吉行淳之介さんの足跡をたどる旅 その2  逗子の街を歩く | マサミのブログ Road to 42.195km

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今年から、ふと思い立って、敬愛する作家、故 吉行淳之介さんの足跡をたどってあちこち歩いています。その2回目をレポートしますね。ちなみに第1回は今年の6月でした↓。
 

 

今回は、まず吉行さんの作品から、こちら↓をご覧ください。

 

その頃、私は精根尽き果てかけていた。私は女学校の教師をして、辛うじて生計を立てていた。その女学校の校舎は、海の傍に建っていた。駅から校舎までの間に、岩石を掘り抜いた洞窟のようなトンネルがあり、その入り口には立札があって、『岩石ガ落チテクルコトガアリマスカラ、頭上ニ注意シテクダサイ』と書いてあった。事実、トンネルの内部はいつも滲み出てくる水で潤っていて、剥落した岩石が地面に突き当たる音が、時折、歩き抜けてゆく私の背後や横手でひびきわたることもあった。生命にかかわる大きさの岩石は剥落することがない、という見通しがついているのかどうか不明な、なげやりな感じのトンネルだった。だが、このトンネルが無かったら、とっくに私は、その女学校へ通勤することをやめていたにちがいない。

校舎の窓から見える海の拡がりは、よごれて青ぐろく、私の立っている教壇に向けられている少女たちの沢山の眼は、なぜか利発な光を欠いて、白くよどんでいた。しかし、海を渡ってくる風や、少女たちの若い躯(からだ)をつつみこんで微かに揺らいでいる教室の空気は、私の胸をふくらませた。また、トンネルの中の湿った冷気と、時折反響する岩石の落下音は、私の細胞を緊張させた。

(短編小説『寝台の舟』) 

 

 

金のことを口に出すのが、恥ずかしくて、できなかった。口に出そうとすると、生理的な苦痛を覚える。戦争が終わっても、まだ、その性癖は直らなかった。食べるのに困って、大学(マサミ注:東京大学文学部英文学科)に在籍のまま、女学校の講師をしたことがある。そのとき、どうしても給料の額を訊ねることができない。「考え方」としては、すでに昔とは違っていて、「かならず、訊ねなくてはいけない」と、自分に言い聞かせたが、どうしても口に出せなかった。

月末になって給料袋を開いてみると、予想したよりも、かなり少額だった。私は腹を立てて、その全額を投じて香水を買い、女の子にやってしまった。そのため、翌月一カ月は、スイトンばかり食べていたが。腹を立てたのは、額が少なかったことにたいしてでもあるが、もっと多く、自分が訊ねることができなかったことにたいしてである。

(エッセイ『なんのせいか』)

 

 

吉行さんのアンソロジーを読むと、昭和24年~25年頃、逗子にある女学校で英語を教えていたことがあるそうです。私はそれが気になって、逗子なら近いし、吉行さんが英語の先生をやっていた学校が現存するなら行ってみたいと、ずっと思っていました。上記の短編小説に出てくる「洞窟のようなトンネル」も見たくて。そこでやっと最近になって地図を見て調べたら、確かに、逗子の駅の山側にトンネルがあって、そこを抜けたところに私立の女子校があるのを発見したんです!これはもう行くしかないですよね~。なので仕事が休みだった火曜日に、行ってきました。

 

 

うちから行くと、JR横須賀線で、鎌倉のひとつ先が逗子です。超ウルトラ有名観光地の鎌倉と、セレブな別荘地的なイメージがある葉山に挟まれた、微妙な存在の街(笑)ですが、私は大好き。

 

 

駅の山側の小さな改札を出ると、すぐに目指す学校の看板が見えました。目的地は「聖和学院」というミッション系の女子校です。

 

 

私は生れて初めて逗子駅の裏側を歩きました。このあたりは「山の根」という地名の通り、周囲は小高い丘というか山にグルっと囲まれています。鎌倉なら「谷戸」と呼ぶ地形ですね。そもそも逗子という街全体が、北と東と南を山に囲まれ、西側が海に開けている。鎌倉とよく似た地形だなと実感しました。ただし鎌倉よりも奥行きがずーっと狭いです。

 

 

5分もいかないうちに、見えてきましたよ~。

 

 

これが例のトンネルか!久木隧道という名前のようです。入ってすぐ左側に銘板のようなものが見えるので、行ってみました。

 

 

