2019.10.25-11.3


秋も終盤に差し掛かるある日の早朝、私は二日酔いの体を引きずりながら家を出た。10分ほど石畳の通りを歩くとバスターミナルにたどり着いたのだが、あいにくこの日は公営のバス会社でストライキが起こったため、倍の金を払って私営の観光バスで空港に向かう羽目になった。二日酔いといい、ついていない旅の始まりである。


7時前に空港に到着し、搭乗口の前で眠気と節々の痛みを感じながら搭乗開始の放送を待つ。昨晩のマスカレードパーティーとやらで調子に乗って飲みすぎたことを後悔したが、こうやって予定通り空港にたどりつけただけありがたく思うことにした。機内の座席につき、瞼を閉じる。薄れゆく意識の片隅で節々が疼くのを感じているうちに飛行機はモロッコ、カサブランカへ向けてヴェネチアを発った。




 

カサブランカへ降り立つと小額の両替を済ませ、すぐにマラケシュ行きの列車に乗るため駅を探して歩き出した。空港の看板の表示に従い、駅があるという方向へ歩くがたどりつく気配が全くない。私の方向音痴がいけないのか、それとも看板に問題があるのか定かではないが、30分ほど歩き回っても駅にたどり着くことはなかった。気温は30度ほどあっただろうか。二日酔いと暑さに気力、体力を削がれ、結局タクシーを捕まえる羽目になった。


 駅に到着し、マラケシュ行きの切符を買い、列車に乗り込む。客室の作りはというと、一列4人掛けの席が向かい合う形で設置されているもので、私は窓のすぐ隣の席だった。他の客室は数人が相席するかたちとなっていたようだが、私の客室に他の客が来ることはなかった。

昨日からの疲れを引きずっている私にとってはありがたい。車窓からの景色を独り占めしながら、かりそめの休息をとることにした。


列車が出発してしばらくするとそこには緑のない茶色の荒野がただ広がっていた。その殺風景な風景の中に、大地を割るように走る2本の鉄のレールと電線以外の人工物は見当たらなかった。私は窓にもたれかかり、巻き上げられた砂煙の奥に佇むその風景をただ眺めていた。