村上龍「ユーチューバー」。コロナ禍で失われた「大切なもの」を描いた作品。 | ああ、無情!!masarinの読書ブログ

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ユーチューバー [ 村上 龍 ]

 

 

単行本には帯が付いていて、そこには宣伝文句が書かれています。キャッチフレーズみたいなものですね。この本のキャッチフレーズは、「自由・希望・セックス」です。村上龍本人がこれをOKしたのかは不明です。なぜなら、こんな扇情的な内容になっていないからです。

 

村上龍が小説を書く上で、長年テーマにしていることがいくつかあります。

ひとつはシステムと人間の関係、

もうひとつは人間同士の関係。

この本は、「人間同士の関係」に焦点を当てている本だと思います。

 

ここのところ、村上龍は日本人が失いつつある、「なにか大切なもの」を描こうとしていました。前作「Missing」はそういう話でした。今回はもっと、その「大切なもの」にフォーカスしたものになっています。しかし、この「大切なもの」は子どもには分からないかもしれません。

なぜなら、ここでフォーカスを当てられているのは、「他者に受け入れられた経験」特に、「異性に受け入れられた経験」だからです。その意味では、「セックス」は合っていないこともないですが、この書き方だとフリーセックスや性描写に焦点が当たっているように感じてしまいますよね。村上龍がいいたいことは、セックスを含めた人間同士の良好な関係、その根幹部分なのです。

 

表題ではそれが遺憾なく描かれていて、はっきり書いてしまうと、読んでいて癒やされます。村上龍にしては、珍しく。

刺激的でも、扇情的でも、エロティックでもなく。

しかし、これまでの作品もその刺激や扇情さ、エロティックさの向こうがわに、人間同士の関係の根幹部分はきちんとちりばめてきているのです。

 

私自身は、村上春樹よりも村上龍推しですが、この芸の幅の広さが一番村上龍の良さであり、持ち味であり、村上春樹にはない部分だと個人的には思っています。

 

読後感は「長崎オランダ村」に似ていると思います。

コロナ禍において、いま人々が読みたいもの、読むべきものはきっとこういう、内面が充実する小説なのだと思います。

今さみしいと感じている人はもちろん、そうでなくても本当に読むことをおすすめします。人々の心が荒廃し、正義の名の下に人を殴りつけ、短絡的な犯罪が増えている昨今だからこそ、読んで欲しい本です。読んで、くだらないことよりも、大切な人と満ち足りた時間が過ごす方が、ずっといいということをかみしめたいですね。

 

それにしても、村上龍は本当に東京FMの延江氏が好きなんだというのがよく分かります。ここでYouTubeのディレクターとして登場しているのが、どうもそうである気がします。

延江氏は、村上春樹の番組のゼネラルプロデューサーをしているようです。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/134547

 

ウクライナのゼレンスキーに体型が似ていますね。確かに。