「トレイルランナーと登山者の違い:登山における軽装備問題は体力差で決まるのだが」
登山書を読むと装備一覧表が載っていて、
必携品、人によっては必携品、あれば便利な物と、
段階的に色々と挙げられている。
どれもこれも頷ける物ばかりだ。
従って軽装備で登山をした者が遭難すると、
非難の大合唱となる。
「山をなめてはいけない」はベテランの常套句だ。
だが登山者は常に重装備で臨んでいるのか?と言うと、さにあらず。
非常に恐ろしい実態が判明している。
例えば「雨具(上下セパレート型)」「ヘッドライト」「地図と磁石」は、
どんな登山書や登山サイトにも書かれている必携品中の必携品になっている。
以前読んだ、10年くらい前の奥多摩での統計だが、
何と地図と磁石を持っていない人が半数くらいいたとか。
これはかなり恐い統計だ。
また、2014年に起こった御嶽山(標高3067m)の噴火で、
多くの犠牲者が出たのは未だに記憶に新しいが、
何と救出に向かった警察の山岳救助隊員は、
山小屋に避難していた20数名を連れて、
一刻も早く下山させようと夜間に外に出ようとしたところ、
何と20数名の全員がヘッドライトを持っておらず、
動くに動けなくて困った記録が残されている。
つまり、意外にも多くの登山者は、
何となくリュックを背負っているから、
誰もが必携品を持っていると思い込んでしまうが、
実態は非常に危険だ。
そもそも何度も書いているが、
紙の地図と磁石を使ったナビ手法を使える登山者など先ずいないと思っておいた方がいい。
理由は単純で非常に難しいからだ。
もちろん必携品ではあるが、残念ながらまともに使える人は極々少数だ。
と言うよりも地図すら持たないで登山している人が多い、と。
場合によると半数くらいいるらしい、とも。
それが現在の日本の登山の実態だと考えておいていい。
もっとも今はスマホ時代なので、
スマホはほぼ100%の登山者が持っていると思われる。
だがヤマレコやYAMAPに代表される登山専用の地図アプリを正確に扱える人もまた極少数に思われる。
未だに「携帯電波が入らない場所では使えないと思い込んでいる人が非常に多い」と思われる。
正しくは「登山専用の地図アプリは携帯電波が入らない場所でも見事に作動する」である。
ちなみに誰もが使っているGoogleマップは登山では使えないし、
これこそが携帯電波が入らないと使えない厄介な代物だったりする。
さて、最近登山の世界では新しいスタイルが現れている。
昭和時代にはほとんど知られていなかった「トレイランニング」となる。
要するに山道を走って登るスタイルだ。
現在、登山者によっては登山道で走るランナーを良く思っていない人もいて、
たまにトラブルになったりもするらしいが、
実は登山のベテランほど良く思っていないような感覚がある。
と言うのは、登山のベテラン達は遭難が起こる度に、
「山をなめるな」「軽装備などもってのほか」と言うからだ。
ここでトレイルランナーの格好と装備を見てみよう。
非常に軽装であり、リュックに至っては容量がとても小さいのが分かる。
前述したように登山者でも雨具やヘッドライト、地図を持たないで入山する人が多い実態が判明しているのである。
トレイルランナーが凄い軽装備なのは間違いないところだ。
ランナーの写真はWIKIからのものだが、
必携品としては「トレランシューズ」「ランニングウェア」「水筒」「ヘッドランプ」
「雨具」「GPSウォッチ」などが挙げられていたが、
もちろん通常登山装備からすると悲惨なほど少ない。
だからダメなのか?と言うと、これまた違っているから非常に厄介だったりする。
実は登山の世界でも超軽装備で登る者を礼賛するケースが多々ある。
それが強力(ごうりき)の世界だ。
山小屋に80kgとか、伝説の人だと100kgの荷物を頂上に上げてしまう人。
間違いなく強力はトレイルランナーみたいな超軽装備で登っている。
誰も文句を言わないどころか大抵の登山者は羨望の目で眺めている。
素晴らしい体力である、と。
実はトレイルランナーの体力は、