右から左へ「皇紀二千六百年 工事請負人 山口清造」と書いてありますね。皇紀2600年ということは、1940(昭和15)年に出来たトンネルのようです。では、入ってみましょう。

 

 

うーん、吉行さんは「洞窟のような」と書いていますが、かなり雰囲気が違いますね。上から水がポタポタ落ちてくるような、岩をくり抜いてそのまんま、という感じではありません。わりと最近になって整備されたのかなぁ? ともかく、先へ進みます。

 

 

トンネルを出て振り返ると、この景色。それほど長いトンネルではないことが分かると思います。吉行さんはこのトンネルを歩いて通勤していたんですね。では、いよいよ目的地の聖和学院へ向かいます!

 

 

・・・ていうか、トンネルを抜けると、すぐにこの建物が見えてくるんです。新しくて綺麗な校舎。でも、あれ?吉行さんの文章では「校舎の窓から海が見える」と書いてあったので、私はてっきり高台に校舎があるのかと思っていたんですけど、行ってみたら、まるっきり平地に建ってるんですよ。むしろ逆に、トンネルを出たら下り坂になってるぐらいです。山を崩して建て直したとは思えないし。「窓から海が見える」というのは、吉行さんの創作だったのかなぁと思いました。エッセイではなくて小説ですからね。学校の名前も出て来ないし。そもそも「逗子」という地名だって出てきません。「海のそば」と書いてあるだけ。私は「これで、いいんだ」と思うことにしました。そして心の中で「吉行さん、ここまで、私も、来ましたよ!」と呼びかけたのでした。

 

吉行さんの足跡をたどる旅、そんなわけで今回は、30分もかからずに終了してしまいました。吉行さんがここで働いたのは半年かそこらぐらいだったようで、だから仕事帰りに寄ってお酒を飲んだ店のこととか、まったく書いていません。吉行さんにとって、逗子の街は人生の中で本当にチッポケな存在だったようです。ちなみに、ここで英語を教えていた吉行さんに女生徒がつけたあだ名は「ユーレイ」だったとか。影が薄かったのでしょうねぇ。ふふふ。なんか分かる気がするほっこり

 

 

―――

 

 

目的は達しましたが、まだ時間はたっぷりあるので、今日は「逗子で私が大好きなお店を半日でぜんぶ巡る」に挑戦しよう!と思いつきました。またトンネルを抜けて、駅前に戻ります。咽喉がカラカラなので、とにかく一服したい。

 

 

これがJR逗子駅のメイン側。バスターミナルがあります。私のフネが置いてある秋谷海岸に行くバスも、ここから出ます。

 

 

その逗子駅から京浜急行の「逗子葉山」駅に向かう途中にあるのが、こちら↑「カフェ カミーナ」さん。なぜ「ヒツジヤ」という看板なのかというと、今のマスターのご両親が、以前こちらでヒツジヤという洋品店?を経営されていて、その建物をそのまま使っているからだそうです。

 

 

水出しコーヒー550円。この写真でお分かり頂けるかと思いますが、インスタ映えなどまるっきり意識していないナチュラルな空気感(笑)。逗子かいわいでお茶するなら、私がいちばん寛げるのはこのお店なんですけど、ここの良さはたぶん誰にも分ってもらえないと思うので、誰かと来たことは一度もありませんウシシ 

 

そしてここのマスター(50代前半くらい?)とは顔見知りなので、さっきのトンネルについて尋ねてみたんですよ。そうしたら「確かに昔はもっと狭くて暗くて、上から水が落ちて来ました。車がすれ違えるぐらいに広くなったのはわりと最近です」と答えてくれました。そうなのか!吉行淳之介さんが見たトンネルの光景を覚えている人に会えて嬉しかったです! 訊いてみて良かったと思いつつ、次の「私の好きな店」に向かいました。

 

 

この看板はお店の裏側です。亀焼きのお店「海神亀」さん。お店の名前の読み方、実は正確に知らないんです。「かいしんき」かな?

