ハリウッド・ホラー映画最前線(『Smile』『Terrifier 2』ほか) | Just for a Day: 小林真里ブログ

Just for a Day: 小林真里ブログ

映画監督/映画評論家 小林真里(Masato Kobayashi)です

今年のアメリカのBOX OFFICE(興行成績)は

8月終盤以降特に、かなり低迷し

苦境に立たされている。

 

確かにサマーシーズン終えて、

新しい1年が始まるアメリカの9月に

興行成績が落ちるのは通例なのだが、

今年も全体的にパンデミックの影響で

製作の遅れなどがあり大作・話題作の公開が少なく、

シビアな状況が続いているのだ。

 

そんな中で唯一、気を吐いていたジャンルが

ホラー。

 

2022年は、

『NOPE/ノープ』『ブラック・フォン』

『スクリーム』がヒットを記録し、

製作費100万ドルで1000万ドルを稼ぎ出した

『X エックス』や前日譚の『Pearl』なども健闘。

 

8月以降は、『The Invitation』『Barbarian』

『Smile』『Haloween Ends』という4作品が

初登場1位を記録した。

 

ハロウィン前の10月14日〜16日の週末は

『Halloween Ends』が初登場1位。

『Smile』が2位、『Barbarian』が7位、

『Terrifier 2』が8位と、なんと

ホラー映画がTOP10のうち4本を占めた。

 

また、10月28日〜30日のハロウィンの週末も、

『Prey for the Devil』が初登場3位、『Smile』が4位、

『Halloween Ends』が5位、『Terrifier 2』が8位と

同じように4本のホラー映画がTOP 10入りを果たしている。

これはかなり興味深い出来事である。

 

これらの新作ホラー映画を鑑賞したが、

9月9日に封切られ初登場1位を記録した

『Barbarian』は、デトロイトを舞台にしたAirbnbホラー。

 

仕事の面接でデトロイトにやってきた女性テスが

Airbnb(民泊)で予約した宿泊先の家に着くと、

すでに別の男がチェックインしていた。

最初は警戒していたが、怪しい男ではないことが

わかり2人意気投合するが、

その夜不可解な現象が起こり始める。

 

荒廃した住宅地を舞台に、

都市伝説的な不気味なクリーチャーも

登場する、現代的な#MeTooの事件も絡めた

サバイバルホラーで、なかなかスリリングで痛快。

ミニマムな設定ながら、途中で

メインキャラクターがバトンタッチする構成も効果的だ。

 

メジャーの20センチュリー・スタジオ製作だけに、

プロデューサーにはロイ・リーが名を連ね、

キャストもビル・スカルスガルドや

ジャスティン・ロングなど

それなりに名の通った俳優が出演。

リチャード・ブレイクも、相変わらず危険な匂いを

ぷんぷんさせていてスリリングです。

 

バジェットは450万ドル。

最終的にアメリカだけで4000万ドル以上を稼ぎ出した。

日本では残念ながら劇場公開はなく、

最近配信で公開されました。

 

『Smile』は、メジャーのパラマウント製作。

当初は劇場公開はせずパラマウント・プラスで

配信ストレートの予定だったが、

テスト試写の反応があまりに良かったので

9月30日に劇場公開されることになり、2週連続1位、

間もなく全米興行収入1億ドルを突破、

世界興行収入が2億ドル突破するという

大ヒットを記録。

 

出会ったばかりの錯乱した1人の女性患者が

目の前で突然自死する光景を目撃し、

トラウマとなった悲劇的な過去を持つ女性医師は、

超自然的な存在に取り憑かれ

精神的に追い込まれていく。

 

『リング』『イット・フォローズ』

『ファイナル・デスティネーション』などを

彷彿とさせる伝染系ホラーで、

正直あまり新鮮味は感じられないが、

タイトルにある「Smile(笑み)」がキャッチーで

どこかゲーム感覚的だったのか、ティーンや若者を中心に

SNSや口コミでヒットしたのではないかと推測。

 

キャストは無名俳優ばかりながら、

115分という長めの上映時間も野心的。

バジェットは1700万ドルということだが、

CGに予算のほとんどを当てたのだろうか?

もっと低予算な作品の印象を受けたが。

 

最後に『Terrifier 2』は、

劇場で観客が失神したり、嘔吐するなど

センセーションを巻き起こした

超低予算の極悪過激スプラッター。

 

ハロウィンの夜を舞台に、

スーパーナチュラルな無言の殺人ピエロの

凶行を描いた壮絶エクストリームなホラーで、

オープニングから血みどろで酸鼻を極める

ゴア描写のつるべ打ち。

 

キャストも無名ばかりか半分素人にしか見えず、

ストーリーはほとんどないに等しいが、

執拗に人体破壊を繰り返す、

とんだ拷問スプラッター祭りの様相で、

これが1500館という規模で劇場公開された

という事実に驚き。

 

個人的には、ちょっと豪華なトロマ映画にしか

感じられなかったが、ユーモアはほとんどなく

シリアスで残虐一直線というところが大きな違いか。

ピエロの道化師ぶりがたまにコミカルではあるが。

 

この作品は2016年の低予算ホラー

『テリファー』(製作費35000ドル)の続編だが、

今回も完全にインディペンデントの作品で、

製作費の25万ドルはクラウドファンディングで集めたという。

アメリカでは5週連続でTOP 10入りを果たし、

興行収入は間もなく1000万ドルを超えるという、

ブラムハウスも驚きの高い収益率を誇る作品となった。

 

究極のインディ映画なので、

スタジオやプロデューサーの意向など

気にせず、監督が好きなように自分のビジョンを

追求した結果、138分という異例の長尺となり、

遊園地でのクライマックスシーンは延々と

なんと20分以上も続く(かなりくどい)。

これだけのヒットを記録したので、

確実に続編が製作されるだろう。

 

ハロウィンも終わり、次にホラーが大々的に

公開されるのは1月ということになるが、

1月のサンダンスや2月のベルリンといった

メジャーな国際映画祭でも、新しい才能が

誕生することに期待したい。