「富士登山と高山病」
富士登山競走について書いていたら、
高山病についても思い出したので改めて書いてみたい。
富士登山を成功させるために最も重要な要件は、
・体力(最低でもハーフマラソン級)
・天気(雨風が強かったら出来ないと言うよりマジで死ぬ)
・高山病(想像以上に非常に厄介)
の3つに絞られて来るかと。
他にも山小屋事情や装備の問題等もあるが、
上記の3つは特に難しくハードルが高い。
今回は高山病に特化して書いて行く。
≪5人で登山したら1人は高山病で登れない≫
くらいに思っておいた方がいい。
初めてグループでの富士登山をする場合、
絶対に登れなくなった人のための下山方法を予め予定に入れておかないと非常に危険だ。
誰が付き添って下りるのか、と。
あるいは一蓮托生にするのか。
富士登山は簡単だと思い込んでいる人は想像以上に多い。
子供だって登っているから、と言うのがその理由の最たるものにも見える。
あるいは簡単だと言う事で見栄を張りたいヤツの虚勢か。
簡単だ、などと言うようなオレ様一番系の戯言を信じたら命に関わって来るので要注意だ。
実際の富士登山は物凄く過酷であり、
体力にプラスして高山病と言う非常に厄介なモノを食らうため、
より難度が高くなっている。
日本で2番目に高い山は南アルプスの北岳だが3193mに過ぎない。
この標高は5段階の高所分類に従うと「高所(2500~3500m)」となり、
それなりに注意をしないといけない標高ではあるものの、
この高さは富士山だと八合目付近に過ぎない。
ちなみに富士山の3776mと言う標高は、
前述の高所分類だと日本で唯一の「高高所(3500~5800m)」となり、
これは人間が生存出来る最後の層となる。
ちなみに高高所の上は「超高所(5800m以上)」となり、
ここでは人間は生存出来ない。
エベレストなどの5800mを超える山の登山では、
必ずベースキャンプを5800m以下の場所に設置し、
短期決戦で臨んでいる。
超高所で滞在期間が長引くと人間は高所衰退と呼ばれる現象が起きて、
衰弱してやがて脳浮腫や肺水腫で死んでしまう。
富士山は高高所になるため、
やはり3500mを超えて来る九合目付近からはレベルが違って来てしまう。
高山病の症状は、
倦怠感、疲労感、眠気、頭痛、吐き気、嘔吐、チアノーゼなどがあり、
最終的には脳浮腫、肺水腫で死に至る。
残念ながら高山病が悪化したら下山する以外に方法はない。
問題は誰でも高山病の影響はある、と言う一点に絞られて来る。
どんな人間でも標高が3000mを超えて来たらかなりの影響が出始める。
この場合、どんなアスリートでも全く同じだ。
症状の軽重の違いはあるが、
100mを10秒で走るアスリートが、
標高3776mで10秒で走れるのかと言うと、絶対に出来ない。
ちなみにアスリートではないが、
ある若者が彼女の前でカッコを付けたかったらしく、
頂上で全力疾走を試みたらしい。
どうなったのかと言うと。
数十m先で「泡を吹いて倒れて救助隊のお世話になった」そうだ。(苦笑)
高山病の症状は誰でも現れると思っておいた方がいい。
重いか軽いかだけの違いだ。
従って登山続行か下山かの判断は想像以上に難しい。
頭痛薬を使う人もいるし、酸素缶を使う人もいる。
だが、いずれも公式では推奨されていない。
それどころか止めた方がいいと言われている。
(その理由は今回は割愛)
また、高山病の予防治療薬もあるが、
指定医の処方が必要なのと、
そもそも疲れなくするものではないため、
どう判断するのかは各個人に委ねられている。
また、高山病に強いのか弱いのかは、
低酸素室を持っているような練習施設に行けば、
有料でチェックはしてもらえ、ある程度は分かるが、
最終的に富士山に登れるのかどうかは登ってみない事には分からない。
ではどの程度の登頂確率なのかと言うと、
天候リスクも入って来るため全体的には50%程度だとしている資料は多い。
高山病リスクは前述したように5人集まったら1人は登れないくらいに思っておくべきだろう。
ちなみに大人気の登山アニメ「ヤマノススメ」でも、
初めての富士登山挑戦では、
5人ほどで臨み、他ならぬ主人公が高山病で敗退するシーンが描かれていた。
この描写は非常にリアルだった。
実際に他の多くの体験談を読んでもそんな感じだ。
子供はさらに登頂確率が低くなる。
典型的な富士登山ツアーの体験談だと、
30人の老若男女で構成されていた場合、
普段から運動している中高年以下の半数が登れて、
子供と高齢者は全滅して八合目で待機、
と言った感じになる。
子供でも登れる場合は登山エリート家族の子くらいに思っておかないと非常に危険だ。
ちなみに昔、知り合いの当時小学生だった子供がグループで富士登山に挑戦したが、
子供たちは全員高山病により確か七合目で敗退している。
もちろん高齢者も登るのは非常に難しくなって来る。
余程トレーニングをしていないと物凄く危険になると思う。
終わり
余談:
非常に恐い事も書いておきたい。
高山病は身体を鍛えているはずのアスリートでも罹る。
弱いか強いかは本当に行ってみないと分からない。
私の知っている例では、
フルマラソンをかなりのスピードで走り切る人が2名いたが、
その2人は2回富士登山に挑戦しながらも、
2回とも高山病で敗退していた。
八合目まで行くともう倦怠感や頭痛でヘロヘロになり登山続行が不可能になっていた。
ちなみに富士登山で高山病の死亡例は、
一応私が確認した資料だと過去に2名は記録されている。
いずれも確か脳浮腫か肺水腫で亡くなっていて、
2人とも20代の大学生だった。
さらに念のため。
毎年毎年、僅か2ヶ月くらいの富士登山シーズンだが、
その僅か2ヶ月の間に20~30万人の健康自慢が集まって臨むのが富士登山だ。
その中に数人~6人くらいは毎年必ず死んでいる。
これが遭難者数になると、何と60~80人ほどになる。
つまりシーズン中の富士山では毎日遭難者が出ている計算になる。
余談2:
私が一昨年の、初めての富士登山吉田ルートにおいて、
確か七合目の山小屋の前で高山病によりチアノーゼになっていた人がいた。
6~7人のグループ登山で、20代前半の大学生の一団に見えた。
こうなると登山続行は不可能だ。
その後どうしたのかは分からないが、
チアノーゼまで進んでしまっていたら、
一刻も早く下山しないと命に関わって来る。
その時はリーダーらしき男子が、
「みんな止まれっ!!おいっ!!オマエの唇の色が変だぞっ!!
誰か酸素缶持っていたよな!!早く持って来てくれっ!!」
と言っていたのと山小屋の目の前だったので大丈夫と判断し、
私は登山を続行した経緯がある。
ちなみに酸素缶は気休めにしか過ぎない。
富士山八合目診療所の医師が、
「富士登山では高度順応が一番大切で、
酸素缶はせっかく順応しかけたのをリセットしてしまうので、
余計に悪化する。」
と言っていたが確かにそう思う。
いずれにしても高山病が悪化したら一刻も早く下山すべきだ。
どんなアスリートでも残念ながらチアノーゼや肺水腫、脳浮腫を起こしたら登山など出来る訳がない。