小鯖をカレー風味と醤油風味の唐揚げにして昼飯にした。

 子供たちも母親たちも食うこと。半分揚げたのだが、残りも追加して揚げた。百匹余りの小鯖は、きれいさっぱりなくなった。

 昼から子供たちは、夏休みの宿題をやるそうなので、栄螺と鮑それに岩牡蠣を採りに潜った。

 夜は、心臓とレバー、栄螺と鮑を焼き、牡蠣は生と焼き牡蠣にした。

 卵は、甘辛く煮付けた。

 ご飯は、牡蠣の炊き込みご飯。汁は浅蜊の味噌汁にした。

「明後日帰るのだけど、持ち帰り用の刺身は十分ある。明日はどうする」

「明日は、海水浴がしたい」

「よし。それじゃあ、浮き輪とゴムボートの準備をしておく」

 翌日、浜にイベント用テントを張り、クーラーボックスに飲み物を入れて、準備した。

「十時になったら浜へ行こう。昼はバーベキューができるように準備しておくから」

 昼に炊き立てのおにぎりを運び、海苔を炭火であぶって、パリパリおにぎりを食べさせた。

 肉は、子供たちに勝手に焼かせて、母親と俺は、ビールを飲んだ。

 翌日は、朝から帰り支度。洗濯物を畳み、宿題などをリュックに詰めさせた。

 そうして、駅まで送り、魚はクール便で送ることにした。

「おじちゃん。夏休みが終わる前にもう一度来たい」

「お母さんがOKならいいよ。お父さんも一緒だといいね」

 八月の最終週に一週間来ることになった。父親たちは、仕事の都合がつかず、来れなかった。

「もしもし。課長さん。申し訳ないです。誠とも話しをしたのですけど、九月の連休は、長期に休みが取れそうなので、おじゃまさせてください」

「それはそれは、大歓迎です。できれば、クーラーボックスを持参されると、お帰りの晩に、美味しい刺身が食べられますよ」

 こうして、九月の四連休に父親たちも来ることができた。

 彼らは、金曜日の夜七時半に到着した。

「いらっしゃい。疲れたでしょう。晩御飯はまだですよね。すき焼きの準備がしてありますので、お部屋にご案内しましたら、一杯やりましょう」

 子供たちは、もう、慣れたもので、肉を焼いて、父親の器に入れ、

「まずは、お肉だけを食べるのよ。今日のお肉は米沢牛よ」

「おいおい。ここはお前たちの家か」

「そうよ。後でお風呂も案内してあげる」

 小学校五年生ともなると、全く大人びた口をきく。

「課長さん。こんな生意気な子供たちの面倒を視させて、本当に申し訳ないです」

「いやいや。大変楽しいですよ。まだまだ雷は怖いようですけれどね」

 翌朝飯を食ってから船を出した。

 とりあえず反応が出ている所でジギングをしてもらった。

「水深八十メーター。七十五から六十まで反応があります。鰤かメジロだろうと思いますので、百二十グラムの赤金で攻めてみてください。

 まず誠と呼ばれていた男に来た。

「うわー。重い。こんなに引くのか」

 もう一人にもきた。

「うわー。巻けん」

 かなりの大物が掛かったようで、ドラグがジージーなっている。

 誠が上げてきた。魚影が見える。

「もっと巻いて。竿を立てて」

 メーター級の鰤だった。

「伸治頑張れ。絶対あげろよ」

 伸治の魚影も見えてきた。サメかと思うほどの大物だった。

 計ってみるとメーター二十で十一キロの鰤だった。

「もうあかん。膝がくがくやし手の震えが止まらん」

「俺もや。もう十分やなあ」

 

「まだうねりが残っているから、ジギングは無理やな。湾内でサビキでもやるか。小魚の群れが入っていれば、餌無しで十分釣れる」

 サビキに茄子型重りをつけて準備する。

 魚探で湾内を探ると、いたるところに小魚の群れがある。

「適当に入れて。落ちなくなったらすぐに巻き上げないとからまるぞ」

 次から次へと小鯖が揚がる。次から次へとえらを抜き、はらわたを取って洗い、クーラーボックスへ放り込んでいく。二時間で百匹余りを釣り、子供たちは、飽きてきた。

「岸壁近くで泳がせ釣りをするか。シーバスが釣れるかもしれない」

 息子二人の竿に、ほぼ同時に来た。シーバスとチヌだった。

 娘たちが帰りたがったので、昼前で上がって昼飯の準備をした。

「おじちゃん。お昼はなあに」

「冷やし中華と揚げ春巻きやな」

「お手伝いしたい」

「じゃあ二人でもやしを洗って、髭をとってもらおうか」

 錦糸卵を造り、胡瓜の千切りとハムの千切り、トマトを薄切りにして、冷蔵庫へ。もやしは軽く湯がいて良く水切りし、冷蔵庫へ。

 市販の棒ラーメンを硬めにゆで、冷水で良く洗い、ぬめりを取る。コチュジャン、チーマージャン、甜麺醤を黒酢に加えウエイバーと水を足して火にかける。溶けたところで冷まし、冷蔵庫に入れる。

