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「えちぜん鉄道」(福井県)は,勝山永平寺線(福井駅-福井口駅-永平寺口駅-勝山駅,27.8km),三国芦原線(福井駅-福井口駅-あわら湯のまち駅-三国港(みくにみなと)駅,26.7km)の2路線,軌間:1067mm,電圧:直流600Vからなる第三セクター鉄道です。二度の正面衝突事故により国土交通省中部運輸局は運行停止命令を発令し京福電気鉄道越前線全線は運休となり,京福による営業再開は困難な状況に陥り福井県主導で沿線自治体と民間が出資する第三セクター鉄道「えちぜん鉄道」(2002(平成14)年9月17日設立)に経営が引き継がれました。新生「えちぜん鉄道」は,女性アテンダントを乗務(各地域鉄道で見られる女性アテンダントの先駆け的存在)させ,昼間時30分ヘッドの運転を維持し旅客増加に努めました。
2016(平成28)年3月27日,「えちぜん鉄道」三国芦原線:田原町駅-鷲塚針原駅間(6.0km)と「福井鉄道」福武線:田原町駅-越前武生駅間(20.9km)で低床車両を使用して相互直通運転が開始されました。事業者の異なる,本来直通運転が想定されていなかった鉄道と軌道が相互乗り入れを行うのは日本で初の事例となります。「えちぜん鉄道」と「福井鉄道」は2012(平成24)年12月から「フェニックス田原町ライン」をキーワードに連絡乗車券の発売を開始しました。利用者数は相互乗り入れ開始前の2015年度が約4万9100人に対して,相互乗り入れ開始後の2016年度は約13万2600人,2017年度は約14万500人と2年間で約3倍に増加しています。
福井駅周辺の連続立体化工事(福井駅-福井口駅間)にともない,2015(平成27)年9月27日から2018(平成30)年6月23日まで北陸新幹線の高架躯体を借用して,「えちぜん鉄道」の線路を移設して,福井駅・新福井駅の2駅は北陸新幹線高架躯体に仮設されて営業されていました。これは旧線跡に「えちぜん鉄道」の高架を完成させるための一時的な措置でした。一時的とはいえ1963(昭和38)年阪急電鉄京都線以来となる「新幹線の路盤の上を走る民営電車(今回は線路の幅も異なります)」が約2年半見る事が出来ました。
在籍車両は撮影時点で,MC5001形1両(京福引継ぎ車両),MC6001形2両,MC6101形12両,7001形2連編成6本12両,福井鉄道直通用L形「ki-bo(キーボ)」2両(超低床車両2連節車体),電気機関車(凸型電機)ML521形2両(ML521,ML522)の計31両です。
【7001形】
老朽化したMC2101形,MC2201形,1101形:計10両の置換用として「JR東海」から119系5300番代(2連編成:クモハ119-5300+クハ118-5300,飯田線用・ワンマン化改造車・インバータ制御の冷房装置を2台分散配置)を譲受し,「大阪車輌工業」・「阪神車両メンテナンス」にて「えちぜん鉄道」仕様に改造のうえ,2013(平成25)年から2014(平成26)年にかけて2連編成(MC7001形+TC7002形)6本12両が導入されました。「えちぜん鉄道」初のVVVFインバータ制御車両で,TC7002形は「えちぜん鉄道」初の制御車両(モーター無し)となりました。
主な改造内容:【外観】:前面形状(デザイン)の変更,前照灯の位置変更(尾灯上部から貫通扉上部へ),前面下部覆い(排障器・スカート)取付,乗降扉横の乗客用の乗降扉開きスイッチ(客室の乗降扉開閉スイッチも含む)の撤去,貫通幌・幌枠・渡り板の撤去,塗装変更(青色・黄色・白色)など。
【機器関係】:制御装置を抵抗制御からVVVFインバータ制御に変更,補助電源装置の静止形インバータ装置(SIV)に換装,電動空気圧縮機とブレーキ抵抗器の取換え,パンタグラフをひし形1基からシングルアーム式2基(離線対策)をMC7001形に搭載,屋根上冷房電源用DC-DCコンバータ(架線電圧DC1500Vを600Vへ降圧する装置)の撤去,室内灯・前照灯・尾灯・行先表示灯全てのLED化など。
