「天才の思考」「ジブリの文学」鈴木敏夫 | ああ、無情!!masarinの読書ブログ

ああ、無情!!masarinの読書ブログ

読書の感想を書いています。ゆっくりしたペースで更新しますので、よろしくお願いします。

1,鈴木敏夫経歴

鈴木敏夫は言わずと知れた、ジブリのプロデューサーだ。

もともと徳間書店の雑誌編集者であった。「アニメージュ」の編集長だった。アニメージュの影響で、宮崎駿、高畑勲と出会う。もともと文学や映画が好きだったらしい。絵を描くことも好きだった。初めて自分より絵が上手い人間と出会う。それが宮崎駿だったらしい。

「風の谷のナウシカ」から、制作の手伝いを始めた。その後、スタジオジブリを立ち上げる。始めの頃はジブリと徳間書店の掛け持ちであった。それから、「となりのトトロ」と「火垂るの墓」の日本同時制作という地獄をくぐり抜け、ジブリの専属になる。

 

2,「天才の思考」

宮崎駿と高畑勲は言わずと知れた天才だ。この天才が、「風の谷のナウシカ」から、「風立ちぬ」と「かぐや姫の物語」に至るまで、どのような心境で制作していったか、鈴木敏夫の目で見た逸話を並べている。

というと、堅苦しく思われるかもしれないが、面白おかしく書かれた本である。とにかく、宮崎、高畑の二人は天才的だが、個性的である。

宮崎駿はドキュメンタリーなどでも出てくるので有名だが、高畑勲の人柄は好きな人以外にはあまり知られていないのではないだろうか。ひと言で言えば、徹底的にやる人である。だから、そういう概念が欠落しているのではないか、というくらい「締め切り」を守らない。デビュー作の「大洋の王子 ホルスの大冒険」からして、二年の制作予定期間を三年に延ばすほどだ。

しかも、言い訳をしない。「締め切りの概念」を持っているのなら、なんらかの言い訳をしそうものだが、高畑はそういうことをしない。だからこそかもしれないが、できあがる物は一分のすきもなく完璧なものになる。

皆が知る代表作は「火垂るの墓」になるのだろう。これなどは、最後間に合わず、色を塗らないで公開された程だった。これも締め切りを守れない苦肉の策だ。

 

3,宮崎駿

あくまでこの本での書かれ方なので、実際はどうなのかはわからない。宮崎駿はそんな高畑勲に振り回されているように書かれている。結局のところ、高畑勲という人物は宮崎駿にとって、愛憎入り交じった存在なのである。

2018年に高畑勲が亡くなった。そのお別れの会で宮崎駿が読んだ言葉にはそれが表れていた。

 

4,おもひでぽろぽろ

二人の関係をよく示したエピソードが満載なのが、「おもひでぽろぽろ」の制作秘話である。

まず、突然「おもひでぽろぽろをパクさん(高畑勲)にやらせよう」と宮崎駿が言い出す。前作「火垂るの墓」で高畑勲はやらかしてしまう。そんな制作者に誰も依頼をしないだろう。だから、ジブリで汚名返上をさせる、というのが宮崎駿の理屈だ。宮崎は結構、経営者のセンスや建築のセンスまである。

ところが、高畑勲は素直にうんとはいわない。それは超完璧主義者だからだ。やりだすときりがないのがわかっているのだろう。というのは私の見立てだが、鈴木と宮崎はそうは思っていないみたいだが。

今回も、うんとはいわず、のらりくらりと高畑は躱していく。始めは鈴木敏夫だけで高畑宅に通い、半年しても納得しない。業を煮やした宮崎が同行する。そして、ぶち切れ、「いい加減にしろ! パクさんはひとつもアイデアを出さないで、人が壊す企画を壊すだけじゃないか!」と机をひっくり返し帰ってしまう。そこまで言って、やっと高畑は重い腰を持ち上げる。