 全ての材料を麺の上に並べ、汁をかけて、仕上げに黒酢を一振りする。

 冷凍してある春巻きを揚げて準備完了。

「好みで辛子とマヨネーズをかけてもいい」

「うちは、春巻きには、酢醤油とラー油やなあ」

「俺は昔から酢と辛子だけで食べてるなあ」

「私は、ごま油と塩。七味をかけて」

「私は醤油と和辛子だけ」

 皆さん独自の食べ方があるようだが、冷やし中華は全員辛子とマヨネーズだった。

 夜は、久しぶりにトンカツを揚げた。豚バラと玉ねぎのスープに山盛りの千切りキャベツとトマトを用意した。

 ナイフとフォーク、スプーンをセットし、飯も平皿に盛り付けた。

 子供たちは自由だ。トンカツを一口大に切り飯の上に乗せてウスターソースをかけ、スプーンで食う。キャベツもトマトももりもり食う。

 大人たちも釣られて食う。俺は酒も飲まずに、飯を三杯食った。二十年ぶりのことだった。

 母親たちもおかわりしていた。

 三日目は朝から快晴。しかも凪。

相当沖へ出てフローティングミノーを引かせる。

メジが追ってくるのだがチェイスしない。

「クーラーボックスからトビウオを出せ。でかいネイルシンカーをケツから入れて、ジグの代わりに引いてみろ」

 すぐにきた。メーターオーバーのメジだ。

「おい。カジキがジャンプしとるぞ。もっとラインを出せ」

 メーター五十はあるカジキが掛かった。銛で急所を何度も刺し、ウインチで揚げた。念のため大ハンマーで頭をたたき、つのを切った。船上で解体し、心臓とレバー、卵を残して、後はサメの餌にした。

 帰って柵取りし、冷蔵庫で寝かせた。

 

小説のようなものを書き溜めている。

最新作の一部を披露しようと思う。

 

四月に着任した部署の中堅女子社員二人と食事に行った。

「何もわからないから、フォローを頼むよ」

「何をおっしゃっているのですか、部長候補ナンバーワンの課長さんが」

「そうですよ、敏腕課長さんに来ていただけたので、業績アップ間違いなしです」

「君たちが、ここはおかしいとか、この業務はもっとこうしたほうが良いと思うことを、僕の私用PCにメールして欲しい。URLをスマホに送るから」

「もう、問題がありすぎて、一杯あります」

「二人で相談せずに、それぞれが思ったことを書いてくれれば良いから」

 とりあえず、焼き空豆と生シラス、刺身の盛り合わせを頼んだ。

「飲み物は、どんな高い酒でも良いぞ」

「私は、獺祭 磨き その先へ にする」

「私もそれ。飲んでみたかったの」

「良い選択だな。家に送ってもらったばかりの七百二十CCの瓶が五本ある。一本ずつ進呈しよう。自宅あてに送るよ」

「ええ、それって三万円以上するお酒でしょう。頂けません」

「いやいや、スパイ料だよ」

 その後、彼女たちの助言で、改革すべきポイントがつかめたので、部長に進言したところ、次の取締役会で報告することになった。

「いやあ課長、有難う、今まで任せきりにしてきた僕の責任でもある。お叱りを蒙るかもしれないが、是非やってくれ。

 こうして、六月までに改革は終わった。

 課の業績は二割増しになり、社長賞を頂いた。

 早速女子二人を食事に誘った。

「わあ、初めてこんな高級料亭に来ました。圧倒されそうです」

「いらっしゃいませ。若女将をしております昌代と申します。本日は有難うございます」

「電話で頼んだとおり、この人たちには松のコースを」俺にはと言いかけたら。

「課長さんは、背超しと塩焼き三匹ね」

「今の鮎は、四万十のもの馬瀬川のもの」

「今日は、馬瀬川の大ぶりの鮎が入っておりますので、お出しします。お酒はいつもの、獺祭 磨き その先へ ですよね。すぐにお持ちします」

 すぐに若女将が酒と小鉢を持ってきた。

「課長さんが板長に教えてくださった松前三升漬ですのよ。やっと板長が味に納得して、お客様にお出しできるように、大量に作ることができました。鮎は、仲居が次々運びますので、どうぞごゆっくり」

