愛しのキラー・カーン | やせ我慢という美学

やせ我慢という美学

夢はきっと叶う ひとつだけきっと叶う
そのために何もかも失ってかまわない
それほどまでの夢なら叶う
一生にひとつだけ
夢はきっと叶う 命も力も愛も
明日でさえも引き換えにして きっと叶う

昨年末、キラー・カーンが死んだ。

76歳。自分が経営する居酒屋で仕事中に突然倒れたという。

現役時代から好きなレスラーだった。大相撲から日本プロレスに入り、その後、新日本プロレスへ、最盛期にはアメリカで大活躍していた中をいろんな大人の事情で40代の働き盛りの時に引退してしまった。顔つきがほんとうに「いい人」としか言いようのない善人の「ヒール」だった。経営戦略で「モンゴル人」と称してリングに上がり、ヒーローを際立たせるわき役に徹していた。日本でもアメリカでもメインイベンターとして大活躍していたんだ。あとで知ったことだが、一週間のファイトマネーが600万円。そのうちの9割を新日本プロレスがピンハネしていたというから聞いていた僕が腹立って仕方ないんだから、当人であるキラー・カーンの悔しさやいかばかりか。

引退してからもYOUTUBEチャンネルを発信して当時のプロレス界の内情を真摯に語っていた。かれは猪木を嫌い、永源遥を恨み、長州力を軽蔑していた。馬場さんを尊敬し、アンドレにも敬意を表し、その朴訥としたしゃべり方がすべて本当のことをしゃべっていると十分推測できる。

数年前、自転車運転中に子どもをひき逃げしたという容疑で捕まったことがあったが、のちに不起訴をなった。そのひき逃げの記事を見て、昔、大相撲界で自分の付き人をしていたキラー・カーンがそんなことをする男ではない、とわざわざ本人に電話してきたのが当時の栃東だった。その栃東が昨秋、カーンさんの店に来て数十年ぶりに涙の対面した、という記事を見てぼくは胸いっぱいになった。

こんなに純粋な人間を僕はあまり知らない。

合掌。