1986年に文庫本第一巻が刊行されてから31年、田中芳樹の小説「アルスラーン戦記」がこの12月に最終巻が刊行され、完結しました。
個人的に田中芳樹の作品は「銀河英雄伝説」をOVAで知っている程度で、小説としては「蘭陵王」を読んだことがある程度でした。
「蘭陵王」は、もっと盛大なフィナーレを迎えるのかと思っていたら、話が進むにつれ、トーンダウンしていくような感じで、かなりガッカリしたことを覚えています。
「アルスラーン戦記」もアニメの放送開始がきっかけで読み始めたのですが・・・
書評としては、一部に完結した事に意味がある、と評価する声もありますが、大半は、拙速にも程がある、と酷評されています。
拙速もさることながら、最終話で明かされた内容が以前の話と整合性が取れていないようにも思いました。
ザッハークや有翼猿鬼、鳥面人妖などの誕生の秘密とアンドラゴラスとタハミーネの実子の秘密は最終盤にザッハークの口からさらっと語られるのですが、それによると、ザッハークと有翼猿鬼、鳥面人妖などは数百年前に魔導士によってものから作られたという事です。
ですが、ファランギースの寺院のあった領地の息子が鳥面人妖に変身してしまったという件もあり、人間が魔道の力で変身させられたものと思わせる伏線が張られていたように思います。
また、尊師と呼ばれる魔導士が何者なのかは明かされないまま、アルスラーンの宝剣ルクナバードに倒されました。
前半の物語から、下記のようなことを想像していました。
魔道を極めた魔導士の総帥が自分の身体で不老不死etcを試して生れたのが、ザッハーク。
有翼猿鬼、鳥面人妖などはザッハークが人間や動物から作り出したもの。
尊師は総帥を崇拝していた弟子。
その後、魔道は廃れ、尊師とその弟子達が最後の継承者。
辻褄が合わない点は他にもあります。
ザッハークが自分を作り出した魔導士の1人はつい最近まで生きていた、と尊師がその1人であるかのような事を言っているのですが、他の魔導士はザッハークが食い殺したかのような説明があり、尊師だけを生かしておいた理由が不明です。
また、尊師がザッハークを作り出した1人なら、自分が作り出したものを崇拝するのは不自然のように思います。
アルスラーンは、ザッハークを作り出した際、制御不能にならないよう、魔力を封じる武器としてルクナバードを作ったと推測しています。
その当時からあったのであれば、聖賢王ジャムシードが倒されたのは何故でしょう?
カイ・ホスローの時代に対抗手段として作られたと考えるのが自然な気がします。
ザッハークは、これ以上ない復讐を果たすため、カス・ホスローにわざと敗れ、その子孫の身体を乗っ取る事を考えた、と言っています。
が、尊師達がザッハークの復活に向けて工作しなければ、復活出来たか怪しいものです。
そんなリスクを冒して、わざと負けるなどという事があるでしょうか?
どう考えても、完結させるために無理やりこじつけた結末で、執筆開始当時に考えていた結末では無いように思います。
言い出すとキリが無いので、この辺にしますが、30年続いた小説としては非常に残念な完結編でした。