【管理人の一言】

ウクライナの汚職問題は、根深い。そのさい、旧ソ連圏諸国の宿痾である企業と政府の癒着問題を歴史を少しさかのぼって考える必要がある。

 

 ウクライナのオルガルヒは、ソ連体制の解体(91年)から発生したのであるから、生誕時の事情はロシアと同じようなものと考えてよい。つまり国民に配られたバウチャー(私有化小切手)の買い集めやだまし取りだ。このようにして当時の高級官僚や企業幹部による不正な経済略奪が進行したのだ。ウクライナの「市場経済化」がロシアと異なるのは、2014年に至るまで西側のIMFら新自由主義勢力の強い影響を排除して、比較的緩やかにこの過程が進行したことである。独立ウクライナの自由な資本形成は、先に成立したロシアの強大な自然国家独占企業(天然ガスや石油)の恩恵と影響のもとに成長し、他方ではウクライナ国家の国債の大量発行による財政に寄生することにより自己の形成を成し遂げたのであった。

 いずれにせよウクライナの政府はオルガルヒ達の談合により出発したことは特徴的である。ウクライナの歴代大統領は、ゼレンスキーを除けばすべてオルガルヒ出身である。

 

■ウクライナのオルガルヒは、概してロシアよりも小さい――ウ戦争前までの話だが――と言うだけではなく、ロシアのように政府(プーチンの)下に「団結」させられてきたのでもない。ウクライナのオルガルヒがロシアのそれとは異なるのはむしろこの点だ。

 複数の巨大事業経営や放送局・マスコミなどを支配するばかりではなく(これはロシアと同じ)、各オルガルヒ自身が個々に一党一派の政党として存在することだ。決してロシアのように政府に屈服しプーチンのような独裁者に手なずけられてこなかった。

 ロシアでは、オルガルヒがプーチン政権の外部に独自の政党を運営することは考えられないが、ウクライナではほとんどのオルガルヒが政党に関与し、議員を囲い込みあるいは自分らの都合の良い大統領の誕生を目指すのだ。つまり個々のオルガルヒ自身が一党一派として公然と政治活動をする。目的は言うまでもなく自分たちのコンツェルン事業の利益のためだ。彼らは「政治綱領」を作り、所有する「マスコミ」を活用して必要であれば大衆を扇動するのである。あのマイダン革命(2014年)ですら、その発端は彼らオルガルヒ達の政治的衝突と闘いに大衆が動員されたことに起因する。ところがオルガルヒの思惑を超えて大衆が覚醒していったのであった。

 

■このような次第だから、ロシアやウクライナの大資本家と政治家の関係はそもそも汚い。ズブズブだ。建国(91年)以来ウクライナの政治はロシア同様にあるいはそれ以上に汚職にまみれてきたのだった。各政権そしてゼレンスキー政権になっても「汚職撲滅」は国民受けする最大のスローガンの一つだった。つまり、その体質はすこしも改善されたとは言えない。

 今回のゼレンスキー側近追放で世界の各マスコミは、「旧態依然の汚職体質」と書き、あるいは戦時体制下でのゼレンスキーの「政権引き締め」と書いている。EUとの統合も将来に見据えての「自浄努力」とも言えなくもない。または統治力への疑問、そして政権の「崩壊」を予告するマスコミもある。それぞれの評価は当然の面があるとしても断片的なものにとどまる。

 しかし、「汚職追放」は中国の習近平「ハエもトラもたたく」やプーチンによる「腐敗したオルガルヒ追放」を思い起こさせる。ゼレンスキーにおいても、むしろ側近追放や有力政治家追放、それは独裁への道である可能性がある。もっと深い社会底流の変動について、情報が少ないがここで推考してみたい。

 

■第一に指摘できるのは、ゼレンスキーが汚職追放のために側近も含めて聖域なき汚職撲滅を進めているのは、すでに報道されてきた政府によるオルガルヒへの規制、という事実と表裏一体の関係だろう。つまり、オルガルヒのウ政権への巨大な影響力の排除である。オルガルヒ追放の追い手として汚職高官追放である。

弱体化するオリガルヒ ロシア侵攻で社会構造変化―ウクライナ:時事ドットコム (jiji.com)

 

さらに左翼からの情報では、2014年以降はEU人脈(金脈)の「新自由主義」の浸透がさかんに懸念されている。とすれば大財閥の弱体化を進めつつ、ウクライナは新中産階級の資本主義へと入れ替わりが起きつつあるのかもしれない。ゼレンスキーがそれを推進しているかもしれない。(情報が少ないのが残念だ。)

 いずれにしてもクローニー資本主義(有力なグループなどが政治家を利用し国有財産を流用する)政治体制を清算しない限り、ウクライナは所詮ロシア型資本主義から脱却できない。旧態依然のままでは、ウクライナの新興の国民的資本家たちそしてゼレンスキー政権が望むEUとの経済的・社会的接合はあり得ないだろう。

 しかし、第三に考えるべきことはゼレンスキー独特の「ボナパルティズム的動き」だ。つまり国民国家形成過程における権力の集中という問題だ。マルクスはナポレオン三世を愚物として描き、凡庸な男がいかにして権力を掌握したのかを、当時の階級闘争を分析することで示した。ボナパルトの「ナポレオン幻想」というポピュリズム的独裁が、歴史的には自由な資本主義の普及と国民国家の独立機運を全ヨーロッパに広げたという意義は認められる(他方、アジア・アフリカでは植民地主義を推進)。

 ゼレンスキーは、政権から古い体質の政治、つまりオルガルヒとの二人三脚政治を切除し、国民の圧倒的な人気を確保しつつ、ブルジョア階級全体と、また軍隊と武装した市民たちの上に君臨しできると考えている可能性がある。ポピュリズムに依拠した独裁的政権が、あたかもナポレオン三世のように戦争(結局プロイセンに敗北したが)と階級闘争を活用しつつ、独立したブルジョア国家として確立させようとしているもののように見える。もちろん、このようなポピュリズム的独裁への移行を武装した市民は阻止してゆかなければならない。

 いずれにしても断片的な情報だけで、判断は難しい面がある。(B)

 

ウクライナ政府、副大臣を解任 発電機の調達巡る収賄容疑で逮捕 

(msn.com)

 

ウクライナ大統領、高官を相次ぎ解任 汚職対策強化

|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)

 

汚職だらけのゼレンスキー政権、崩壊続く!