【客室】:腰掛モケットの変更,TC7002形の便所設備の撤去・便所反対側の腰掛を撤去し車椅子スペース新設,「えちぜん鉄道」仕様の運賃表示器・両替機付き運賃箱・設置と整理券発行機位置変更など。
【乗務員室】:運転台を高運転台から低運転台化改造(「えちぜん鉄道」では,運転士が乗務員扉窓から後方確認のうえ扉開閉スイッチを操作するため(L形,相互乗り入れの福井鉄道F1000形は除く)運転士の動作に支障が出るため),ワンマン放送装置の交換(廃車車両から流用),列車無線装置の交換(無線機番号は廃車車両の番号を引き継ぐ)など。
▲7001形(クハ(TC)7002形)7002-(モハ(MC)7001形)7001,「普通 三国港」行(1539M 福井駅15:41発-三国港駅16:28着)が北陸新幹線の高架躯体を借用した区間を走行します。 TC7002形に搭載の補助電源装置が新しい静止形インバータ(SIV)に換装されています。
▲7001形MC7001-TC7002,「普通 三国港」行(1539M 福井駅15:41発-三国港駅16:28着)が北陸新幹線の高架躯体に仮設された新福井駅に停車しています。MC7001-TC7002の種車はJR東海119系R1編成(クモハ119-5318+クハ118-5311)で,2013(平成25)年2月4日から営業運転を開始しました。 7001形は前面は大幅に改造され種車の面影が全くありませんが,側面は種車119系の面影が残っています。
以上2点,三国芦原線・勝山永平寺線新福井駅にて
▲7001形:MC7011-TC7012,「普通 福井」行(1538M 三国港駅15:39発-福井駅16:31着)。種車は119系R8編成(クモハ119-5305+クハ118-5303)で,MC7005-TC7006と同じくイベント対応車両です。MC7011-TC7012の車内にはモニターが3台設置されています(MC7005-TC7006は未確認)。MC7009-TC7010以降は屋根上の雨水や鉄粉,錆が車両前面に流れ込まないよう(水垢が垂れ前面が汚れるのを防ぐ)運転台屋根上部に高さ2センチほどの流込防止板が新設されました。
三国芦原線・勝山永平寺線福井駅にて
【7001形車内】
▲7001形MC7011の車内。7001形の車内は種車119系とほぼ同一仕様のセミクロスシートで,固定クロスシートも存置されていますが,腰掛モケットは交換されています。MC7011-TC7012はイベント対応車両で,乗降扉付近の天井にはモニターが3台設置されています。乗降扉下部分は注意喚起のため黄色となっています。
▲TC7002形の車端部。種車119系クハ118形5300番代にあった便所は,「えちぜん鉄道」への入線に合わせて撤去されてフリースペースとなっています。便所の反対側にあった腰掛も撤去され新たに車椅子スペースとして整備されました。連結部分の妻引戸(扉)は乗客の移動の支障となるため撤去されています。画像はTC7012の車端部です。※画像は一部加工しています。
【7001形運転台】
▲7001形MC7012の運転台。種車119系時代は高運転台でしたが,「えちぜん鉄道」入線にともない低運転台化改造が行われています。運転台機器は種車の119系のを基本的に流用していますが,主幹制御器(マスターコントロラー・マスコン:左側)とブレーキ装置の間にあるワンマン装置は「えちぜん鉄道」の廃車車両から流用したものに交換されています。マスコンに装備されていた抑速ブレーキは撤去されています。運転台メーター類は種車119系時代同様6連メーターですが,右から3個目のメーターが制御空気溜め圧力計から電流計(右振力行時,左振回生時)に交換されています。
【7001形の台車】
▲7001形の台車はMC7001形・TC7002形とも種車119系のもの(MC7001形:コイルバネ式 DT-33形・TC7002形:コイルバネ式 DT-21T形)がそのまま流用されています。
【MC6101形】
