ありがとう、ウェス・クレイヴン | Just for a Day: 小林真里ブログ

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映画監督/映画評論家 小林真里(Masato Kobayashi)です

月曜日の早朝。

家族が死ぬ夢を見てびっくりして、はっと目が覚めた。

なんて不吉な…。気分の悪い久々の悪夢だ。

そう思って、しばらくしてから二度寝した。


そして起床後、ネットの海外ニュースを見て、

ウェス・クレイヴンが死んだことを知った。


ショックに打ちのめされた。

そんな予兆もなかったし、まだまだ元気なものだと思っていた。

脳腫瘍だったなんて。

76歳で亡くなるなんて、あまりにも早すぎる。


最初に映画館で観たウェス・クレイヴン監督作は

12歳の時に観た『デッドリー・フレンド』だった。


『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』と同時上映で、

今はなき四日市シネマホールで鑑賞した。

両作品とも素晴らしく、特に『デッドリー・フレンド』は悲しい青春ラヴストーリー

であると同時にショック描写も鮮烈なホラーということで、

多感な時期に観たこともあってか、青春時代の僕の重要な一本となった。


代表作の『エルム街の悪夢』は、TVCMを観てあまりそそられなかったので、

後にビデオで観ることになるが、

その前に続編の『エルム街の悪夢2』をイーストウッドの

『ハートブレイク・リッジ』と二本立てで映画館で観た。


両方とも、ちょっとがっかりした。

特に『エルム街の悪夢2』は、キャラクターも魅力がないし、

なんだか出鱈目な映画だなあ、と子供ながらに思った。

この作品は、クレイヴンは監督していないけど。


『ゾンビ伝説』も、不気味な映画で何度も観たが、

だからといってこの時期ゾンビにハマっていたことも、

意識していたこともない。そういえば。


そして月日が流れ2011年3月、

『死霊のしたたり』ミュージカルを観るべく、L.A.に飛んだ。

ムック本「ゾンビ映画大マガジン」に、ショーを観て原稿を書くことになったのだ。


ミュージカル自体最高だったのだが、驚いたのが終演後、満席の場内に

映画版の監督でミュージカルの演出を担当しているスチュワート・ゴードンと、

『ジャッカス』のジョニー・ノックスヴィルがいたこと。

さらに、ウェス・クレイヴンの姿もそこにあり、激しく驚いた。


恐れ多い気もしたが、会場外で偶然ウェスと出会ったので、声をかけた。

少ししか話せなかったが、アカデミックな空気をまとった

インテリジェントでエレガントな、

柔和な笑顔が印象的な物腰の柔らかいジェントルマンだと即座にわかった。

握手した手も大きくて柔らかかった。


いつか取材かなにかでまた再会できるだろう、再会したいな、とずっと思っていた。

でも結局、二度と会うことはなかった。


訃報を聞いた月曜日の夜、

『デッドリー・フレンド』と『壁の中に誰かがいる』をDVDで見直した。

『デッドリー・フレンド』は今見るとなかなか滑稽なシーンも少なくないが、

バスケットボールのあの頭部爆発シーンは今見ても

素晴らしい破壊力だと改めて感銘を受けた。


『壁の中に』は、L.A.のゲットーを舞台にした黒人少年が主役のホラーという

設定も奇抜でオリジナルだが、壁の中にいるフリークスのみなさんの

ぞっとさせられるルックスと暴れっぷりも鮮烈で、

映画のもう一つの主役である、悪徳地主の屋敷というか要塞のトラップや

迷路は複雑怪奇で、驚きの連発だった。

そして、黒いレザーのボンテージスーツ野郎に襲われるヴィング・レイムズは、

その後『パルプ・フィクション』に流用(サンプリング)されました。

ウェス・クレイヴン最高傑作はこれではないかと密かに思っています。


結果的に遺作となった『スクリーム4』も、キャラクターがカラフルで

個人的にはシリーズで一番好きでした。


さようなら、真のホラー・マスター、ウェス・クレイヴン。

数々の素晴らしいショック描写と恐怖、そしてスリルを決して忘れません。