連休最終日、水夏希さんが出演している「細雪」(明治座)を観劇。
谷崎潤一郎の原作を読んだのは38年くらい前で、その前に高峰秀子の「わたしの渡世日記」を読み、その中で詳しく「細雪」出演以来の谷崎との交友が面白く書かれていて、映画もみていた。高峰は「谷崎は細雪の妙子を愛するがゆえに、私にいろいろ映画出演時から世話をしてくれたし、地唄舞を武原はん直々に教えを請うことができたのも武原が 『雪』を愛するがゆえに私に仕込んでくれたのだ」と書いている。
関係ない話だが、劇評家の安藤鶴夫もかつて「一番すきな歌は『雪』だ、こんな悲しくて美しい歌はない」と書いていたと記憶。
映画はたしか池袋の文芸坐で見たと思うが、戦前はハリウッド調で知られた阿部豊(ジャッキー阿部)がしっとり落ち着いた画調で演出しているのに驚いた記憶がある。この映画ができたのは戦争からわずか5年後。カタストロフィーを迎える前の関西の上流階級の話は、現実味をもって迎えられたのではないか?四女の妙子に扮した高峰秀子は前年「銀座カンカン娘」に出演、主題歌も大ヒットし、当時人気日本一の女優だった。彼女が望んだ文芸大作として新東宝のこの大作も当然ながらヒットした。その後大映でも映画化されているが私は観ていない。
舞台「細雪」を見たのは一度だけで、たぶん昭和59年の冬だったと思う。桜田淳子が妙子役だったが、一生懸命すぎてしらけてしまった記憶がある。彼女は長谷川一夫の指導の下に当時歌手から本格的な女優になりたがっていたが、そのセリフ回しが好きになれなかったことを覚えている。
それにしても消極的反戦のこの小説を戦犯文士と戦後叩かれに叩かれた菊田一夫が脚色しているのが面白い。大阪もののヒットを連発していた菊田が芸術座の為に書いたのが昭和41年。鶴子は浦島千歌子だ。越路吹雪、乙羽信子と同期で昭和30年代から40年代前半に活躍した。菊田一夫の公然の恋人であったことから、一時期いい役がついていた。そのころの浦島を宮城まり子はよく覚えていて、「一番キラキラ輝いて演技もすばらしかった。浦島さんもよく菊田先生には尽くしたの、二人のコンビで一番良かったのが細雪だったの」とのことだ。
ちなみに宮城は浦島が関西で孤独死した際にも葬儀に立ち会っている。
そんな「細雪」を今日拝見。菊田一夫の美しい台詞が潤色されているとはいえ、随所に、菊田独特の台詞回しがちりばめられていて、時代考証も緻密、流麗な船場言葉の応酬、その間のよさ、勘の良さもあるからか時間をかんじさせない。この4人の声の高さ、低さ、声色の違いも、聴いていて実に気持ちが良い。
水さんの洋装のコスチューム、先週のモダンタイムスの衣装と同じ時代だからか懐かしかった。水さんの妙子、最後の花見で蒔岡本家に帰ってくるシーンが素晴らしく良かった。
これを受ける浅野ゆう子の度量ある演技がまた素晴らしい。
それにしてもあれほど、東京の大劇場で盛んに上演されていた女優芝居というものを見られなくなったのは淋しいことだ。
ともあれ、明治座の「細雪」は始まったばかり。
ぜひみなさん、堪能していただきたい。
初夏を彩る幟に見送られ、でると つつじが燃えるように咲いていた。