天保開珎 酉拾 

 

形態 : 丸形穴あき銭 

分類 : 年号銭/試作銭 

サイズ : 直径 39mm、厚さ 2.5mm 

量目 : 19.7g 

材質 :銅 

お宝度:◎◎◎◎◎◎

作銭度:下 

 

 

 

 

 

今回紹介するのは、

「天保開珎」という銭銘の丸形穴あき銭で

裏側には、翼を広げた鳥の絵と、その下側に

「拾」という文字がある一見絵銭風の銭貨です

 

開珎と銭銘につくところから

「天保」という年代が開始されたことに因んだ

何か貴重で意義ある銭貨との印象を受けますが・・・

 

これはいったいどういった物でしょうか!?

本銭に関する情報は、文献、ネットともに

全くといっていいほど無いですね~

 

 

そこで、まず、当時の鋳銭事情に注目すると、

江戸時代の銭貨(金銀貨幣を除く)は、

大別すると通用銭と絵銭(厭勝/玩賞)に分かれ

 

通用銭は、幕府監督の下、

幕府直轄の鋳銭所(銭座)もしくは

民間委託の鋳銭所で発行されていて

その多くが民間委託で賄われていたようです

 

絵銭については、通用銭でないため

幕府の監督を受けずに自由な発想の下

もっぱら民間の鋳銭所で、

その用途に応じたものが造られていました

 

ただ問題なのは、試鋳銭として分類される

通用銭の見本として試行的に鋳銭された

銭貨の存在で

 

その殆どが、デザインや文字が通常銭と異なり

特に民間鋳銭所では、幕府の統制外のところで

独自に試作が行われるなど、多様な銭貨が作出されて

絵銭との区別が曖昧になったとしても

想像に難くありません

 

参考までに、試鋳銭における、直轄銭と民間銭の

基本的な作風の傾向を挙げてみると

 

直轄銭は、銭銘に年号が使用されることが多く

裏側に花押もしくは波紋が入る等、

規格や格式を重視する傾向にあるのに対し

 

民間銭は、銭銘が年号の他に格言や習俗的文言だったり

裏側もしくは両面に、吉兆を絡めた

絵柄や模様を入れることが多く

遊び心を伺わせる傾向があるようです

 


次に、開珎という銭銘に注目して

他の開珎が付く銭貨を参考とするべく

思いつく物を挙げてみると

「和同開珎」「元禄開珎」「澹澤開珎」「明治開珎」

等がありますね

 

因みに、どれも「和同開珎」に倣って

右回りに読む、順読(回読)式になっているのが

共通した特徴でもありますが・・・

 

本銭と銭様や鋳造年代が類似した

鳥(酉)の絵が鋳込まれた絵銭風の銭貨

「元禄開珎」

https://ameblo.jp/masatoman1980/entry-12594641963.html

というのがあるので、関連書物を調べてみると

 

一書には、

「元禄徳寳」「元禄開珎」「元禄太珎」の3種類あり

共に元禄6年の鋳造にして、通用銭にならずして止む

而も内密に鋳たるものなりといふ

銭質体裁同一なれども、形態に少しの大小あり

背紋も数種あり

 

他書には

「元禄銭」は、幕末期の額面表示貨幣(九匁二分、八匁、四匁など)

流通前後の文久2年(辛酉)以降の試作銭

当該銭には、彫母銭、オリジナル銭が現存する

試鋳貨の大半は、通常銭とは異なるデザイン文字

巧みに彫り付けられているのが「元禄銭」の場合も同じである

 

といった2説が認められました

 

どちらの説も一考の価値があるように思いますが

後者の方が、後年に唱えられた論説であることと

鳥(酉)の絵に纏わる?「辛酉」に言及されている

ことが、どうも気になるところです

 

辛酉(かのととり)とは、当時の暦表示で

辛酉の年は、天命が改まる年とされ

甲子(讖緯説)と同様、特別な年に数えられ

大きな社会変革が起こるといわれています

 

 

ということで

今回の「天保開珎 酉拾」という銭貨について

見えてくるのは

 

天保という年号が銭銘になっているものの

官製の年号通貨として発行された物ではなく

 

元禄開珎と同様な趣旨と経緯で

酉年に因んで、吉兆を呼び込むという意味合いを

鳥(酉)を拾うことに例えて

 

おそらく幕末の天保年間頃以降に

民間の鋳造所で造られた試鋳銭と見るのが

順当ではないでしょうか!?