2004年5月20日。
日本のブチハイエナ飼育環境黄金期の始まり、と言える日。
日本平動物園にいるブチハイエナ2頭(両親が同じである兄弟)のうちの兄ツキくんの誕生日。
ツキくんは日本で初めて、悲願の出産育児に成功し、無事生育した個体だ。
そんな「日本で最初に生まれたブチハイエナ」であるツキくんを産んだのがキラさん。
お父さんはホシくん。
キラホシ2頭は大宮公園でお馴染みだが、当初日本平動物園がアフリカから導入した個体。
2006年夏に日本平動物園から大宮公園小動物園にブリーディングローンのような?関係で両親キラホシが転居した。
子であるツキくんだけが日本平に残された。
この環境の変化は、特にツキくんどれほど影響を与えたか想像する。
ツキくんの「むずかしい」「こじれた」感のある性格は4兄弟の中で抜きん出ていると思う。
大宮公園に転居してからのキラホシは子供3頭を産み育てた。
・レイ:2007年4月5日生
・セレン:同上(レイ・セレンは双子の兄弟)
・ブブゼラ:2010年4月8日生
その後、子供達は他園へ旅立って行った。
レイ:大宮公園→岡山池田→大阪天王寺
セレン:大宮公園→日本平
ブブゼラ:大宮公園→宇都宮動物園
キラホシをきっかけにブチハイエナに魅了された。
日本全国のブチハイエナを可能な限り訪問しているが、自分が住む埼玉から遠くに居る個体とはなかなか会えない。
忙しくて時間が捻出できない昨今はなおのこと。
だから、せめてキラホシファミリーには積極的に会いにゆくことにしている。
ファミリーの近況。
【キラ】2003年6月〜日本平動物園(年齢不詳だが国内最高齢):大宮公園小動物園
子供たち4頭の母。
日本のブチハイエナ界では、レジェンドとなりつつある個体。
日本で最初に出産に成功した個体。
ブチハイエナは女の子にも偽ペニスがあり、そこを通って子供が生まれる。
そんな危険を伴う出産のため、母子ともに死産率が高い。
ブチハイエナ国内最高齢と言われているが、出自は不明。
年齢も誕生日もわからないが、なぜか推定年齢は知られている。
この時期、最高気温が20℃半ばくらいの頃は、ガラス前の定位置で寝ていることが多い。
木の幹や棒を枕として使って寝ることができる稀有な存在。
とにかく、とてもかわいい。
世の中にはいろんなハイエナがいるが、ダントツにかわいい。
キラさんはかなり個性的。
寝ながら足を上げることがある。
こんなことをする個体は他に知らない。
足上げの動機は不明、想像はしているが、その域を出ない。
健康状態は「良好」に見える。
これからも見守っている、長生きしてほしい。
_________________________________
【ホシ】2000年?以降〜日本平動物園(年齢不詳):大宮公園小動物園
子供たち4頭の父、どの個体よりも小柄で華奢。
小柄で華奢なことは「甲高い声」として反映される。
「ゥーオッ」と10回くらい大声を発する行動が有名だが、あれは遠くにいる個体に独自の「声紋」で自身の存在を知らせている。
個体ごとに鳴き声が異なり、容易に判別できる。
ホシくんの許を去って数分して、この声が聞こえてくることがよくある。
「呼び戻したいのかな」「戻ってきてほしいのかな」と思う。
オランダ人ブチハイエナ研究者ハンス・クルークの古典的名著によればこの鳴き声の意味は「俺はここにいるぞ」。
だが、個体によっては全然違うタイミングで鳴くから一概に断言はできない。
鳴く前に、トリガー行為があったりもする。
とにかく健脚、ひたすら歩く。
歩くことは良いことだと思うが、歩き過ぎの感もある。
去春から夏まで激太りしたが、その後冬から春へかけて元通りのスリムな体型に戻った。
体調不良が頻発している。
深刻な体調不良が忘れた頃にやってくる。
今年の年始からひと月以上は死にかけていた。
覚悟をしたほど、ひどかった。