「京福電気鉄道」から継承した車両の老朽化置換用として,「愛知環状鉄道」の100形(Mc:電動制御車・片運転台)・200形(Tc:制御車・片運転台)・300形(cMc:電動制御車・両運転台)を譲受し,「名鉄住商工業」・「阪神車両メンテナンス」で「えちぜん鉄道」仕様に改造のうえ,2004(平成16)年から2006(平成18)年にかけて12両導入されました。
主な改造内容は,100形が種車の車両は200形の運転台を切断のうえ100形に接合し両運転台化(MC6101,MC6102,MC6103,MC6107,MC6108,MC6109,MC6110)が7両,残りの5両は300形が種車で600V降圧化,ワンマン運転化改造,モーターをMT46からMT54に載せ替え,補助電源装置の静止形インバータ(SIV)に交換,冷房装置・空気圧縮機の取換え,ホームと車両の接触対策として車両の四隅を若干切欠く工事など。
MC6103以降は,運賃表示器の変更,ヒーターの増設,新設計の冷房装置(MC6101・MC6102はCU77N,MC6103以降CU77N-1)を導入,歯車比を変更(5.6から4.82に)するなど仕様変更が行われています。
▲MC6101形6102+MC6101形6101,「普通 福井」行(1438M 三国港駅14:39発-福井駅15:31着)。 MC6102の種車はMc100形102,MC6101の種車はMc100形101で,「えちぜん鉄道」入線にあたりTc200形の運転台部分を切断しMc100形に接合して単行両運転代化が行われています。台車は種車の軽量ボルスタレスエアサス式 日車ND-708型がそのまま流用されています。外観は愛知環状鉄道時代の姿を90%以上残す車両です。
三国芦原線鷲塚針原駅にて
▲将来の北陸新幹線高架橋を走行するMC6101形6105+MC6101形6107,「普通 福井」行(1238M 三国港駅12:39発-福井駅13:31着)。MC6105の種車はcMc300形301,MC6107の種車はMc100形107で,MC6103以降の屋根上の冷房装置は新設計の物を搭載しており,上記画像のMC6102+MC6101の屋根上冷房装置と異なるのが判ります。
三国芦原線・勝山永平寺線新福井駅にて
【MC6101形車内】
▲MC6101形MC6105の車内。MC6101形は種車時代と同じくロングシート・固定クロスシートのセミクロスシート配置となっています。ロングシートは戸袋窓部分に設置され真ん中の乗降扉部分は3人掛け,両端乗降扉部分は2人掛けとなっています。座席の座面はバケットタイプになっています。
【MC6101形の運転台】
▲MC6101形MC6105の運転台。運転台機器は種車のものを流用していますが,ブレーキ弁は交換されています。制御装置とブレーキ弁の間にあるワンマン機器は「えちぜん鉄道」入線時に設置されました。
【L形(「ki-bo(キーボ)」】
2016(平成28)年3月27日より開始された「えちぜん鉄道」三国芦原線田原町駅-鷲塚針原駅間と「福井鉄道」福武線田原町駅-越前武生駅間の相互直通運転(直通運転列車は「フェニックス田原町ライン」の愛称があります)用として「えちぜん鉄道」初の自社発注車両車両として導入されました。「福井鉄道」F1000形(愛称は『FUKURAM』)に準じた新潟トランシス製の超低床車両ですが,F1000形は3車体3台車の連節車なのに対してL形は2車体2台車の連節車となっています。集電装置(パンタグラフ)を搭載するA車,搭載しないB車からなります。客室は腰掛は2人掛のクロスシートを基本とし,連節部付近の乗車扉前には優先座席となるロングシートが配置されています。2両(L-01A-B,L-02A-B)が導入され固定ダイヤで運転されています。
▲L形『ki-bo』(L-02B-Aと思われますが車両番号を確認していないので断定できません),「急行 鷲塚針原」行(1415R 越前武生駅14:12発-鷲塚針原駅15:09着)が終着駅となる三国芦原線鷲塚針原駅の低床車両専用ホームに続く線路に入線するのを行違うMC6101形MC6105(+MC6107),「普通 福井」行の車内から撮影しました。本当は駅から入線するところを撮影したかったのですが,それだと新福井駅で7000形の撮影に間に合わないので車内から撮影しました。