つまりマラソンランナーの体力とも言えるが、
これは登山能力と比例している。
間違いなくマラソンランナーの登山能力は傑出しているのである。
皮肉にも逆は違っていて、
登山能力が優れているからと言って素晴らしいランナーとは限らないのである。
ここがミソで、ベテランの登山者がトレイルランナーに何か言いたくても言えないのが、
この体力場面なのである。
はっきり言ってしまうと、
登山技術はともかくとして、
あくまでも体力のみを基準に比較すると、
通常登山者とトレイルランナーの体力は全く異次元であり、
先ず登山者は絶対に敵わない体力をランナーは保有していると思っていい。
その差は桁違いだ。
具体的に言うと、例えば関東地方の有名な縦走コースで、
奥高尾縦走路と言うのがある。
これは陣馬山から景信山、小仏城山を経由して高尾山に行く、
長いトレランコースとも言え、
北アルプス縦走を目指す登山者達の練習コースにもなっている。
多くのトレイルランナーや本格的な縦走登山の練習をしている人がいる。
道は分かり易く、もちろん油断は大敵だが、
かなり安心して臨める素敵な縦走路だ。
このコースの登山地図での標準タイムは約7時間となっているが、
このタイムは全ての登山地図の常識でもあるが、
「健脚の人が休み無しに行ったタイム」であるのにご注意を。
つまり休憩や食事を入れたらプラス1時間~1時間半くらいは普通にかかる。
ちなみに私はこのコースでは撮影しながら行ったのと、
元々足が遅いため10時間くらいかかっている。
普通レベルの楽しみながら行く感覚だと8~9時間は最低でもかかると思っておいた方がいい。
これが登山者のタイムだ。
だが、トレイルランナーはどのくらいのタイムで行くのだろうか???
何と速い人だと5時間くらいで行く。
もっと速い人もいるだろう。
つまり半分くらいのタイムで行けてしまえるのである。
このスピードは登山者からすると驚異的だ。
この感覚が登山者がトレイルランナーに感じる、
嫉妬と羨望と危険性が入り混じった何とも複雑な感情を作り上げている。
山のベテランの中には余りの軽装備を見て一言言いたくなる人は多い。
だが、トレイルランナーの体力的実力は分かっているため、
言うに言えないでいる。
たまに遭難が起こった時に「山をなめてはいけない」発言が飛び出して来る、と。
私自身はマラソンも登山もどちらもやっているため、
実力は低いながらも両方の感覚が良く理解出来てしまう。
1つ言えるのは「装備は体力に反比例している」となる。
体力があればあるほど装備は少なくて済む。
何故なら通過時間が短いため装備は当然要らなくなるのである。
分かり易い例で言うとこうなる。
私自身はかなり昔から災害対策に興味があり、
どこに行く時でも、その距離を考えて、徒歩で帰れるための装備を必ず持参する。
以前は10kmくらい離れた場所に行く時でもかなりの重装備で行っていた。
しかしフルマラソン能力を持つと10kmどころか20km離れた場所でも、
心理的に非常に楽に軽装備で行けてしまえる。
もちろん今の私にとって20kmとは簡単に走って行ける場所だからだ。
けれどもそんな私でも奥高尾縦走路が走れないのも分かっている。
フルマラソンタイムが遅過ぎるからだ。
つまり心肺機能がそこまで強くない。
フルマラソンをサブ4とかサブ3で走れる凄いランナーの場合、
奥高尾縦走路の感覚は、
登山者で考えるところの高尾山のみの登山くらいの体力で行けてしまえる。
それほど体力差がある訳だ。
強力、マラソンランナー、アスリートなどの世界の体力は、
一般人が週に1回は登山に行ってますレベルの体力とは桁が1つ違う。
強靭な体力を持った者と一般人の体力では、
何から何まで違っていて、
それは一般人の想像すら軽く超えて来るから厄介だったりする。
大切なのは、登山者の中にもトレイルランナーの中にも、
山をなめている者がいる、と言うのは間違いない現実だと思う。
そうでなければ遭難者は増加などしない。
現在は残念ながら山岳遭難の増加傾向は止まらない。
(警察庁統計)
終わり