「課長さんすごいですね、こんな高級料亭の板長さんに料理を教えるなんて」

「料理というほどのものではない。食べてみろよ」

「辛い。でも美味しい。お酒に合う」

「でも、大変失礼ですけど、課長さんのお給料だと何回もこれませんよね」

「実はね、四十八歳のときに突然株を初めてね、四十九から五十一まで毎年納税後に二百億ずつたまったんだ。それで、五十歳のときに金沢に別荘を建てて船を買ってね、地下へ降りると直接船が出せるようになっている。温泉も掘って、大浴場もある。そうだ、子供さんが夏休みになったら、おいでよ。浅蜊も採れるし、潜れば栄螺も鮑も採れる」

「わあ、行きたい。子供も喜ぶわ」

「それなら、新幹線で行こう。喜ぶぞ。費用は俺が出す」

「それはいけません」

「ええのや。贅をつくした別荘建てて、オプション付けまくった船買っても、なお五百億以上あるのや。まかせておけ。夏季特別休暇は、八月から取れるのやな。八月頭から五日間行くか」

 金沢へ着いたのが十一時、子供たちの希望で寿司屋へ行った。

 別荘へ到着し、部屋に荷物を置いて、案内した。一階は駐車場、縦に二台止めれば八台入る。それと、エントランスホールに喫茶室。二階は大浴場が二つと卓球場その隣に撞球場があり、男女それぞれのトイレがある。三階は、厨房と和室二十畳その隣がダイニングでその奥にはバーカウンター付きのラウンジになっている。四階は、シングル三室にツインが三室、十二畳の和室が二間。それぞれバストイレが付いている。五階は面積が三分の一程で、私の書斎が造ってある。

「わあ、温泉入りてえ」

「もう、いつでも入れるよ。でも、貝採りしてからにしよう」

 明日の朝食の味噌汁用に、浅蜊の砂抜きをしておいた。

「さあ、風呂へ行くぞ。お母さんたちと娘は女湯、俺たちは、男湯な。中で泳げるぞ。でかいから。脱衣室にある洗濯乾燥機を使ってくださいね。バスタオルもごしごしタオルもありますから。それも洗濯乾燥機に放り込んでスイッチオンするだけですから。洗剤も柔軟剤もセットしてあります」

 頭を入念に洗ってやり、体を洗わせて、後は自由にさせた。泳いだり潜ったり湯船の周りであおむけに寝転んだりして、三十分程遊んでいた。

 上がると、丁度女性陣も出てきた。

「随分賑やかだったわね。遊んでもらっていたの」

「いやいや、自由にさせていたのですよ」

 夜は、すき焼きにした。準備したのは、白葱、白菜、シラタキ、椎茸、焼豆腐。

肉は、松坂牛が二キロある。

牛脂を鍋に入れ、さっと肉を焼き裏返して割り下をかける。これで一人二枚ずつ食べさせる。肉厚で一枚が弁当箱ほどの大きさがあり、十分食べごたえがある。

 牛脂を追加し、野菜にシラタキ、焼豆腐を入れ、割り下を入れて、

「煮立ったら、肉を入れてください。玉子はいくらでもあるので、足りなかったら、冷蔵庫から出してください」

「本当に美味しいお肉ねえ。生まれてこの方食べたことがないわ。どこ産の肉なの」

「松阪牛のA5ランクです。特別に厚く切ってもらっています。玉子も野菜も、京丹波の農家さんに、自然飼育、無農薬栽培で作ってもらっているものです」

「それはすごい。でも、課長さん時々解説者みたいに丁寧語になるのね」

「ああ。長年勤めていてついてしまった癖だよ」

「課長さんは食べないの」

「俺は、小さいスキレットでやるよ。葱だけでやりたいから」

スキレットの周りに三センチ程に切った白ネギを縦にして並べ、牛脂を溶かして肉を焼き、割り下をさっとかけてなにも付けずに食う。二枚食べたら葱の食べ時。甘い葱が非常に旨い。三枚目からは卵を使う。

 子供たちは、腹一杯でゲームを始めた。

「そろそろ特製味噌煮込みうどんを作ってやろう」

 香川から送ってもらっている特製冷凍うどんをぬるま湯で戻し、すき焼きの汁をキッチンペーパーで濾す。葱、椎茸、蒲鉾、揚げを切って笊に盛り付け、汁に水と酒を足して、味噌を溶く。