ホシくんとはお互い理解できずとも「挨拶」が成立している。
会えばいつも「グウグウ」と饒舌。
これは会話の時の声、日本平の2兄弟が近寄ってはこの声色で会話している。
人によく話しかける例はホシくん以外で知らない。
ホシくんは体調に不安がある。
今は回復したと思っているが、なんとなく体調不良が見え隠れしている。
「ガリガリタイム」という牛の肋骨のご飯を音を立てて食べるシーンを来客に見せるイベント。
このイベントを長年担当しているがやり過ぎの感がある。
年齢、固いものの食べ過ぎなど原因はあるだろうが、ホシくんの口の中を見ると摩耗して歯がもう無い。
それでも、仕事だから「ガリガリタイム」をやらざるを得ない。
生かしてもらうために無い歯で頑張って食べる仕事をしている。
歯がまだ残っている奥歯中心に横から咥えて噛むことが多くなった。
数年前まではあっという間に食べ尽くしていた同じ形状の牛の肋骨を、今では時間をかけて食べている。
去年の夏は干からびるかと思った、飼育員によって水を与えてもらえなかったホシくん。
場内の池はキラさんのものだから決して手をつけないホシくん。
そのようなことをわかってもらうように数年前飼育員氏たちに意見したけれど、なぜか去夏は最悪だった。
ただでさえ、水分を摂取しない傾向のブチハイエナちゃんたち。
彼らに積極的に水を飲ませるよう水に味をつけたり工夫をしている日本平動物園の取り組みを見習ってほしいものだ。
先日GWの初夏の折、静岡遠征でツキセレン2頭が水を「がぶ飲み」しているのを見て驚いたものだ。
腎臓を病まないよう、長生きできるよう、配慮している他園の飼育ぶりを。
大宮公園のハイエナ舎展示場には未だに水飲み環境を作ってもらえなかった。
以前お願いしたことがあったが、その頃の飼育員さんたちは「トロぶね」で対応してくれたが、結局2頭が受け入れてくれなかった。
トロぶねを挽き回すキラさん、怖がって近づかないホシくん。
それ以降はお願いもしていない。
最悪、キラさんは場内の金魚が泳ぐプールの水を飲めるし、そこで行水することで涼を得られる。
それが、ホシくんには出来ない。
なぜ出来ないのか?
それはキラさんがハイエナ社会で圧倒的上位にいて、ホシくんは手を出せないのだと思う。
残念ながら、ホシくんのように常に脱水気味で、骨ばかり食べていると間違いなく腎臓を病む。
そんなホシくんは自分で穴を掘って自分専用の天然の水たまりを作る。
雨が降ることで水を得て、その水を維持するために、自分でおしっこもして水を貯めている。
暑い日はそこで腹ばいに寝そべって涼を得ている。
定置の水場が特にホシくんのためには必要なのだ。
だからこそ、ホシくんが作ったこの天然の水たまりは欠かせないもの。
飼育員の手によって、せめて夏場だけでいいから枯らさないように注水して維持してほしい。
間違っても以前のように、ボウフラが湧くからと言って埋め立ててはいけない。
このようなことがわかったのは、何年も通い詰めて、観察してのことだ。
彼らの行動から「そうであるとしか考えられない」という結果に至るのだ。
自分は飼育員以外ではキラホシのことを最も理解している自負がある。
そんなホシくんだが、自分としては一番仲が良いブチハイエナ個体だ。
ホシくんのファン、虜になった人間は自分以外にも数多くいると思う。
ホシくんのおかげでブチハイエナに目覚める人がどれほどいただろうか。
そこが、ホシくんのすごいところだ。
本当に唯一無二の人好きする個体。
時々、仕草が人間に見えることがある。
最近特に、健康面で不安定が目立つようになった。
そう長くないと心配になることが多くなった。
とはいえ、長く生きていてほしい。
ホシくんも本当にかわいい。
後編はキラホシの子供達について。
かわいいキラホシから生まれた子供達がかわいいのはいうまでもない。