともに顔を潰されて、泣き寝入りや黙って引っ込んでなどいられるものか
自分をこんな惨めな境遇に落とした男の面子も潰すべく、焼けただれた顔を公衆の面前にさらすを厭わず
名花時代に大佐と並んで撮った写真を胸に、毎日、街一番の繁華街に現れ、物乞いに坐り込みました
大佐は無論ビビリ、何とかしてカム・ニュンから写真を取り戻そうと必死の努力するも
彼女はその日のおカネも欠くというのに、どんなに大金を積まれても首を縦に振らず
1975年のサイゴン陥落後も街にしばらく留まった近藤氏によれば
陥落の2,3日前まで、カム・ニュンはいつもの街角に坐り込んでいたそうな
ナウさんによれば、カム・ニュンの話を聞いた日本人女性の友だちは皆
「カム・ニュンは、どうして大佐夫人の方を恨まないの?
硫酸をかけたのは大佐夫人で、大佐はカム・ニュンの恋人だったのでしょ?
それなのに、何で大佐を恨むのかしら……」
と不思議がったとのことすが
ナウさんは、「やはりベトナム人と日本人は、少し考え方が違うのかな」と思ったといいます
カム・ニュン事件に関するベトナム人の考え方は
「カム・ニュンは、大佐を寝取り、大佐夫人の面子を潰したのだから
大佐夫人から仕返しをされても仕方がない話であり、彼女を恨むのは筋違いだ
夫の浮気が広範囲で噂になったのに、大佐夫人が黙って見逃したりしようものなら、人からバカだと嘲笑される
カム・ニュンに硫酸をかけた罪により5年間牢屋暮らしを強いられたが、それで充分償いは果たした
一方、二人の女性をを上手く取り仕切れなかった大佐は、愛人なんか持つ資格を持たない甲斐性無しだった」
仮に浮気や不倫が善だとしても、男女ともそれなりの甲斐性と覚悟を持つのが必須条件という意味ですかね
一度やらかした者のの常習率は限りなく高い。一生治らない病気と思え
寝取った側は自分の経験から、新たなる寝取り屋登場におびえる日々
家庭の表面上は穏やかだろうが、決して心の平安は訪れない
「夫の職場内不倫を知り、「ドロボー猫!」と職場に怒鳴り込んできた妻が、周囲の失笑を買ったのは
妻もかつて職場内不倫のドロボー猫側だったのを、元同僚は皆知っていたから」
なんて、ベトナム人から見たら、酒の肴にしたくもない幼稚園児級アホクサさでしょうよっての