NO BOOKS NO LIFE -読書の時間―  -41ページ目

10.井上雄彦:バガボンド 31

武蔵再起動!深手の中から蘇る因縁の31巻


因縁の31巻というのは、同じ著者の傑作「スラムダンク」が31巻で終わっているからです。


山王工業との一線で、大逆転劇を演じたヒーローとなった桜木花道ですが、その激戦の中で大きな痛手を負った花道は、復活を期して江ノ島近くの療養所で、リハビリを送る・・・というところで「スラムダンク 31」は終わります。


「バガボンド」でも、吉岡一門相手の70人斬りの激戦ののち、足に深手を負い、満足に歩けない状態で、幽閉の身に置かれた武蔵。仕官の道もある中で、歩き出すのです。「戦いの螺旋」に自ら赴くことは望まなくても、「天下無双」の誉れを得た彼の命を、今こそチャンスとばかりにつけ狙う刺客には事欠かない武蔵・・・そんな彼の前に現れるのは、関が原以来の再会となる伊藤一刀歳でした。


他方、武蔵を仇とばかりにつけ狙ってきた本位田又八の母お杉ですが、又八との再会後まもなく、病に伏せってしまいます。母親に自らの嘘をことごとく見抜かれていると知った又八は、お杉を背負い、郷里の宮本村へと向かうのですが・・・


「バガボンド 31」の主人公は、武蔵ではなく、又八とお杉でしょう。「天下無双」が単なる言葉と知りつつ、「戦いの螺旋」より抜け出そうともがき続けながらも、刺客の武芸者たちを倒し続ける武蔵の心の闇、そして旅路の果てに又八がようやく見つけた光を、その生い立ちまで遡りながら描き出します。



バガボンド(31)(モーニングKC)/井上 雄彦
¥560
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著者:井上雄彦 書名:バガボンド31 出版社:講談社 2009年


おすすめ度:★★★


30巻が、武蔵とおつうとの恋物語の一つの結論のようなものが見られた華があったのに対し、なんだか地味な巻です。後は、佐々木小次郎との対決まで、いかに人と心の綾を織りなすか・・・でも、そこまでゆくのにまだ時間がかかりそうです。それにしても、最近の武蔵の顔、何だか・・・髪型といい、髭といい、どう見てもこれはジョニー・ディップじゃないですか。桜木花道の顔の方がオリジナリティがあってよかったです。

09.ナンシー・ウッド:今日は死ぬのにもってこいの日

魂に響くインディアンの叡智の言葉



死ぬのにいい日だ-この言葉はあなたはどこかで耳にしたことがあるかもしれません。


他のいくつかの書物のタイトルにもなり、さまざまな場面で引用され、そしてコミックの中でも死地に赴く主人公の台詞として使われています。


その言葉のルーツは、アメリカ・インディアンの古老の言葉から来ています。


著者のナンシー・ウッドは、ニューメキシコのタオス・プエブロ・インディアンとの交流の中で、彼らの自然と一体化した死生観に深い影響を受け、詩や小説のかたちでそれを結晶化させました。その成果の頂点をなすのが、この「今日は死ぬのにもってこいの日」です。


今日は死ぬのにもってこいの日だ。

生きているものすべてが、私と呼吸を合わせている。l

すべての声がわたしの中で合唱している。

(p39)


インディアンたちは、死に向かい合う時に、恐れもなければ、悲しみもありません。


なぜなら、大地とひとつである彼らにとっては、それは移り変わりゆく季節の変化同様、自然の当たり前のプロセスにすぎないからです。


おまえはきく、

冬はなぜ必要なの?

するとわたしは答えるだろう、

新しい葉を生み出すためさと。

(p14)


こうした言葉に深い感動を覚えるとしても、果たして彼らの村を訪れる人々とどれほど違った境地であるのかは疑わしいかもしれません。


「だからここに住んでいなくてよかった、と本当は思っているわけ。そのくせ、俺たちが究極の理解への鍵を握っているんじゃないかと疑っている。」(まえがき)


しかし、読み続けるうちに、その自然観が西洋的というよりも、ずっと東洋的であり、日本人の自然観からも大きく隔たっているわけではないことに気づくことでしょう。おそらく、稲作文化以前の原日本人の文化は彼ら、ネイティブ・インディアンの文化と極似したものであったのかもしれません。心の中に、身体の中に、そして魂の中に、言葉の一つ一つがいつしか自然に溶け込んでゆくのを感じることでしょう。


今日は死ぬのにもってこいの日だ。

生きているものすべてが、わたしと呼吸を合わせている。

すべての声が、わたしの中で合唱している。

(p39)


この書物の長所の一つは、巻末にすべての詩句の英語の原文が載っていることです。その英語は、ふだんなじみのない生活単語の難しさを除くと、きわめてわかりやすく、美しい言葉の響きを持っています。


Today is a very good day to die.