小さい土鍋に汁を入れ、少量の味醂を加えてうどんを入れ、材料をすべて乗せる。沸騰したら、蓋をする。蒸気穴から湯気が噴き出したら、卵と細切りにした肉を入れて蓋をする。

「さあどうぞ。うどんは一玉半入れてあります」

 俺も、彼女たちも、あっという間に食べてしまった。

 九時過ぎに、下の子供たちが船をこぎ出した。上の子たちも盛んにあくびをしている。

 二家族が全員和室で寝るので、手伝って子供を運んだ。

 十分程すると、母親たちが戻ってきた。

「嬉しくて、興奮しすぎて眠くなったのでしょうね。いつもは十一時までは起きているのに」

「ええ、そんなに遅くまで起きているのか」

「夏休みの始まりは、いつもそうですよ。興奮して眠れないのよ」

「そうなんだ。旨いチーズと白ワインがあるぞ、ロゼもある」

 こうして和やかに時は過ぎた。

 翌朝五時に起きると、大時化、三メートルの波が岸壁に打ち付けている。想定外だ。局地的に低気圧が発生して大荒れになったようだ。

 とにかく雷がうるさい。

 いつもの朝食を用意して、丁寧に利尻昆布で出汁を取り、浅蜊の味噌汁を作った。

 起きてきた子供たちは、雷におびえている様子。

「大丈夫だよ、家の中にいれば。後二時間もすれば通り過ぎるから」

 やがて西の空から青空が広がってきた。

「雷の後は、大漁になるぞ。船を出す」

 もう、お祭り騒ぎ、息子も娘も母親たちもジギングでメジロに鰆、シオッコと釣りまくる。

「はい。帰るよ。また怪しい雲が出てきたから」

 案の定帰港したら暴風雨。雷も凄くなってきた。

「停電するかもしれないから、自家発電の準備と、無停電電源装置を起動してくる」

「ええ、停電なんてするの、おじさん」

「ここは、田舎だから、都会のようにはいかないんだよ」

 準備して約十五分。敷地近くの電柱に落雷した。即停電。装置のおかげで、一瞬電気が消えただけですんだ。

「これでは復旧は夕方になるだろう。ジーゼルの軽油タンクを満タンにしてくる」

 昼過ぎに嵐は通り過ぎ、まさに快晴になった。

電力会社から電話があり、あちらこちらで停電が発生しているため、この地域は、復旧が夕方になるとのこと。

 電気を使うのは、水槽のエアレーションと部屋の照明、テレビにパソコン、冷蔵庫程度なので、自家発電で十分賄える。電子レンジを使っても余裕がある。

 魚は十分あるので、順番に捌いて、冷蔵庫で熟成させる。

 昼は、手巻き寿司にした。

 メジロのトロ、中トロ、赤身、アオリ、スルメ、剣先、鱚、イサキ、鯵、大葉、カイワレ、胡瓜、紅ショウガ、山葵スティックを準備した。酢飯は六合用意して、蛤の吸い物も作った。

 親子共々食うこと食うこと。飯が足りないのではないかとひやひやした。

「それだけ食べれば、夜は、お茶漬でいいよな。さっき捌いた骨で出汁を取る。鯛を少し甘いタレで漬けにしておくから、鯛茶やな」

 昼にあれほど食べたのに、まあ食うこと。母娘は二杯、息子たちは三杯も食べた。

「こうして食うと上品そうに見えるけど、飯に味噌汁かけて食うのとさほどかわらんよなあ。ねこまんまと」

 例えば飯に梅干を乗せて煎茶をかける。いわゆる梅茶漬。これは許されて、猫まんまは許されない。飯にクリームシチューをかけるのは駄目で、カレールーをかけるのはOK。一流料亭でやる訳じゃなし、自宅でやるならねこまんまだろうがシチューごはんだろうがかまわんだろう。と思うのだが。

「おじさん。明日の朝ご飯は何」

「そうだなあ。魚も飽きたやろうし、ピーマンの肉詰めとオクラの辛し和え、隠元の胡麻和えとイカソーメンやな。オクラの中にイカぶち込んで食っても旨いかも知れんぞ」

 翌朝息子二人は、ソーメンの中にオクラをぶち込んで食った。

「これうめー。先にピーマンと隠元食って、後で飯と一緒にこれ食う」

 母娘も真似をした。