HITTING〜古くて新しい組手法に向けて | 増田 章の「身体で考える」〜身体を拓き 心を高める

【2020年8月8日】 

 新型コロナウィルスの感染拡大の第2波が始まっているようだ。墓参りに金沢に帰りたいが帰れない。また、もう何ヶ月間も会食をしていない。たまには友人、知人と会食して旧交を温めたい。

 飲食店を経営している人達が気の毒だ。私の肝臓が強ければ、飲みに行ってあげたい。だが、私には責任があるので厳しいのが現実だ。

 今後の対応で重要なのは、私が見るところ、医療体制の充実が一番だと思っている。また正確なデータ収集と分析だろう。医療体制に関しては、もっと国が動いて、早くやった方が良いと思う。またデータ収集と分析だが、今ひとつわかりにくい。専門家の方々も頑張っていると思うのだが…。私はやはり専門家のみならず、センスのあるリーダー、すなわち政治家が分析し判断するべきだと思っている。だが、我が国の最大の欠点は、政治家の国民に対する責任感の希薄さである。また、責任の所在さえはっきりしない。多分、誰にも責任を負わせない取らせないのが習い性になって、責任という感覚がないのかもしれない。私は、責任の所在をはっきりさせた方が良い、と思っている。なぜなら、責任の所在をはっきりさせるとは、権限を与え、任せるということだからだ。また、権限を与え、任せないから、政治家にリーダーシップが生まれないのではないだろうか。断っておくが、私は人に対し、なんでもかんでも責任を取れと喚くことは良くないと考えている。そして、もっと寛容になれと思っている。自分にもなんらかの落ち度があるかもしれないからだ(無くても寛容さが大事だ)。一方で、しかるべき地位にある人達、特に政治家には、国民に対する責任感を持って欲しいと思っている。

 

 空手道場も大変である。現在、コロナと暑さで、みんな空手どころではないのだろう。試合や合宿など、積極的な活動ができない(昨年は台風で合宿を中止した)。そんな中、しばらく延期していた、昇級審査を次の日曜日に実施する。今回は、3密を避けるため、人数を制限し、審査日を2回に分けた。当日は感染予防に細心の注意を払いたい。

 

 

 さて、大変な社会状況の中なのだが、新しい試みを始めている。昨年から準備して来た、面防具を使用したTS方式組手法(ヒッティング)の稽古のことだ。新型コロナウィルス感染予防の為の自粛により一時中断したが、自粛後、面防具が飛沫を防ぐことが理解されたようだ。違和感が緩和されているように思う。

 

 当初、面防具の使用は息苦しく、一部には不評だったと思う。だが、息苦しいということは、飛沫が飛ばないということである。まだ、面防具なしの組手は無理だろう。飛沫感染の可能性が高い。また、面防具はマスクよりは息苦しくない。是非とも、この機会に顔面突きありの組手を習得するぐらいの感覚、また、新しいことを体験するぐらいの気持ちで面防具を使ってもらえれば、と私は考えている。だが、段々とTS方式組手法が楽しくなって来るはずだ。なぜなら、顔面突きの攻防に必要な技術と技能が高まるからだ。ただし、その技術は私が様々な格闘技を研究して改良を加え作り上げた独自、かつ体系的な技術である。実はTS方式組手法とは、技術を体得する修練体系(システム)のことなのだ。TS方式組手法は、私が教えれば誰でも必ずできる。そしてすぐに上達する。だが、ただ見ただけでは似て非なるものであり、簡単ではないだろう。なぜなら、繰り返すが、TS方式組手法は単なる手段ではなく、技術と技能の体系そのものだからだ。

 

 お盆休みに教本づくりを進めたい。その前に、2019年7月に道場生に向けて発信したメッセージを加筆修正して再発信したい。

 

 

 

HITTING〜古くて新しい組手法に向けて

 

 