Every living thing is in harmony with me.

Every voice sings a chorus within me.

(R-13)


「今日は死ぬのにもってこいの日」(原題:Many Winters)は、1974年に出版されて以来、世界で読み継がれている不朽の名著です。


お勧め度:★★★★★


今日は死ぬのにもってこいの日/ナンシー ウッド
¥1,785
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書名:今日は死ぬのにもってこいの日だ 出版社:めるくまーる  1995年初版
著者:ナンシー・ウッド 挿画:フランク・ハウエル 訳者:金関寿夫

08.山田悠介:オール

鬼才山田悠介のピュアな青春小説


山田悠介というと「リアル鬼ごっこ」「親指さがし」など、追い詰められた人間の極限状況を描く、どこかしらおどろおどろしい作品世界のイメージが伴いますが、この「オール」はサラリーマン生活に飽き足らず、会社をやめ、何でも屋に就職したその後の物語を描くものです。


テーマとしては、「自分探し」ですが、同時に石田衣良の「池袋ウエストゲートパーク」シリーズに類した、トラブルシューターの事件簿にもなっています。半分、青春小説でありながら、同時にミステリーのおいしい部分をブレンドしたバランス感覚はなかなかのもので、万人が楽しめる作品となっています。


主人公荻原健太郎は、アパレル業界の一流企業に就職するものの、1年もしないうちに、ただこき使われるだけの生活にうんざりして、あっさり辞表を出してしまい、その後アルバイト暮らし。


しかし、彼は生活に必要なものをダンボール箱で送ってくれる母親にそれを告げることができない。


そのアルバイトさえ止め、生活の糧を得るために彼が選んだ仕事は「何でも屋花田」だった。


「ゴミ屋敷」では、五百万円の報酬をかけて、いかつい仲間のとともに夕方の五時までにゴミ屋敷のゴミを片付けることを請け負う。はたして、五時までに屋敷いっぱいのゴミを片付けきることができるのか?そして、依頼のめールの表題『わたしを見つけて』とは・・・?


「運び屋」では、健太郎の恋人、梓がアメリカから帰国し、彼のマンションを訪れることより始まる。母親同様、彼女にもアパレル業界をやめたことを彼は告げていないのであった。そんなころ、「何でも屋花田」が請け負った仕事は、あるブツを指定された場所に運ぶことだった。見るからに怪しげな仕事だが、それは梓をも巻き込み、二人の運命に思わぬ波乱をもたらす。


「政略結婚」では、親によって引き裂かれた依頼者の兄とその恋人を会わせる依頼を受ける。だが、女性の結婚式は三日後に迫っていた。結局、ガードの固い女性を連れ出すことができるだろうか。そして、二人の恋の行方は?


「母」では、帰省しようとした矢先、母親が健太郎のアパートを訪ねてくる。そんな折、「何でも屋」が引き受けることになったのは、気難しい老女の世話の仕事であった。母親をだますことに耐えられなくなった彼は、ある決意をするのであったが・・・


「最後の仕事」では、実家を継ぐことになった長崎が会社をあっさり辞めてしまう。しかし、彼には意中の女性がいた。スナック「雫」のホステス夏美である。すっきりしないものを感じた健太郎は長崎を連れ戻そうとする。そんなとき、夏美につきまとうストーカー男の事件が発覚する。それに対して、健太郎たちは・・・


この作者の場合、最初の設定を見れば、ある程度結末まで読めてしまう部分が少なくありません。つまり中途の展開がきわめてベタなのです。しかし、一種の人情ものであるこの作品の場合は、それを簡単に許してしまう自分を発見しました。田舎より上京して親にいいところを見せ安心させたい、そんな田舎の純な青年の心情は、若杉公徳のコミック「デトロイト・メタル・シティ」の根岸宗一の心情にも通じるものです(特に映画版に顕著)。


ここに、作者山田悠介の素顔を垣間見る思いがするのです。



オール/山田 悠介
¥1,155
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07.石田衣良:ドラゴン・ティアーズ―龍涙

待望の「池袋ウェストゲートパーク」シリーズ最新作


あんたはIWGPって知っているかい。


IWGPと言っても、昔アントニオ猪木がハルクホーガンにアックス・ボンバーでのされたあのプロレスリングのタイトルのことじゃない。


IWGPは池袋ウェストゲートパークの通称名、要するに池袋西口公園を舞台とした都市小説のシリーズ名のことだ。


「池袋ウェストゲートパーク」は、ちょっとした人気シリーズで、今まで8冊と外伝一冊が出版されているが、この「ドラゴン・ティアーズ(龍涙)」はその9作目にあたる。


この主人公となるのが、通称マコト、本名真島誠という工業高校あがりの八百屋の倅だ。


マコトは、実家の八百屋の店番を手伝いながら、雑誌にコラムを書いたりして、小銭を稼いでいる。


しかし、マコトの名前が池袋一帯で知れ渡っているのは、八百屋の営業手腕でもなければ、その文章力でもない。トラブルシューターとしての腕前によるものであって、地元のヤクザの頭も、警察署長も一目置く存在だ。


