(14)【Episode.1 祈り】 8 | 人形使いが旅に出る

人形使いが旅に出る

ダークファンタジーライトノベル

 

【Episode.1 祈り】 

 

8

 

 

 

 

 

 あの日キリコは

自宅から少し離れた森で

自分の木人形を使役して、

伐採作業をしていた。

 

昼にさしかかった頃

切り株の上に腰掛け

ガティアに作ってもらった

弁当を食べ終わった彼は、

それからしばらくして

また伐採作業の続きにとりかかった。

 

小一時間くらい経った頃、

急に妙な胸騒ぎがした。

こんなことは初めてだった。

キリコは作業を早めに切り上げ

木と木の合間を縫い

落ち葉で滑りやすい法面を

慣れた足つきで駆け抜け

ガティアとマコマの待つ

自宅への道程を急いだ。

 

 山の天気は変わりやすい。

さっきまで快晴だったはずなのに

いつの間にか、雨の匂いがしてきた。

 風が強くなり木々を揺らす。

風が木々の間を吹き抜け、波打つ枝葉が

まるでおしゃべりを

始めたかのようにざわめく。

そのざわめきは「はやく!はやく!」と

キリコを急かしている

ような気がしてならなかった。

 

「これが虫の知らせというやつかのう…」

 

彼はひとり呟く。

 

 そんなキリコの後ろ姿を

見守る男の姿がそこにあった。

 

漆黒の服に身を包み、

服の所々が青白い炎で

燃えている奇妙な男。

 

 

さっきそこで

タバコを吹かしていたかと思ったら

いつの間にか消えていた…

 

 

 

 キリコは家に着くまで

ひどく時間がかかった気がした。

 

気だけが焦り足が空回りする。

 

身体中が濡れているのが、

自分の汗なのか雨なのか

よくわからない。

服が貼りついて身体が重かった。

 

家のある方角に

稲妻の光と轟音と地響きが

キリコの身体を走り抜け、

彼を一層不安にさせた。

 

落雷…

 

(ガティアやマコマは大丈夫じゃろうか…)

 

 

 まるで空の黒い雲が自分の家に向かって

移動しているように思えた。

 

 斧を担いだ木人形が

足を滑らせた音が後ろから聞こえた。

 

キリコは気にも留めず

走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

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