 IBMA極真会館では少年部から一般部まで組手稽古には防具(面防具、胴防具、拳プロテクター)の着用を必須とします。その理由は、体力のない人や技術や技能の未熟な人と組手を行ってもお互いに怪我をしないよう、安全性を確保するためです。また、互いに突き蹴りによるダメージを気にしないで組手稽古を行うためです。ただし、その本当の意義は、組手稽古の量を確保しつつ組手稽古の質を向上させることです。そのために考案されたものがTS方式(ヒッティング)という組手法です。TS方式組手法は、「技の正確性」をより強く意識し、また防御と攻撃、すなわち「攻防のスキル(技能)」を向上させることを目標とする組手稽古方法です。

 

【これまでの組手法では】

 これまでの組手法では、相手を攻撃することばかりに目が行き、より良い攻撃法という点に目が行き届きません。また、気の優しい人は、相手へのダメージを気にして、組手稽古では十分な稽古ができません。これまでは、相手にダメージを与えるような組手は、増田道場では禁止にしていました。しかし、そうなるとスピードある突き蹴りに対応する組手稽古はできません。また、技のレベル(使い方や当て方)が本当に高度であったかどうかが、従来の組手法では判断できません。さらに防御技を重視しないので、攻防のスキルが体得できないのです。本当は、私の道場では、徹底的に防御技を教えていましたが、多くの門下生が防御技を使いこなせませんでした。その原因は、従来の組手法では防御法の重要性が意識できなかったからだと考えています。なぜ意識できなかったか。それは組手の勝負判定が目の曇った価値観によるものだったからです。兎にも角にも、防御技を使わない、かつ使えないということは、技を見切る意識が低いということであり、詰まる所、より効果的な一撃(打撃技)を生み出すことができないということなのです。

 

【見事な一撃】

 私は、極真空手における見事な一撃の多くは、相手の防御力が劣っているために生まれただけの技がほとんどだと考えています。なぜなら、より高度な一撃とは、高い防御力の網の目を透視する心眼により、位置、間合いを制し、かつ機を制した一撃だと考えるからです。しかし、そのような高い防御力の網の目を持った空手家がほとんどいない中で、本当の意味での見事な一撃が生まれるわけはないのです。ただし、極真空手家の技には破壊力があります。その破壊力を生かし、高い防御力、あるいは異種格闘家の技の網の目を透視して、見事な一撃を決めるには、組手によって養う技術と技能とは何かを明確にすることなのです。言い換えれば、組手に対する考え方を変えることです。変えるポイントは、何を勝負判定の優先事項とするかという観点です。TS方式では、顔面突き採用すること。また有効打撃の判定を、ダメージでは無く、打撃場所(ヒットポイント)とタイミングなどにより判定します。そのような判定方法、ルールによって、防御技のみならず打撃技の活用レベルが向上します。

 

 さらに攻撃技と防御技の活用能力と攻防技術により、「技(技能)を観る眼」を養うことができるでしょう。TS方式組手法では、技(技能)を観る眼を試合の第一義、優先事項とします。そのことにより、極真空手家が不十分、かつ偏ったダメージ優先の試合ルールの中で勝つことに汲々とし、無駄遣いしてきた精力をより善く活かします。具体的には、より高いレベルの技術と技能の養成に精力を配分するということです。換言すれば、TS方式(ベーシック方式と顔面突きありのTSアドバンス方式)の組手法は、新しい技術と技能の養成法です。その本質は、新しい勝負判定の観点を付与することです。もちろん、TS方式組手法も完全無欠のものではないでしょう。ゆえに伝統的な極真空手の組手方式など、様々な組手法を試すことも良いと思います。要は、たえず見直しや改善をしていくことです。また、私はこと組手法に関しては、単純に伝統を守り続けるという姿勢に反対します。なぜなら、組手とは当事者を成長進化させる力を付与するものであるにも関わらず、ただ単純に伝統を守るということとなれば、手段が目的となるからです。つまり、伝統の堅守は、先人への報恩という面もあるかもしれませんが、多くは権威化の手段だ、と私は思います。もちろん、社会のような多様、かつ大きな集合体をまとめるには、何らかの権威が必要でしょう。また、そのために堅守しなければならない伝統もあると思います。しかしながら、伝統も手入れをしないと劣化し、くだらない虚勢に陥ると思っています。更に言えば、極真は革新の空手であったはずです。私はもっと良いもの、高いレベルのものを作り上げたいのです。そのためには保守、かつ革新というような方向性を持たなければならないと思います。