背景美術は「となりのトトロ」を担当した男鹿和男にする。半ば宮崎から取り上げたことになる。秋田を舞台にするのだが、男鹿和男の画を最大に生かすために、紅花畑を登場させる。

すると、紅花栽培を高畑は徹底的に研究する。いきなり、秋田の現地に行って観光協会に紅花農家を紹介してもらい、栽培方法について教えてもらう。帰ってからは、徹底的に本を読み、栽培方法について農家以上の知識を付ける。それを大学ノートに書き付け、「あの取材した農家の栽培方法は間違っている」と言いだし、助手を現地に行かせて、ノートを見てもらう。その様子をビデオに撮る。ほぼ変態である。

「ひょっこりひょうたん島」のとある曲が気になると、NHKやレコードを出していたコロンビアなどに問い合わせる。「アニメージュ」周辺のマニアを総動員して鈴木が入手する。

 

5,実験的手法

高畑勲がつくるときは、実験的手法を試すことが多い。

「おもひでぽろぽろ」では内容と表現手法を一致させることを目指した。当然、今までアニメでやったことがない手法であり、制作に時間がかかる。こだわればこだわるほど。

それに業を煮やした宮崎駿登場。

「絵の描き方を変えろ! こんなことをやっていてはいつまでも終わらないぞ!」と怒鳴り散らす。そのおかげで作業は早まるのであるが、当の本人宮崎駿は「すごくでかい声出したじゃない。あのあと震えが止まらなくて、三日間眠れなかった」という繊細さを見せる。

 

6,「紅の豚」

個人的にジブリの作品で一番好きなのが、「紅の豚」だ。

これは女性のスタッフが中心になってつくられた作品だと聞いて驚いた。意外と、女性視点のはなしになっているということなのか、それとも絵が女性好みなのだろうか。

だが、マダム・ジーナの設定なんか、異論が出そうであるが。ずっとポルコが振り向くのを待っているなんて、特に現代の女性が嫌いそうな物語だ。

ウィキペディアでスタッフを見てみると、確かに女性が多い。ただ、脚本・監督などは宮崎駿なのは言うまでもない。

作中でポルコの飛行機を作り直すのだが、その工場は男手を戦争で取られてしまって、女が中心になって作る。それは状況のオマージュなのだろう。ちなみにだが、ウィキペディアに視聴率も載っていた。2018年にテレビで放映されたものが12%だった。テレビ離れをしている割に、やはりジブリは強い。

 

7,「紅の豚」の思い出

公開時に映画館で見た。そのころは映画館がいったん町から消えて、復活しつつある時期だった。都会から百貨店が進出してきた。「これほんとにおしゃれか」という品質の、田舎者が好みそうなラインナップの服やなどがある店内に小さな映画館があって、そこで友人とみた。まだ普及する前のサイゼリヤもあった。千葉県だからだろう。確かに学生でも手が出しやすく、内装も変な豪華さがあった。

スクリーンが小さかった。映画中にポルコと友人のフェラーリがアニメ映画をやっている映画館で会う。「狙われてる」と忠告を受けるの。その後のテレビで、その映画館のシーンを見ると、そのときの映画館を思い出してしまう。雰囲気が似ているからだろう。

そのとき、自分の人生はぱっとしない、と思っていたが、今よりはましだった。どうせならもっとつっぱらかって生きてやろうと思う。

 

8,おすすめ

何が面白いって、宮崎駿と高畑勲の人物像だが、それに振り回されているように描いている鈴木敏夫の人間味だろう。宮崎駿の息子である宮崎吾朗が「宮崎駿の息子だから映画監督をやっているのですか」と問われて、「むしろ鈴木敏夫という人物がいたから、監督をやっている」と答えた。要するに「鈴木敏夫に乗せられたのだ」と言いたいのだと思う。それくらい、鈴木敏夫もなかなかの猛者なのだと思う。

そんな三人が堪能できるのが、本書である。

 

 

 

 

ジブリの文学 ジブリの文学
2,090円
Amazon