 

 

表に回ってみると、なんか、やっていない雰囲気。しかも貼り紙がしてある!「ああ~、閉店しちゃったかな?」と嫌な予感を抱きながら進んでみると・・・

 

 

ははぁ。こういうことですか。「必ず再開します」と書いてあるのを見て安心しました。ここ、好きなんですよ~。

 

 

商品は、この3つだけです。見た目はまったく同じで、中の餡が違うだけ。数年前にこのブログでもご案内しましたが、私は抹茶生地の「緑亀」がお気に入りです。皆さん、逗子へお越しの際は「亀焼き」をどうぞご贔屓くださいますよう、お願いいたします。気のいい陽気なお兄さんがワンオペでやっている、小さな小さなお店です。

で、亀焼きが買えなかったのは残念ですが、気をとりなおして次のお店へ・・・

 

 

商店街から少しだけ路地を入ったところにある古書店「ととら堂」さん。

 

 

民家を改造して古本屋さんを開業した感じですね。私は古本屋さんと、中古CD/レコードショップなら、何時間でも時間をつぶせる自信があります。「ととら堂」さんは、音楽/映画/デザインなどカルチャー系の本が豊富なこともあって、私には夢のように楽しい本屋さんです。店内に流れているBGMも、只者ではない感じ。今回も数冊購入しました。何を買ったかは、のちほど・・・

 

 

ととら堂さんから2分ぐらい歩くと「ブーランジェリーes(イーエス)」さんに着きます。小さな小さな、可愛いパン屋さん。今の「パンブーム」が起こる前にオープンしています。ここも大好き! さっきご紹介した「海神亀」のすぐそばに、地元で有名なパン屋さん「ブレドール」の支店がオープンしていますが、私はこちらのほうが贔屓です。基本的に、個人経営の店を応援していますので。

 

 

とりあえずパンを数個買って、まだ散歩の途中だったので預かってくれるようにお願いしてお店を出ました。時刻は午後3時過ぎ。快晴。これなら、海を観たくなりますよね!(いや、3日前にはフネの上にいたはずなんですけどもゲラゲラ

 

 

閑静な住宅街を歩くと、潮の香りがしてきます。SUPを引っ張って歩いている女性もいたりして、海が近い街だなって感じますね。ここをまっすぐ行くと・・・

 

 

 

ここからは動画でご覧ください。向こうが、駅から歩いて来た道。振り返ると、こんなふうに、道路の下の小さなトンネルをくぐって砂浜に出ます。逗子から、お隣の鎌倉・材木座あたりにかけては、こういう景色が多いんです。

逗子の海岸はほどほどに賑わっていました。このあたりの海面は、ヨットよりもWSFの人が多いですね。ざっくり言って、葉山はヨット、逗子はウィンド、稲村ケ崎はサーフィン、江の島はまたヨット・・・などと、海面によって「縄張り」的なものがあったりします。(そして、これは言いたくないけど「ジェットスキー」は、どこへ行っても嫌われ者です) 最近増えてきたSUPは、控えめな存在だし行動半径が狭いから、どこでもまぁまぁ歓迎されているかな?

 

 

逗子海岸の端っこには、石原慎太郎さんの「太陽の季節」(1955年の文学界新人賞、芥川賞を受賞)がここを舞台にしたことにちなんだ記念碑が建っています。

 

 

さっき「ととら堂」で買った本は、この5冊です。私はタイトルに「鎌倉」とついた本は、とりあえず買ってしまうんですよねー。あとは最近ハマっている内田百閒(うちだ ひゃっけん)の作品を2冊と、植村直己さんが1980年に書いた自伝。この5冊で1300円でした。安くて嬉しい~音譜

 

 

今日のワタクシ。逗子海岸の砂浜に降りる階段に座って、買ったばかりの内田百閒を少し読みました。面白い!実は内田百閒も吉行淳之介さんつながりだったりします。詳しくは、またいずれ。4時半ぐらいまでここにいて、そろそろお腹も空いてきたので、逗子の駅前に戻ることにしました。まずブーランジェリーesさんで預けておいたパン類を受け取り、また商店街をブラブラ・・・

 

 

この「かまたけ」さん、いわゆる「練り物」の専門店です。おでんのタネなんかの。いい雰囲気でしょう?私はずーっと前から大好きなお店なんですけど、なかなか、逗子でおでんのタネを買って帰る機会というのがなくて・・・今年の冬あたり、こちらでいろいろ買って帰って「おでんパーティー」でもしようかな? 4人家族ぐらいだったら、たくさん買えて楽しいんでしょうけどねぇ~。

 

 

こちらは、紹介の必要がない、超ウルトラ有名店ですね。今回はスイーツ系はブーランジェリーesさんで買い物済みなので、ここは寄りませんでした。そもそも、買うならいつも本店で買うし。

 

 

そしてやって来たのは「はら田」さん。逗子駅からすぐの、和食のお店です。

 

 

どうです?このメニュー、このお値段!嬉しくなりますよね。逗子ならこういうお店、多いと思いがちですけど、案外ないんですよ。気楽に定食類が食べられるお店って。私は2年ぶりぐらいなので、ワクワクしながら午後5時半ジャストに飛び込みました。夜営業の開店一番乗りです。

 

 

まずはこれ!海岸にいた頃から咽喉が乾いていたけど、これが楽しみでドリンクを我慢していたから沁みる~!プハー!

