大宰府天満宮の本殿へ向かう時、「心」という字をかたどった「心字池」を渡る。池にかかる3つの赤い橋は、仏教思想に言う過去、現在、未来の三世一年の相を現したものらしい。参拝者の身を清める橋だ。さだまさしの「飛梅」 にも歌われている。
長男が今年大学受験で、車で30分ほどかけてお参りに来た。正月3が日の喧騒はもうない。今日は韓国語や中国語も聞こえてこなかった。そして帰り道、もう一つの池のそばで車を止めた。まだいくつも新しい花束が並んでいる。
昨年12月25日の朝、一日遅れのプレゼントを買いに「イオンモール筑紫野」に向かっていると、その池のそばに警察官を中心に人だかりがしていた。まだ事故のことは知らなかった。
ワゴンが接触事故で池に転落、女子高校生や幼児6人が死亡。そしてもう一台の運転手、秦智之(26)さんが救助のため池に飛び込み、亡くなった。彼のマーチの後部座席には、アルバイトで買った彼女へのプレゼントが残されていた。
「勇気とは、恐怖を感じないことではなく、恐怖を支配することである」 by(マーク・トウェイン
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池のそばに立ってみた。それほど大きな池ではない。目の前には小ぶりなマンションが建っている。24日イヴの深夜、どんな気持ちで彼はここに立ったのか。震える寒さ、泣き叫ぶ声、恐怖を感じないはずがない。持ち前の正義感か、事故当事者としての責任感か。救急隊員の到着を待ったとして、誰がそれを責めるだろうか。そして最後の瞬間、彼は恐怖を支配した。
ワゴン車について定員オーバーや、若い両親などへの非難があがっている。だが中国とは違い、死者には鞭うたないのが、日本文化の伝統だ。完璧な若者などいない。大宰府天満宮は、無実で九州へ流された菅原道真 の怨霊を鎮めるために建立された。今はただ亡くなった7人の冥福を祈りたい。