今週の自由研究レポート

ロダン作《地獄の門》に造形され表現されている人物たちをその出典から紐解きます

こちらが地獄の門

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上野の国立西洋美術館の前庭にあります。(国内だと静岡県立美術館にもあります。)

これは”近代彫刻の父”オーギュスト・ロダンが一生かけて手を加え続けた作品で、中世フィレンツェの詩人ダンテ・アリギエーリ『神曲・地獄篇』の世界観をベースに構想されました。

門の表面には地獄にうごめく人々が180人以上も表現されているそうです!!

その中に、いくつかは出典が明らかな人物がいますので、そこからどんな罪びとが表現されているのかを探ってみたいと思います。

 

ちなみに『神曲・地獄篇』とは…

「ダンテがある森の中で迷い、3匹の猛獣に出会い進退窮まったとき、古代ローマの詩人ウェルギリウスに助けられ、彼が地獄を隅々まで案内してくれる」的なストーリーの詩です。地獄では罪の種類と重さによって罰が与えられて、罪ごとにそれぞれ第1~第9の圏谷に罪人が割り振られています。それぞれの場所で罰を受ける人々をダンテは目にします。それぞれの圏谷に古代の有名人から、聖書の人物、神話の人物、ダンテの知り合い等たくさん登場します。)

まずは地獄の門について

「地獄の門」は『神曲・地獄篇』の第3歌に出てくる地獄の入口にある門です。

神曲ではその門に銘文が刻まれていると書かれています。

刻まれているのは数行の詩ですが、翻訳が古文みたいだったのでさらに意訳してみました。

 

<地獄の門の銘文>

私を過ぎて人は憂いの街(=地獄)に、永遠の悩み(=地獄の尽きない苦患)に、滅びの民(=罪の魂)に行く。

天の正義である父(権威)と子(叡智)と精霊(愛)の力が私を作った。

私より先に永遠なもの(諸天・天使)の他には創られたことがなく、私は永遠に続く者だ。

私をくぐる者は一切の望みを捨てよ。

 

それでは出典別に造形された人々を見ていきます

今回はダンテ『神曲・地獄篇』に登場する人たちについて

神曲からのモチーフは3つ存在します

「パオロとフランチェスカ」「ウゴリーノと息子たち」「絶望する若者と女のケンタウロス」です。

「パオロとフランチェスカ」

出典『神曲・地獄篇・第5歌』

ダンテが地獄の第二圏谷で出会った二人。二人の悲恋のいきさつを聞いたダンテは、深い憐憫の情が起きて気を失ってしまいます。

 

この、「地獄の第二圏谷」は「ふしだらで情欲の罪を犯した魂が呵責され、罪の魂は地獄の暴風に煽られ、暗い空で吹きまわされている所」です。

 

二人の物語:ジョバンニと政略結婚をしたフランチェスカですが、義弟のパオロと恋に落ちてしまいます。二人が禁じられた恋の物語「ランチァロット(騎士ランスロットの物語。アーサー王の円卓騎士の一人で、王妃ギネーヴァとの不義の恋を書いた物語)」を一緒に読んで感動し、キスを交わします。それを知ったジョバンニに剣で二人は刺し殺されます。

作品中のパオロとフランチェスカ

二人をモチーフにした作品は門の中に5か所もあります。

左の柱の上に《虚しき愛》(←単独の作品としても発表された時の作品名を《》で表記)

多分この部分

右の柱の下に《接吻》

左扉の下の方に《パオロとフランチェスカ》

右扉中央と右下に2つの《フギット・アモール》(※フギット・アモール=ラテン語で「逃れ去る愛」)

「ウゴリーノと息子たち」

出典『神曲・地獄篇・第33歌』

ダンテが地獄の第九の圏谷の第二円アンテノーラで出会い話を聞いた男。

 

この、「地獄の第九の圏谷」は「堅い氷の国で、罪の魂たちが氷詰めにされている所」です。ここは4つの環濠になっていて「第二円」には「国や街に弓を引いた者」が堕とされています。

 

ここでダンテは氷詰めにされて頭だけが地表に出ている魂たちを見ます。一人の男が、目の前の男の後頭部に食らいついたまま氷漬けになっていました。ダンテはウゴリーノ伯(食らいつく男)が地獄に堕ちてもなおルッジェーリ大司教(食われている男)に向ける強い増悪を目撃し、話を聞きます。

 

ウゴリーノ伯:13世紀のピサの貴族のウゴリーノ・デラ・ゲラールデスカ。

ピサの大司教ルッジェーリに謀られて、4人の子や孫たちと共に塔に幽閉され餓死させられた。(こうした過去から、自らを裏切った上に監禁・餓死させられたルッジェーリを恨み、頭蓋を執念深く嚙み砕き続けています。)

 

ウゴリーノの罪は「祖国への反逆」と「子と孫たちを飢えから食べた」こととなっているようです。(が、神曲では子と孫を食べたと断言はしていません、におわせてはいるけど…えー?

ダンテがなぜウゴリーノを裏切り者の中においたのかという理由・意味は研究者によっても意見が分かれるところのようで不明ですしょんぼり

作品中のウゴリーノと息子たち

左扉下《ウゴリーノと息子たち》

「絶望する若者と女のケンタウロス」

出典『神曲・地獄篇・第12歌』

ケンタウロスとは:ギリシャ神話に登場する上半身が人間・下半身が馬の種族。好色で酒好きの暴れ者とされています(地方により諸説あり)。戦で弓矢・槍・棍棒を使用。人間と獣、理性と本能の両方を併せ持つ存在とされます。

 

神曲の中のケンタウロス:地獄の第七の圏谷において、生前人を虐げた暴君たちを血の川で懲らしめる獄卒の役目を果たしています。ダンテが第七圏谷を訪れた際には、ケンタウロスのネッソスという一頭に守られ、案内され、背に乗せてくれて血の川を渡ります。

 

女のケンタウロス(ケンタウレ):紀元前5世紀の画家・ゼウクシスが考案したとされていますが、神学文学の裏付けはないようです。

作品中の絶望する若者と女のケンタウロス

左柱の中程から少し上の部分《絶望する若者と女のケンタウロス》

(あ、向きがおかしい。ごめんなさい。この中にあると思うけどどれか分かりませんあせる

終わりに

以上が『地獄の門』内で造形される『神曲・地獄篇』を典拠とするモチーフでした。

次回は『ギリシャ神話・ローマ神話』からのモチーフを見ていきたいと思います。

 

ここまで見ていただきありがとうございますニコ

 

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追記

《地獄の門》関連のまるこの記事まとめ

導入(大好きな『地獄の門』の前で思い出すロダンとカミーユとダンテ)

【ロダン作《地獄の門》に造形される人物たちをその出典から紐解く】シリーズ

《地獄の門》について、ダンテ作『神曲・地獄篇』から出典の人物

『ギリシャ神話・ローマ神話』から出典の人物

詩から出典の人物、その他の人物

番外編

 

 

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