一方で、通貨先物のマーケットにはヘッジファンドや金融機関などの通貨に対する見通しが反映されているため、為替レートの方向性をみるデータとして注目される材料となっています。この側面にフォーカスしてみましょう。
■ IMMポジション(IMM Position)
米国最大の先物取引所であるシカゴ・マーカンタイル取引所(CME、Chicago Mercantile Exchange)の一部門として1972年に設立された「IMM(国際通貨市場、International Monetary Market)」では、メジャー通貨の通貨先物が上場され、活発に取引されています。CFTC(全米商品先物取引委員会、Commodity Futures Trading Commission)は、毎週火曜日の取引終了後に各取引所からIMMの各通貨に関するロング(買い)/ショート(売り)・ポジションに関して報告を受け、その週の金曜日に「COT(Commitments of Trades)」として公表しています。
このデータは、ドル・ストレートの通貨先物取引を集計されたものなので、米ドルに対する各通貨ごとのポジション状況がわかる仕組みになっています。特に、商業部門(Commercial)と非商業部門(Non-Commercial)の2つのカテゴリーに分かれているのですが、この非商業目的のものはヘッジファンドなどの投機筋の予想を反映したデータとして重要な位置付けにあります。これを「IMM投機筋ポジション(IMM Non-Commercial Position)」または単に「IMMポジション」といいます。(商業目的のものは”実需筋”という位置付けです。)
このIMMポジションのデータをいくつかの通貨についてみてみましょう。(左縦軸はIMMポジションのロング分からショート分を引いたネットの金額を示しています。公表データは、通貨先物の1契約単位(枚数)で示されており、JPY:1,250万円、EUR:125,000ユーロ、GBP:62,500ポンド、AUD:100,000豪ドル、CHF:125,000スイスフラン、NZD:100,000NZドル、CAD:100,000カナダドルでそれぞれ換算する必要があります。)
まずは、JPYのIMMポジションです。(通常、USD/JPYの為替スポットレートの表示は、円安で↑、円高で↓と、円貨価値に対して逆方向で示しますので、IMMポジションの金額をショートで↑、ロングで↓と逆転させています。)
グラフで示されている通り、IMMポジションの円ショートが増えれば円貨価値が低下し円安方向(↑)、円ロングが増えれば円貨価値が上昇し円高方向(↓)に為替スポットレートが振れているのがわかります。
次に、EURのIMMポジションをみてみましょう。
ユーロでも、ユーロ・ロングの場合では、ユーロの通貨価値が上がり、EUR/USDの為替スポットレートがユーロ高に傾いていることがわかります。反対に、ユーロ・ショートであればユーロ安の方向に転換していることがみてとれます。
その他の通貨でも為替スポットレートの推移との相関性が高く、為替動向のポテンシャルを捉えるうえで投機筋の相場観で形成される通貨先物のポジションがとても有用な情報を含んでいることが示されています。これまでの情報を整理すると、次のようにまとまります。
- 通貨先物のロング/ショートは通貨価値の次の方向性を示している
- 通貨先物の金額は次の相場展開の圧力の大きさを示している(金額が高ければ大きく動きやすいということ)
ただし、このIMMポジションは一気にロング/ショートが反転するケースもあることや、必ずしもヘッジファンドなどの投機筋全体を捉えきれているわけではないことに注意が必要です。
そして、このデータの活用方法としてもう一つあげられます。それは、IMMポジションがドルストレートのデータであり、JPYのショートがUSDのロングを意味していることにフォーカスしてみれば、メジャー通貨のロング/ショートのトータル・ネットがUSDの逆のポジションとなることに気付きます。つまり、基軸通貨であるUSDの通貨ポテンシャルがわかるのです。
7通貨のUSDベース金額のネットにマイナスを掛けたものをUSDのIMMポジションとしてみることができます。そいて、基軸通貨であるUSDがどの程度の通貨価値であるのかを捉えるために重要なベンチマークとなるのです。
このようにIMMポジションは将来の為替スポットレートの動向やそのポテンシャルをみるうえで、なかなか面白い情報を提供してくれることがわかりました。一方で、通貨先物は機関投資家やヘッジファンドなどの運用ツールとして活用されています。その代表的なストラテジーが「キャリー・トレード(Carry Trade)」です。そして、このような運用ストラテジーはマーケット自体にも大きなインパクトをもつことがあるのです。
次回はそのキャリー・トレードをみていくことで、もう少し為替市場に対する理解を深めてみましょう。