(15)【Episode.1 祈り】9 | 人形使いが旅に出る

人形使いが旅に出る

ダークファンタジーライトノベル

【Episode.1 祈り】

 

9

 

 

 ようやくの思いで家に辿り着いた時

いつも見慣れた庭は、そこになく

代わりにあるのは

真っ二つに裂けて

へし折れた庭の楠木、

掘り返されたかのように

えぐれた大地だった。

 

 

 

 

 

 

折れた楠木の向こう、

テラス軒のある石壁は崩れ

軒を支える柱が

折れて屋根が斜めに倒れていた。

 

「…何が起こったんじゃ?」

呆然と辺りを見回すキリコ。

 

崩壊した テラスの奥に

見覚えのある服を着た

老女が仰向けに倒れていた。

 

「ガティア!」

キリコは全身の血の気が引き

雨に濡れた身体が急に

冷たくなっていくのを感じた。

 

 キリコは倒れているガティアに駆け寄る。

 

不思議なことに彼女の服は

全身血で汚れていたが

顔周りは綺麗に拭き取られた跡があった。

 

 そして眼や口は閉じられて

微笑んでいるように見える。

 

 

胸のところで指を交互に組み

一本の薔薇の花が添えられていた。

 

隣には飼い犬のプークの亡骸も

寄り添うように横たわっている。

 

 キリコがガティアの顔を撫でたとき、

彼女の肌は雨が染み渡って体温の奪われた

キリコのものよりずっと冷たかった…

彼女の魂は明らかに

この世から去っていた。

 

「何が起こったんじゃ…」

 

キリコは混乱した。

この状況が理解出来ない。

 

落雷はあったであろう…

 

しかし…

 

 あの庭の荒れ具合は

落雷で出来るものではない。

それはキリコが若い頃経験した

戦場の風景を彷彿とさせた。

 

落雷に巻き込まれて命を落としたのか…

 

それとも誰かの手によって殺されのか…

 

 そして弔われた痕跡があることが

彼を一層混乱させた。

 

数年前、ガティアはマコマを連れて

何かから逃げるように

この家にやって来た。

キリコはそのことと何か

関係があるように思えてならない…

 

 

その時キリコは、ふと思った。

 

「マコは?」

 

キリコはマコマの名を叫び

辺りを見渡す。

 

 

 

 

 

 

 

にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村

 

 

 

 

にほんブログ村 小説ブログ ライトノベル(小説)へ
にほんブログ村