(4)【Prologue】4 | 人形使いが旅に出る

人形使いが旅に出る

ダークファンタジーライトノベル

【Prologue】

 

4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっきの子供達は、すでに遠く

丘と丘の間に見え隠れしていた。

 

 丘の上で、言い合っているようだったが

ここからは、風に揺れる

草の音しか聞き取れない。

やがて少女は歩き出した。

 

 少女はこの時、まさかこれが

死地へ赴く旅路だとは

思いもしなかっただろう…

 

 

 

 

 

 

(私はただ、旅をしていただけ…

それなのに…なぜ…)

 

 

 

 

 

 数年後…

 

その少女は魔王と対峙していた。

旅の途中で知り合った者たちと共に…

 

 

 

 

 

 

 

 中央大陸の中東に位置する

バビロニア王国。

 

その王都イシュタルにある

魔王の居城、

通称【バベルの塔】

 少女はその塔の中腹部、

空中庭園の奥にある謁見の間にいた。

 

 薄暗いドーム状の天井を仰ぎ見ると

等間隔に明かり取りの窓が

取り付けられていて、その周りだけ

薄明かりが差し込んでいる。

光に照らされた埃が、まるで

小さな虫のように静かに舞っていた。

 

 明り取りから漏れる光は天井を

覆い尽くすように描かれた奇妙な絵を

ぼんやりと映し出している。

 

少女はそれを何処かで

見たことがある気がしたが、

魔王を前にして

思い出すだけの余裕はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壇上の玉座に片足を組んで座り

片肘を突き、薄笑いを浮かべて

美しい女性に身体を撫で回されながら

静かにこちらを見下ろす左腕の無い男。

 

 

 

現在【魔王】と呼ばれるこの男の

名前を誰も知らない。

ただ、六十年前に先代魔王を倒した

勇者と容姿が酷似していた。

 

 

 歳は30代前半だろうか…

鍛え上げられた肉体は拳闘士を思わせる。

濡れたような漆黒の長髪、

瞳には爛々と凶気を宿し

眉間には幾重にも皺を寄せ

邪悪な笑みを浮かべる。

 

 彼の周りは陽炎のように歪んで見えた。

 

 

 

「ようこそ勇者諸君、

さっそく歓迎の宴でも

始めようではないか?」

 

 魔王は甘く囁く。

 

 

 まるでどう猛な肉食獣に睨まれながら

ゆっくりと近寄られる感覚。

 

 確実な死…

少女はそう確信した。

 

今この場所が恐怖の淵…

息をするのを忘れ、戦慄が走り、

そして身体は硬直し、

暗い足元には

澱んだ冷気がまとわりついた。

 

 

 そして、冷たい汗が

少女の首筋を伝っていった…

 

 

 

 

 

 

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