※一番最初に誤解を解きたい。「宮城谷昌光」という名前に引きずられて、司馬遼太郎のようなとても難しい本であるというイメージがあるかもしれない。司馬遼太郎に関してもこれは誤解なのだが、とても読みやすい小説になっている。是非手に取って欲しい。
物語は、晏嬰の父親、晏弱の時代から始まる。
晏弱は、三国志を読んだ人ならわかると思うが、孫策と周瑜を足したような人物だ。
頭が良く、勇敢で、政治的な頭もほどほどに利く。
見た目も威丈夫、豪傑的で、声も惚れ惚れするほど良い。
男が男惚れする。
そんな人物だ。
晏弱は太公望を祖に持つ斉の国に仕えている。斉の国は、中国の徐州の少し北側だろうか。
太公望の姓は「呂」、周王朝は「姫」姓である。周の王族は功臣である太公望を王朝から体よく追い出した。その出自からか、斉という国は移民を快く受け入れる。そして栄えたのが、管仲の時代である。その時代から少し下った時期が晏弱たちが生きる時期だ。
隣国の晋は斉に使いを送る。
この使いの姿が醜かった。それを何を考えたのか、王様の母親がからかった。
当たり前だが、容姿にコンプレックスを持つ人間は、そのコンプレックスをからかわれたら、ずっと根に持つ。
その使いの名前を郤克(げきこく)という。
この男は晋の軍事責任者であった。
晋の国が諸国を「断道」に招き、会同を結ぼうというのが主旨の使いだった。
このままでは晋と戦争状態になる(実は王はそれを望んでいた)。
そのために、斉の国を取り仕切る卿(大臣)の一人である高固を代表として派遣する。
途中で郤克の待ち伏せに遭い、殺されるのは明白であった。
だから高固はバックれる。
その軍にいたのが晏弱であった。
晏弱は高固に代表の代理を任される。
めちゃくちゃである。
しかし、晏弱の頭の中には殺されない方法が描かれている。
他の国の軍のすぐ後ろについて行くという方法だ。こうすれば、郤克は襲えない。襲ってしまうと、斉だけではなく、他国にも喧嘩を売ることになるからだ。
その軍はずいぶんと先行して断道の地に向かっていた。
晏弱は軍を率いて、全速力で追いかける。
見事窮地を脱した晏弱であるが、その後晋の国につかまってしまう。
一巻はほとんど冒険譚に近い。
それを、この断道の会同で得た、蔡朝と南郭偃とともに乗り切っていく。
特に高校生で少し漢文をならったなあ、という人はとても面白く読めるのではないだろうか。
この本を読もうと思ったのは、同じく宮城谷の「孔丘」という本にちょこっとだけ出てきた晏嬰という人物が強硬に孔子を斉で雇うのに反対したことで、興味を持ったからだ。
それにしても、上司がはちゃめちゃなのだが、現実の上司もこう見えることもなくはない。というより、こういうふうにしか見えない上司も存在する。
そんな上司と付き合う方法は、
1,いちいち怒らない。
2,どこまで義理を果たすべきかを考える(一緒に滅ぶ必要はない)
3,有能な部下を作る。
につきる。
それにしても、王様の母親が人格者になったり、愚か者になったり忙しい人だ。
冒頭で晋の死者の容姿を笑うのであるが、
なかなかできないことであるが、冒険譚として読みつつも、考え方は結構参考になる気がして鳴らない。この後、子どもである晏嬰が登場する。晏子といえば、晏嬰なのであるが、これ以上にすごい人というのはどう描くのだろうと、楽しみである。