一度見たら忘れられないような刺激的なタイトル。

鈴木創士訳であとがきがわりと充実しているようだったので手に取ってみた。

 

第二次世界大戦が終わり、その翌年(1946年)に書かれたヴィアンのはじめての作品とされている。

パリで生まれた作家が描く、黒人差別による復讐劇。当時はフランス人ではなくアメリカ人として(偽装して)執筆していようだが。他にもアメリカ名で執筆した作品はいくつかあるみたい。

 

 

"J'irai cracher sur vos tombes"

et cafe.

 

 

内容を簡単に書くと、黒人であるがゆえに殺された弟の復讐をするため、リー・アンダーソンが上流家庭の美人姉妹を復讐の対象とし、好き勝手やって殺すって話し。

 

あれ、ネタバレしちゃったかな?

以降もネタバレしますのでご注意ください。

 

 

リーは見た目は白人、だが黒人だという。どうやら混血らしい。

白人姉妹(姉)と事を終えた後にこんなことを言う。

「有色人種と寝るといつもそんなに感じるのか?」

「だって俺はな、八分の一以上は混じってるんだぜ」

1/8と言っていた。

 

ちょうど最近読み終えたばかりの、フォークナー『八月の光』では、ジョー・クリスマスという黒人との混血(とされている)人物が出てきた。

クリスマスも娼婦と終えた後に、「実は俺は黒人なんだぜ」と告白している。(みんなやった後に正体を明かしたがるんだね。女をいい気分にさせて突き落としたいのかな?いい気分になってるのは男だけな気もするけど…)

ただ、クリスマスの場合は娼婦に「それがどしたのよ。あんたの前の黒人なんてもっとすごかったわよ」なんて軽~く言われちゃって、逆に衝撃を受けて数か月憂鬱になったわけだが、もしリーが白人姉妹に同じように言われてたら、どうなってたかな。もしかしたら復讐の士気が崩れ去ったりしたのかな。

正体が分かった途端に、愕然としたり憤怒や嫌悪したりするから余計燃え上がっちゃうように見える。どっちにしろ女は殺されちゃうのかもしれないけど…。

 

ちなみに『八月の光』は1932年発表。こういう問題は根深いものだろうし、彼らにしか分からないような感覚があるのかなあと思う。彼らの中での感覚もそれぞれ異なるのかもしれないし。

 

 

差別といえば、島崎藤村『破戒』なんかも被差別部落出身で差別対象の丑松という青年が主人公だった。差別や偏見が色濃い作品だった。『破戒』は、そもそも復讐劇じゃないしフィールドが違うんだから『お前らの墓に~』と一緒に語るのはヘンだし、そんなことするもんじゃないとは思うけれど、リーのように、心にはある思いを秘めているとして…、パリピ系(?)というか…ウェイ系(?)というか…そんなノリの丑松だったら(ありえないけど)、これまたぶっ飛んでどんな破戒になるんだろう…と、とても余計な妄想が広がったりした。こりゃ破壊だ~。はっはっは…

 

不謹慎ですみません。ただの妄想です。

 

 

カーッ(゜δ ゜ )≡(#`з´)∴ ペッ!

 

 

ちなみに、白人姉妹とリーの弟とは何の関係もない。ゆえに姉妹に罪があるわけではない。リーの独断で彼女らを白人の代表として復讐の対象に選んだだけ。だから姉妹からしたらロマンス詐欺ならぬロマンス殺人をされた感じで相当理不尽なことだ。この犯罪行為は人々から非難され、最後彼は吊るされた。

 

でも、ヴィアンが描くストーリーを追っていると、悲惨な最後を遂げた姉妹に対して同情心が湧くことはなかった。なぜならば、その姉妹は何不自由なく能天気に毎日を楽しみ、差別を差別だとすら知らず、自分たちがこの上ない至上だと生きているように描かれていたからかもしれない。さらに、姉妹は共にリーに思いをよせていたが、黒人だと分かった瞬間に突然態度を一変し、銃を向けたりもするのだ。

あ、でも最後にリーが陰部を噛み切って血が噴き出しちゃうところは、サド文学でもまだお目にかかっていない暴力的な行為だったので、さすがに痛々しかった。

酒と女、メチャクチャに胸くそ悪いことをしているリーのような人はまるで好きじゃないけど、弟の復讐と言えるかも分からない復讐劇に少しだけ肩入れしたくなった気がしないでもない。…こともなくもない。…わけない。(どっちだ!)

 

それにしてもリーは、復讐対象に自分が欲情できるような都合のいい人物を選んだ気もしてしまう(弟が殺された原因は女性だったからってことかな?)。だって復讐とは言いつつ、その過程では女とかなり楽しんでるようにも見えたから。

作者はこの作品で、差別に対する憤怒の念を描いたということだから、口が達者でそこそこハンサムなリーは、女をたらしこんで気を持たせ、十分楽しんでから叩きのめしてやるぜって支配欲的なことだったのかな。やっぱり若い子がいいみたいだったけど。

 

「我はわが肉を食らい、わが魂を手につかむ」

 

 

河出書房からは他に『北京の秋』も新訳で出てるから、そちらも読んでみようと思う。