だからと言って、マコトが冴羽 獠のような無敵の銃の腕前を持つスイーパーであるわけでもないし、無類の女好きであるわけでもない。槇村香や香瑩(シャンイン)のような人も羨むような豪腕パートナーがいるわけでもない。いるのは、「池袋最強」と称されるオフクロくらいのものだ。


マコトは、好奇心旺盛で面白そうな話には首を突っ込まずにはいられない。そして、身体を張って依頼者のために、事件の解決へと乗り出す。そして、経費以外は金を受け取らない。今時、こんな奇特なトラブルシューターが世の中にいるだろうか。


マコトは腕は立たず、時に敵に袋叩きにあったりするし、ギャグのセンスも今ひとつで、しょっちゅう周囲の失笑をかっているが、ヤツにあるのは類まれなる人脈とそれを活用したクレバーな立ち回りだ。いわゆる調整型ヒーローというやつだ。


おっと、前置きが長くなりすぎたようだ。


この「ドラゴン・ティアーズ -龍涙 池袋ウェストゲートパークⅨ」では、マコトのもとに四つの厄介な事件が寄せられる。


「キャッチャー・オン・ザ・目白通り」では、目白駅まででキャッチをはたらく、カリスマ・エステティシャンの被害者の女性のために、マコトがストリートギャングのイケメンリーダー、キングことタカシとともに、一肌脱ぐという楽しいお話だ。


「家なき者のパレード」では、池袋周辺のホームレスたちを恐怖のどん底に陥れた悪党の正体を暴き、対決するという人情味あるお話だ。


「出会い系サンタクロース」では、出会い系部屋で出会った女性に一目ぼれした彼女いない暦28年のサラリーマンのために、東奔西走するという身につまされるようなお話だ。


そして、表題作「ドラゴン・ティアーズ―龍涙」は茨城の工場から脱走した中国人の美少女を探し出す中で、中国人社会の複雑な構図の中にまきこまれ、にっちもさっちもゆかなくなる。おそらくマコトの手がけた事件の中でももっとも厄介な事件だろう。この時の解決策は、おそらく誰も、このオレさえも想像しなかったようなウルトラCなんだが、これ以上は本を買って読んでくれ。


というわけで、おしゃべりもこのへんにして店番に戻らないと、オフクロに何を言われるかわからない。


オレが今聞いているのはワーグナーだ。やっぱ、クラシックっていいよな。


あんたも、J-POPやロックだけじゃなくて、たまにはクラシックを聞いてみたらどうだい。


ドラゴン・ティアーズ──龍涙/石田 衣良

¥1,600
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06.一色まこと:ピアノの森 16

舞台はショパンコンクールへ、カイのピアノが世界に広がる


もう一つの、大人気クラシック系のコミックと言えば、一色まこと「ピアノの森」です。


「のだめカンタービレ」も、作者の出産をはさんで、長期の休載がありましたが、「ピアノの森」も掲載予定の回が落ちることが多く、時には目次にありながら、該当ページには他の作家の作品がある・・・なんて事態もありました。それでも、雑誌も読者も作者を見捨てることなく、あたたかく見守り続けている作品、それが「ピアノの森」です。


昔、スキゾとパラノの二元論が一世を風靡したことがありましたが、「のだめカンタービレ」がスキゾとすると「ピアノの森」はパラノです。「のだめ」では、自由に様々な作曲家の様々な音楽に触れ、ありもしないマラドーナコンクールだの、自由にコンクールや音楽祭をつくり、そこを活躍の舞台とするのですが、「ピアノの森」では曲もショパンに限られ、舞台もひたすら現実に存在するショパンコンクールに向け、収斂するという形になっています。「花田少年史」では、交通事故にあった少年があの世の人々と自由に交流するという非現実的なファンタジーの世界を繰り広げていた一色まことが、一転息詰まるような実在のコンクールのリアルの中に、物語をつくり、進めようとする時、時に苦渋に満ちた歩みを示すのもうなづけることでしょう。


「ピアノの森16」の中では、主人公一ノ瀬カイが一次予選のピアノを弾く中で、カイの出自の“森の端”の記憶が阿字野の心にも鮮烈によみがえります。過酷な境遇にありつつも、女手一つでカイを守り続けた母レイへの想いをのせて、カイがショパンを弾く時、その波紋は会場にいた人々の心にも広がります。


しかし、コンクールでは、観客と審査員の評価は必ずしも一致しないもの。果たしてカイは二次予選に残れるのか。そして、一次予選発表で思わぬ波乱もある中、誰よりも動揺を隠せなかったのは・・・


ピアノの森 16 (モーニングKC)/一色 まこと
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