 

【極真空手の長所を活かし、欠点を修正する】

 TS方式の組手法の導入は、今、始まったばかりです。ゆえに、すべての会員が未熟だと思います。しかしながら、この組手法を行うことで、従来の極真方式の組手では得られなかった、「心の使い方(制心)」「位置取りや間合いの調節(制位)」「技を有効とするリズム、機を捉える感覚(制機)」の感覚を得ることができるでしょう。それらの感覚は、極真空手の長所を活かし、欠点を修正するでしょう。また、空手の原点である、武術、護身術としての基礎をより盤石なものとします。換言すれば、TS方式組手法の導入は極真空手の原点回帰の試みでもあるのです。

 

 補足しますと、TS方式組手法、別名ヒッティングには、顔面突き無しの「TSベーシック方式(スタイル)」と顔面突き有りの「TSアドバンス方式(スタイル)」があります。はじめはベーシックスタイルを行い、組手に慣れてください。慣れて来たら、顔面への突きを可とした「TSアドバンス方式」の稽古に移行します。繰り返すようですが、本来の空手は護身術の要素を含むものです。ゆえに顔面への突き技を防ぐ技術と技能が必要なのです。

 

 IBMA極真会館は、極真会館増田道場の時代も含めると、すでに35年以上の歴史があります。今後もさらにより良いものを追求しようと考えると、更新が必要です。ゆえに、これまでの修練方法で有段者になった人たちも、新しい修練方法を習得してください。言い換えれば、PCがバージョンアップするように、また新しいソフトウェアをインストールするように、各々の空手の更新をしてください。

 

【歳を重ねても、技術や技能が高まるような修練・稽古を】

 おそらく、私も含め、すべての極真空手家のレベルは未熟なものです。そして、このままでは極真空手のレベルは上がりません。極真空手を誰よりも長く、真剣に修行してきた増田がいうのですから間違いはありません。また、全ての人が、加齢とともにその技術や技能のレベルも低下していくでしょう。否、そもそもその技術や技能のレベルがあったのかも疑ったほうが良いでしょう。かくいう私も、自分の技術と技能を疑っています。だからこそ、残り少なくなった空手道人生をより有意義なものにしたいと考えています。そして、歳を重ねても、技術や技能が高まるような修練・稽古をしたいと考えています。

 

 最後に、IBMA極真会館の黒帯は、率先してTS方式を理解してください。顔面突きの攻防技術と技能は空手家に必須の事柄なのです。私は、40年以上前から、少しづつですが修練してきました。これから空手武道を始める人は、すぐに始めてください。私はかなり遠回りをしました。しかし、その遠回りは無駄ではありません。遠回りをしたからこそ得られるものもあるのです。しかしながら、これからは新しい道を行きましょう。もちろん来た道をしっかりと精査します。またルーツを忘れたりはしません(極真方式も残し、定期的に試合もします)。ただ、行き止まりが見えた道を行くのは面白くありません。

 

 何卒、黒帯の人達には、新しく空手を始める人に対し、より良い空手を伝えることに協力して欲しいと思っています。そのためには空手技術と空手に関する認識の更新が必要です。面倒ですが、必ず自分自身の更なる向上につながると思います。断っておきますが、増田 章が数多くの試合経験と長年の研究の中から考案した、TS方式(ヒッティング)という組手法も空手武道の修練の一つであり、全てではありません。しかしながら、その修練法によって、空手武道に必要な眼、足、スキル、それらすべてを包含した感覚(認知能力)を養成できると思います。同時に、力のみに頼る「武」ではなく、力をより善く活かす武の道を開拓するでしょう。そのような武の道、すなわち武道は、老若男女、多くの人達が長く続けられ、かつ人生に役立つものです。そのような武道が、私の考える空手武道です。

 

 それでは、これからも共に道場で汗を流し、そして考え、最高の空手を追求して行きましょう。

 

備考

  • (2019年7月)2020年8月7日加筆修正/2020年8月29日 一部加筆修正
  • 2020年9 月以降は、「制心」「制位」「制機」というキーコンセプトを「制心」「制機」「制技」というキーコンセプトに変更した。