これは沖縄の久米島高等学校の生徒に行った講演です。
1,佐藤優とは
内容に入る前に、佐藤優氏の経歴について少し書きます。
彼の略歴を端的に書けば、元外交官です。同志社大学の神道学部を卒業後、外務省に勤務します。ですが、キャリア採用ではありません。特に旧ソ連、ロシア方面の情報に精通し、分析を行っていました。旧ソ連が崩壊したときにもソ連にいた人物です。
その情報通のところを買ったのが、北海道の鈴木宗男です。
彼の罪に連座する形で、検察に狙われてしまいます。
「国策捜査」という言葉を聞いたことがあると思いますが、これは彼の著書「国家の罠」から出た言葉です。
彼の後に、堀江貴文なども国策捜査という言葉を使って、検察を批判しましたが、彼の場合ほどの説得力はなかったと思われます。
彼は鈴木宗男の犯罪に連座する形で執行猶予付きの有罪判決を受けます。
外交に関する情報の分析(インテリジェンス)、語学習得能力、文章能力は定評が高い人物です。
2,久米島高等学校
この学校は島外から「島外留学生」を募ることで有名です。
引きこもりや不登校の子どもなどもやってくるそうです。
本書では、このような経歴を持つ生徒に語りかけるところから始まります。
「つらい過去には向き合わなくてもいい」
そんな言葉から始まります。
大体、大人、特にこういうところで語るのは成功した大人です。だから、「いまの逆境に打ち克つには」という高所からの視点から話してしまいます。しかし、佐藤氏は人生のいわば絶頂期に失脚を経験してしまいます。その忌々しい記憶というのがあるからでしょう。傷を負ったことのある人間の経験として「辛い過去には向き合うな」と言うわけです。
すごい説得力です。
3,前原誠司
現国民民主党の前原誠司の例を挙げます。
中二のときに父親が自殺します。
母子家庭になってから、バイトなどをしながら、自力で京都大学まで行きます。
彼が父の自殺に立ち向かえる様になったのは、40代後半だそうです。
病気でも、なんでもドラマの様にすぐに立ち向かえる様になる方が稀であって、それをずっと引きずりながら、逃げる様に前に進むのです。それでいいのです。
4,総合的な知識を学べ
では久米島高校の生徒は何を学ぶべきなのか、佐藤氏は語ります。
今の受験制度から、文系の受験で使わない教科でも学ぶべきだ、なぜなら数学から論理を学ぶことができるからだ。逆に小説も読むべきだ。そこには悪が書かれているからだ、と総合的な知識を学ぶことを提唱します。
総合的な知識とは生きた歴史を学ぶことも入ります。
それに自分がこれから労働するとしたら、その労働の構造を知らなければならない。
そして国際社会が、そして日本社会がどのように変遷しているのかという生きた情報を得なければならない。
そのようなことを佐藤氏は語っていきます。
5,あきらめてはいけない
佐藤氏は語ります。
「みんなはこれから大学に入ったり、社会に出て行くわけだけど、覚えておいてほしいのは、世の中には理想的な状態というのはなかなか来ない。だけれども、あきらめてはいけない、ということです。
そこで重要なのが、この島で、いろんな人たちと助け合って勉強してきた経験だと思う」
もともと久米島には小学校しかなく、お医者さんも看護師もいなかったそうです。
久米島高校は島民たちが自力でつくり上げた学校を前身としています。
久米島は共生をするという思想がもともとあって、島外留学生はこの思想の延長線上にある制度です。
「また、他のリゾート地のように外部の資本でリゾートマンションをたくさん作って、島外のお金持ちが住民税を払わずに南の島の雰囲気だけを味わって、久米島を消費して帰ることは認めない。だから、開発会社が高いお金で土地を買おうとしても、島の人が土地を売らない。自分たちの経済的な利益よりも、もっと大切なものがある」
とも語ります。
島外と島民と、それは異文化が交わること、そこで歴史や様々なことを存分に学び、経済的な理屈に屈せずに生きていくことが大切だ。
若者に対して語るには斎場の話だと思いました。