【福井鉄道F1000形『FUKURAM』】
福武線で使用されている車両は2006(平成18)年に大半の車両が名古屋鉄道から譲受した小型の低床車両に置換られましたが,朝夕ラッシュ対策から従来の大型車両(200形・600形・610形)も引き続き併用されていましたが,大型車両は床が高くホームとの段差が大きいためバリアフリーや環境対策などに応えるべく,「人と環境にやさしい」をコンセプトとした新型車両F1000形を2013(平成25)年に1編成(F1001編成),2015(平成27)年に1編成(F1002編成),2016(平成28)年に2編成(F1003・F1004編成)が導入されました。F1000形は福井鉄道初の全面超低床車両で,新潟トランシス製です。車両は1車体1台車の3連節で構成され,長さ27.16m,定員は国内の超低床車両としては最大の155人(座席定員53人)で,新潟トランシス製低床車両としては初の3車体連節車です。 外観デザインは沿線の仁愛大学の学生が六つの案を作成し福井県民に投票で選らばれています。車両の愛称名は「FUKUI(福井県)」と「TRAM(トラム)」の造語で『FUKURAM』です。
▲「えちぜん鉄道」三国芦原線に乗り入れた「福井鉄道」F1000形F1004編成,「急行 越前武生」行(1450R 鷲塚針原駅14:49発-越前武生駅15:47着)。 F1000形の側出入口(乗降扉)は大型曲面ガラス付き両開きプラグドアを既存車両と合わせて片側に4か所設け,各ドアの有効開口幅は1,250㎜で車内乗降口のステップが無くなり非常にスムーズな乗降が可能となっています。
【並び】
▲三国芦原線鷲塚針原駅で並んだ『えちぜん鉄道』MC6101形MC6104,「普通 福井」行(1408M 三国港駅14:09発-福井駅15:01着)と『福井鉄道』F1000形F1004編成,「急行 越前武生」行(1450R 鷲塚針原駅14:49発-越前武生駅15:47着)。 鉄道と軌道の相互直通運転は日本初の出来事で新時代の到来を実感する光景です。
▲三国芦原線新田塚(にったづか)駅で行違う「福井鉄道」F1000形F1004編成,「急行 越前武生」行(1450R 鷲塚針原駅14:49発-越前武生駅15:47着)と「えちぜん鉄道」7001形TC7012-MC7011,「普通 三国港」行(1439M 福井駅14:39発-三国港駅15:28着)。「軌道線」用車両と「鉄道線」用車両の大きさが異なるのが判る光景です。 新田塚駅は「鉄道線」用島式ホームは以前のままで,線路を挟んで両側に相対式状に「軌道線」用低床ホームが新設されています。
【新福井駅の光景】
▲三国芦原線・勝山永平寺線福井駅-新福井駅間は2015(平成27)年9月27日から2018(平成30)年6月23日まで北陸新幹線高架橋を借用した複線となっていました。 新福井駅の先で下り線と上り線が合流して単線となり新幹線の高架躯体から地平へ降りる下り勾配の仮設橋に差し掛かります。MC6101形MC6108,「普通 勝山」行(1325K 福井駅13:25発-勝山駅14:19着)車内。
▲新福井駅は相対式のホームで福井行ホームに地上への階段とエレベーターが設置されており,三国港行・勝山行ホームへ向かうには構内踏切を渡る必要があります。高架躯体に構内踏切が設置されているのは珍しいです。茶色のビル右側に見える赤い建物が高架化された「えちぜん鉄道」福井駅です。
▲高架化工事が進んでいる新福井駅を北陸新幹線高架橋に仮設された新福井駅から見ます。高架工事は大分進んでおり,2018(平成30)年6月24日より使用開始されています。福井駅-新福井駅間は単線の高架となっています。
「えちぜん鉄道」は魅力満載なの鉄道なので,次回はゆっくりと撮影したいと思いました。