 

 

サザンオールスターズのファンなら、いまいちばん気になる、こういうメニューもありましたが(笑) 私が選んだのは・・・

 

 

こちら、「生シラスのかき揚げ定食」1100円です。 このお店ではいつも、メニューを眺めながら注文を決めるまですごく悩むんですけど、今日はとても珍しく3秒で即決! かき揚げのデカさ、伝わるかなぁ~?

 

 

そもそも私はかき揚げが大好物で、天ぷらやお刺身の出る店では必ず頼むんです。でも「生シラスのかき揚げ」は生れて初めてでした。

 

 

シラスがどっさり詰まってるの、分かって頂けますか? かき揚げって、サクサク&パリパリの食感なのが普通ですよね?でもこのかき揚げは違いました。歯触りがふんわり、ほわほわ~な感じ。目をつぶって口に入れたら「洋菓子かな?」と思ってしまうような感覚でした。味は、シラスがしょっぱ過ぎなくて絶妙。食べながら「はぁ~極楽極楽!」と胸の中でつぶやいていました。やっぱり「はら田」さん優勝です!爆  笑ラブラブOKキラキラ  もちろん、シラスが獲れる時だけ(禁漁期以外)、しかも「生の」シラスは毎日あるわけではないので、今日はラッキーでした。

ちなみにこちらの「はら田」さん、土曜日曜の夜は、海で遊んだ帰りの地元民でいっぱいになることが多いので(ほとんど全員が居酒屋的に使うから滞在時間も長い)、今回のように、平日の午後5時半、夜の開店と同時に飛び込むことをお薦めします。(「そんなの無理!」と言われるのは、承知の上で)。

 

 

こんなふうに、「逗子で私が好きな店を全部巡るチャレンジ」は、海神亀さん以外はすべて達成できました。こういうの、なかなか出来ないですよね。夏にヨットの帰りに必ず逗子には寄りますけれど、時間が遅いし。とても楽しくて美味しかった1日に感謝して、逗子市役所の隣にある「亀ヶ岡八幡宮」にお礼参りをしてから、帰路につきました。

なおこちらの神社は、鎌倉の「鶴ヶ丘八幡宮」と合わせてお詣りしますと「鶴と亀」でご利益が数万倍になって必ず願いが成就する、という地元秘伝の言い伝えがあるそうです(マサミ調べゲラゲラ) 鎌倉と逗子、すぐ隣ですので、ぜひ皆さまいちどお越しくださいますように。

 

 

 

―――

 

 

 

 

ブーランジェリーesさんで買ってきたものをご紹介しますね。

 

 

桃のデニッシュ。420円。桃を口に入れたとたん、大げさでなく目が点でした。「桃って、こんなに甘いの!」っていう驚き。こないだ、私が遊びで作った「ピーチメルバ」の桃とは完全に別物ですね。私が作ったピーチメルバの桃を全部一度に口に入れたのよりも、ここに使われた桃のひと切れのほうがずっと甘い。どこのどんな桃を使っているのか、次回聴いてみよう。あと「食べごろ」の見極めも大切なんでしょうね。桃って、果物の中でいちばん食べごろを選ぶのが難しいような気がしてきました。

 

 

 

ちなみにこれが↑マサミ作のピーチメルバです(当ブログで紹介済み)。恥ずかしいので小さく載せます(テヘペロ)

 

 

 

こちらも↑ブーランジェリーesさんで買って来ました。左はサワーチェリーのブリオッシュ180円。右は名前も可愛い、ねこパン140円。ねこパンはピーナッツクリームが入ったふわふわのパンで、指の部分にメープルシロップが仕込んであって美味しい。

 

本当に今日はいろいろツイていた幸せな日でした。感謝しかありません。いつもに増して激長の記事になってしまいましたが、最後までお読み頂きありがとうございます。ここまで読んでくださった奇特なあなたに(笑)幸運が舞い降りますようにクローバー