私の親友は、偶然にも、生年月日と血液型が同じだ。
高校の同級生だった彼女とは、大学は私は東京、彼女は大阪、と別々、その後、私が地元の四国で就職したときは彼女はシアトルに留学していて、その後は東京で就職し、大学の同級生で長年付き合った彼と結婚、今は埼玉に住んでいる。
だから、私が7年前に関東に再びやってきて就職するまでの約15年間は、お互いずっと遠く離れた別々の場所で生活していた。
にもかかわらず、彼女とはずっと付き合いが続いていた。
変わったことと言えば、彼女は20代後半に原因不明の病気 -体の抵抗力が強すぎて、手足がしびれて普通に動けなくなる- になってしまったことだ。
長い距離を歩けず、一緒にどこかへ遊びに行くことができなくなってしまった。
年々ひどくなっているようで、7年前に私が関東に移り住んできた際には、
旦那さんに腕を支えられながら、何とか埼玉から千葉の私の新居に来てくれたものだが、
今はタクシーを使って病院へ行く以外、ほとんど外に出られなくなってしまった。
だから、私たちが会うときは、いつも私が彼女の家へ行き
彼女がたっぷりランチを準備してくれて
食べながら話すというパターンだ。
お互いの誕生日には、毎年カードを送りあう。
これまで、つらいときにはよく彼女に話を聞いてもらって、助けられてきた。
その親友、トモにももちろん彼のことを話してあった。
ただ、彼と会ったことはなく、私から話を聞いているだけであったが
前から彼のことをあまりよく思っていない様子だった。
最終的には「かえでがいいと思うのなら、まあいいんじゃない」とは言ってくれたが、
彼がデートのときこんなことを言った、などと伝えると
「なにそれ?私だったらけんかになっているよ」
「私だったら『しつこい』って言い返すよ」
「かえでは人が良すぎるよ。まあ、それがお嬢育ちのかえでのいいところなんだろうけど」
「きついことを言ってごめん。でも、かえでには幸せになってほしいから、変な人につかまってほしくない」
と、大手を振って賛成はしてくれてないようだった。
彼女はその病気でつい最近まで入院していたようで、
退院して落ち着いたころ、久しぶりにメールがきた。
「その後、彼とはどう?しっくりきている?」
「GWには私の実家に一緒に帰った。結婚後はマンションを買おうと思ってて探してる。近々不動産へも行くつもり」と簡単に近況報告をした。
そのときもらった返信は、いろいろ言いたいことがあるんだけど、またゆっくり、といった内容だった。
物件を見に行った翌日、トモから電話があった。
昨日マンションを見に行った、という話になり、
名義が私だというのを聞いて、すごい剣幕で話し出した。
「名義がかえで?それは絶対おかしい。普通は男性が名義になるもんだよ。それか共働きなら半分か、いや、普通は男性が女性より多くて3分の2か。それが全部かえでって・・・」
「ああ、それは彼は今、一戸建てのローンを払ってて、彼の名義にすると審査に通らないだろうから。
でも、その他の生活費なんかは彼の給料からやっていくから、同じだよ」
「でも一旦、名義にすると、何があってもずっと払わないといけないんだよ。女性を名義にして買わせるなんて。かえでに払わせといて、都合のいいときだけその家に帰って、あとは帰らないとか、生活費を渡さないとか、マンションの契約金か頭金を不動産に渡すと偽って自分がもらって、そのお金を持って逃げるとか・・・。危ないよ。絶対にやめとき!」
「それに最初は彼の今住んでいる家に一緒に住むって言ってなかった?でもまあ、そこも前の家族と一緒に住んでいた家でしょう?私だったら嫌だけど」
「そう、最初はその彼が住んでいる一戸建ての家に住むはずだったんだけど、近所の人がかえでを見て『あの人だれ?』っていう目で見られるかもしれないし、それに父も毎日家に来る(一室をオフィスにしていてそこに経理の仕事に来ている)から、かえでも住みにくいんじゃない?って彼も言ってたから、別のところに住んだほうがいいってことになった」
「それだって、本当に心配なんだったら、俺がかえでを守ってやる、っていうくらいじゃなきゃ」
「それに結婚式だって挙げてもらえないんでしょう?お金も払いたくないし、体裁も悪いんでしょう?」
「その彼の人格を疑うよ。あんた騙されてんとちゃう?最初からおかしかったやろ?離婚したばかりなのにすぐ結婚って。一生懸命甘いことば言って急いで結婚に持ち込もうとして。だいたいお金にきちんとしてない人にロクな人はいないよ」
「かえでにはもっとふさわしい人がいるよ。本気でいいパートナーを見つけようと思うなら、そんな出会い系のサイトじゃなくて、最初に何十万も払うきちんとした結婚紹介所みたいなところで見つけるべきだよ」
「絶対騙されてるよ」
「いや、今まで接してみて、そんな人じゃないと思う」
「私、最初からずっと思ってたけど、かえでは騙されてるんだよ。目を覚ましてよ」
「でもね、こんなに気が合う人ってもう他にはいないと思う」
「それだって合わせてくれてたんじゃないの?騙すためには必死だよ」
「実家に来てもお母さんに結婚させてくださいって何も挨拶しなかったんでしょう?」
彼をずっと見てきて、そんな人じゃないと思いつつ、そう言われると、私も自信がなくなってきた。
こんな何のとりえもない、しかもアトピー持ちの私を真剣に好きになってくれるはずはなかったのだろうか。
愛していると思われていたのは、全て偽りで、彼の計算の上だったのか。
ずっと、幸せになるのが素直に喜べない、これがいつか砕け散ってしまうのだろうか、と恐れていたが、やはりそうなのだろうか。
そうか、心から好きになった人に愛されるという、こんな夢みたいなことはやはり現実には起こりえないのだ。
どんどん悪いほうへと考えてしまっていく。
「トモは最初から彼のこと、あまりいい風に思っていなかったよね。それはどうして?出会いがネットだったから?」
「いや、それは一種のお見合いみたいなもんだから、それ自体はそんなに悪いとは思わない」
「じゃ、彼がバツイチだから?」
「いや、バツイチが決して悪いとは思わない」
「じゃ、なぜ?」
「やっぱりそのマンションのお金のことが一番。それに前にかえで言ってたでしょう。仕事が終わったら晩御飯食べない、とその日急に直前に何度か誘ってきて。急に仕事が空くって、仕事ちゃんとやってるのか?と思っていた」
「結婚前に彼の正体がはっきり分かってよかったよ。もういっぺんよく考えてみ。かえでには、幸せになってほしいから」
その日、いつものように彼から電話があった。
「もしもし」
「あれえ、どうしたの?今日テンション低いじゃん、何かあった?」
「いや」
マンションの話を始める彼に
「あのね」
「うん?」
「マンション、買えないかもしれない」
「どうして」
「うん、ちょっと・・・。今ははっきり言えない。明日には言えると思う」
このとき、母に相談してみようと思ったのだ。
そして相談して、母もトモのように言うんだったら、間違いないと思ったのだ。
「気になるなあ。今言えないの?」
「うん、ごめんね」
涙が出てきた。
「俺がかえでの力になれるかもしれないよ。どうかな」
「今は言えない」
「わかった。じゃ、待つよ」
電話を切ったあと、すぐにメールがきた。
「何かごめんね。理由はともあれ、女性を泣かすなんて最低だよね。明日また電話します。おやすみ」
複雑な気持ちだったので、返信はできなかった。